大神HCとのSNS上のやり取りがWリーグデビューにつながった桂葵 photo by Murakami Shogo第2回(全3回):32歳のルーキー・桂葵インタビュートヨタ自動車アンテロープスで奮闘する32歳のルーキー、桂葵がWリーグという最…


大神HCとのSNS上のやり取りがWリーグデビューにつながった桂葵

 photo by Murakami Shogo

第2回(全3回):32歳のルーキー・桂葵インタビュー

トヨタ自動車アンテロープスで奮闘する32歳のルーキー、桂葵がWリーグという最高峰の舞台で奮闘している。自身にとって5人制バスケをプレーするのは大学4年時以来、実に10年ぶりのこと。

高校、大学と全国トップレベルの選手として活躍しながら就職を機に競技から離れ、その後3x3(スリーエックススリー/3人制バスケ)の世界で選手、そして経営者として日々過ごすなか、なぜ5人制のバスケット、しかもトヨタ自動車にたどり着いたのだろうか。

第1回〉〉〉桂葵が自ら選択してきた人生の決断とその道のり

【本当に夢中になれることって、そんなに多くない】

――2022年に3x3の日独混合チームZOOSを立ち上げ、好成績も残した桂選手が今シーズン、Wリーグ・トヨタ自動車アンテロープスに入団したニュースには驚きました。どのような経緯で加入が決まったのでしょうか。

「今年の夏、遠征で2カ月くらいヨーロッパを回っていたんですけど、それが終わってもヨーロッパが好きで日本に帰ってきたくなくて。それで、SNSで『帰国するモチベーションをください』みたいな質問箱をやってみたんです。そしたらシンさん(トヨタ自動車・大神雄子ヘッドコーチ)が『帰ってきたら、名古屋で会うっていうのはモチベーションにならないかな?』みたいな感じで返事をしてくれて。

 シンさんからは『話したいこともあるんだけど、もしよかったら練習に参加してくれない?』みたいにも言ってもらいました。チームの人数が少なくて、練習では男子選手に参加してもらうこともあると聞いていたので、私もそういう練習相手かなと思って行ったんですけど、意外とやれたというか、よかったんだと思います。それで1日目の練習が終わったあとに、シンさんが『トヨタ、どうかな?』と打診をくださったんです。

 それがもう8月末の話で、リーグの選手登録期限も迫っていて、ほとんど即決で決めないといけない状況のなか、『ぜひ、お願いします』と加入を決めたんです。8月末に練習に来て、9月2日に入団のリリースが出たので、自分でも状況がよくわからないうちに入っていました」

――32歳でのWリーグデビューは、前例のないことです。そこに挑戦する価値を見出したという部分はありましたか。

「そういう意図は、まったくなかったです。奇をてらったことをしたいわけじゃないし、何か人と違うことをやりたいとか、『チャレンジしています、私』というのを大切にしてるわけでもない。社会に出て7年間サラリーマンをやって、それなりの経験というか、違う世界を見て、3x3では国内も、世界も見てきました。その上で、本当に夢中になれることって、人生においてそんなに多くないんじゃないかなと思ったんです。

 自分の能力として、どんな環境に身をおいていてもそれなりに楽しむことができる気がするんですけど、もしかしたら、バスケから得られる高揚感みたいなものは換えがきかないものなんじゃないかっていうのを、この30年をかけて気づいた感じです。

 その意味ではやっぱりレベルは高いほうが楽しいし、自分がうまくなっていく、コンディショニングが上がっていく実感にも楽しさがあったんです。

 いまだに『伸びしろ(がある)』って言われるんですよ。そう言われて多少、うれしさはあります。私、まだうまくなれるんだっていううれしさです。だけど、さすがにこの歳になると恥ずべきものでもあるんじゃないかなと思う部分もあります。この伸びしろを埋めてみたい、うまくなりきりたい。私はもう、ここまでの選手だって思える瞬間があるんだったら、その瞬間にたどり着いてみたい」

【チームが勝つために役に立ちたい】

――興味深いです。

「10年間、まともにトレーニングもしてこなかったし、5人制のブランクもあるし、(トヨタ自動車のチームメートの)山本麻衣や安間志織が積み上げてきた強靭な肉体、繊細な筋肉たちは一朝一夕には身につかない。例えば麻衣ちゃんとか志織に『伸びしろだね』って言う人って、少ないと思うんですよ。

 なので、こうやってトップのカテゴリーに身をおいてバスケットを仕事にしている以上は、伸びしろがあるなら埋めていきたい気持ちがあって、それを考えた時に、Wリーグでチャレンジをしたら何か見えてくるのかな、伸びしろもちょっと埋まるかなって思ったんです」

――年長者が年下に教えを請うというのは、一般的には恥ずかしくてなかなかできないことかもしれません。桂選手はいかがですか?

「もう全然、恥ずかしくないです。なるべく早くコーチ陣や麻衣ちゃんが見ている世界を見たい。解像度を早く上げていきたいというのはあるので、まだまだですけど、最近ようやく、スタートラインに立てたかな、と。最初の1カ月半、2カ月くらいはチームルールも私が大学までやっていたものとは違ったので、もはやサッカーのフォーメーションを覚えているような感覚でした。

 なので、全部が新しくて、別競技ですね。10年ぶりにやってますというより、新しい競技にチャレンジしている。3人制に出会った時と、もしかしたら同じような感覚かもしれないです」

第3回につづく

●Profile
桂葵(かつら・あおい)/1992年9月2日生まれ、東京都出身。身長182cm。小学生時代からバスケを始め、桜花学園高、早稲田大時代は全国トップレベルで活躍したが、大学卒業を機に競技生活に区切りをつけ、三菱商事に就職。社業に専念にしていたが、3年のブランクを経て3x3(スリーエックススリー/3人制バスケ)の選手として競技に復帰すると、2022年には3x3チーム運営やコミュニティ運営を中心に展開する「ZOOS」を設立し、自身はZOOS代表兼選手としてプレーする一方、今シーズンからWリーグ・トヨタ自動車アンテロープスに加入。10年ぶりに5人制バスケットで奮闘している。