■『走らないバスケ』で挑んだ最後の大舞台 部員が6人から5人になり、最後は4人での戦いを強いられた。 12月23日、和歌山南陵…

■『走らないバスケ』で挑んだ最後の大舞台


 部員が6人から5人になり、最後は4人での戦いを強いられた。

 12月23日、和歌山南陵高校(和歌山県)は『SoftBank ウインターカップ2024 令和6年度 第77回全国高等学校バスケットボール選手権大会』1回戦で県立長崎工業高校(長崎県)と対戦。立ち上がりから互角の戦いを繰り広げたが、惜しくも勝利には届かなかった。

 今年の部員は3年生6人のみ。そのため、同校の和中裕輔コーチはスタミナ面を考慮した『走らないバスケ』をテーマにチームづくりをしてきた。この戦術が功を奏し、夏のインターハイでは価値ある1勝を挙げた。

 6人でも全国で通用することを証明した和歌山南陵は、今回のウインターカップに向けても順調に準備を進めてきた。しかし、大会約1カ月前に留学生のアリュウ イドリス アブバカが急遽チームを離れることに。和中コーチによれば、彼の進路の関係で帰国を余儀なくされたという。

 迎えた“5人での戦い”は、「今まではずっとシックスマンでした」という中村允飛が開始から積極的にシュートを放ち、第3クォーターを終えて7点ビハインド。選手交代を繰り返して常にフレッシュな5人がコートに立つ長崎工業に対し、懸命に食らいついた。

■練習もしていない“緊急事態”


 しかし、2点差まで迫った第4クォーター残り6分42秒、インサイドで体を張り続けた紺野翔太が痛恨のファウルアウト。大会前、4人になった場合の練習はしてきていない。和歌山南陵はこのアクシデントをきっかけに引き離された。それでも最後まで下を向かず、最後の40分間を戦い抜いた。

「退場してしまいましたけど、コート外からでも最後まで戦っているみんなに声をかけ続けてました。5人でしたけど、自分なりには最後まで頑張れたと思います」(紺野)

「まだ最後のブザーまで時間がありましたし、4人でも勝てる可能性もあったと思います。勝ったら次の試合で翔太も出られるので、また5人でコートに立ちたいという気持ちでプレーし続けました」(中村)

 キャプテンで得点源でもある二宮有志はこの日、3ポイントシュートの成功が2本のみの計12得点。「個人としてはもっと確率良く点を取りたかった」と悔いたが、「周りのみんながカバーしてくれたのでやっぱり心強かったです」と仲間を称えた。

■溢れる感謝の思い「この1年間本当に楽しかった」


 二宮は地元の愛知県から和歌山南陵の門を叩いた。学校側の経営難により苦しんだ時期も多かったが、その分、クラウドファンディングなどによりたくさんの方々に支えられて今があることも事実だ。

「この3年間辛いこともいっぱいありました。それでも逃げなかった5人でこの舞台に立てて、最後まで戦えたことはすごくうれしいです。南陵に残ってよかった、この5人で最後まで戦えてよかったなって思える試合でした」(二宮)

 和中コーチは、そんな彼らたちに感謝の言葉を送った。

「望んだ結果ではありませんでしたが、今日の試合というよりかは、この1年間、弱音も吐きながらも本当によくここまでついてきてくれました。彼らがいなければ指導者の僕も成り立たないですし、僕も彼らに感謝の気持ちでいっぱいです。この1年間本当に楽しかった。本当にありがとうという言葉をかけたいと思います」

 タイムアップと同時に、藤山凌成の3ポイントが綺麗にリングに吸い込まれた。最終スコア64-80。それはまるで、いろんな想いが乗ったシュートのように思えた。

取材・文=小沼克年