) 2022年9月、本当の自分と真白優希というレスラーのイメージの乖離から精神を病み、引退を発表。その後、真白はひとり暮らしを始め、1カ月は家に引き籠もっていたが、「このままではいけない」と古着屋でアルバイトを始めた。半年後に「別の仕事をし…

 2022年9月、本当の自分と真白優希というレスラーのイメージの乖離から精神を病み、引退を発表。その後、真白はひとり暮らしを始め、1カ月は家に引き籠もっていたが、「このままではいけない」と古着屋でアルバイトを始めた。半年後に「別の仕事をしたい」と思い、女性専用ジムのパーソナルトレーナーを始めた。知識も必要とされ、女性同士の距離感も難しかったが、やりがいを感じながら働いた。



2022年に一度引退するも、2024年1月に現役復帰した真白優希photo by 林ユバ

 引退後もプロレスは好きで、試合を観戦しに行くこともあった。2023年11月7日に開催された、黒潮TOKYOジャパン自主興行『どのツラさげて帰ろうか』にも足を運んだ。WWEを解雇された黒潮にとって、初の凱旋試合である。

 バラモン兄弟と場外で水を掛け合う黒潮を見て、真白は「私はこれをやりたかったんだ!」と思った。お客さんとこんなにも一体化し、お客さんを楽しませる黒潮が眩しく見えた。またリングに立ちたい――。自分でも不思議なくらいにそう思った。

 とは言え、「復帰したい」と気軽に言えるものではない。考えあぐねていた真白に、「そんなに意志が強いなら戻ってきなよ」と言ったのは、アイスリボンの先輩・星ハム子だった。そこから社長に会いに行き、とんとん拍子に復帰が決まった。

 2024年1月27日、後楽園ホール大会の対真琴戦で現役復帰を果たす。摩訶不思議なスタイルは変わらないが、黒潮の影響で「お客さんを巻き込む」ということを意識するようになった。

「前はお客さんの顔を見られなくて下を向いたりしてたんですけど、復帰してから顔を上げて、お客さんひとりひとりの目を見て試合ができるようになりました。煽ったり、目突きをしたり、お客さんを巻き込みたいと常に思っています」

【給料未払いでフリーになるも、「アイスリボンに恩返しをしたい」】

 2月10日、道場マッチにて、1年以上封印状態にあったトライアングルリボン王座のベルトを持って登場。引退時に所持しており、返上はしていない。自分がまだ王者であると主張し、3月23日に後楽園ホール大会で行なわれた決定戦に勝利。あらためてトライアングルリボン王者となった。

 トライアングルリボン王座は、プロレス界で唯一の3WAY(3人の個人、またはタッグチームが同時に闘う試合)のタイトルである。3WAYの面白さについて、「いろいろな形の技が見られるのが魅力」と話す。

「3人で試合をするのってすごく難しいんですけど、『3人で丸め込みができるんだ』とか、シングルやタッグマッチでは見られない部分が3WAYでは見られる。すごく面白いと思いますね」

 10月19日、後楽園ホール大会にて、ガンバレ☆プロレス所属のYuuriを破り、ついに団体最高峰のベルト・ICE×∞王座を獲得。「へなちょこ真白」と呼ばれていたデビュー当時からは想像もつかないほどの強さを見せつけた。しかし試合後のマイクで、彼女の口から出たのは意外な言葉だった。「株式会社アイスリボンの五嶋(一人)社長と連絡が取れないなか、今日を迎えるのがすごく不安でした」――。

「9月25日の給料日、8月分の給料が振り込まれなかったんですよ。五嶋さんに連絡したら『明日払います』と言われたんですけど、次の日も支払われなくて。また連絡したら、そこから連絡が取れなくなりました。今も連絡は取れていないです」

 これを契機に、芦田美歩が無期限の欠場に入り、10月30日の道場マッチで紫雷美央、咲蘭、芦田美歩、古川奈苗が12月31日をもって退団することを発表する事態に発展。そして真白は11月1日、記者会見を開き、10月末で所属契約を解除し、11月からフリーで限定参戦することを発表した。

 フリーになったのは「給料未払いが大きい」としながらも、「ここまで育ててくれたアイスリボンにはこれからも参戦したい」と話す。アイスリボン退団後、「マリーゴールドに移籍するのでは?」という噂が流れたが、現段階ではこれを否定。マリーゴールドにもあくまでフリーとして参戦するつもりだ。

「アイスリボンに恩返しをしたい気持ちはすごくあるんですよ。団体が嫌いであの発言(10月19日、後楽園ホール大会)をしたわけではないし、ベルトを持っているからには今後もアイスリボンを盛り上げていきたいです」

【お客さんを笑顔にできるチャンピオンになりたい】

 2022年末、心を病んで一度は引退した。社会に出て働く中で考え方が変わり、気持ちの面でも強くなったという。昔は「私なんてどうしようもない......」と自分を責め続けていたが、今の真白は「自分はなんでもできる!」とポジティブ全開だ。自分の心をケアすることができるようになったのは、父の存在が大きいという。

「相談せずに引退しちゃったので、父はそれをニュースで知ったんです。かなりショックだったみたいですが、それからいろんな話し合いをして、たくさん助言をしてくれました。復帰することになった時は、誰よりも喜んでくれましたね」

 強いチャンピオンになりたい。しかしそれ以上に、お客さんを笑顔にできるチャンピオンになりたい。試合を観てくれる人たちの希望になれるように、今はプロレスととことん向き合うつもりだ。

 最終的には「海外に行きたい」という気持ちが大きい。目指すのはズバリ、世界最大のプロレス団体・WWEだ。しかしその前に、日本でやりたいことがたくさんある。「自主興行をやりたい」「路上プロレスをやってみたい」と、目を輝かせる。12月25日に初のファンイベントを開催するのも、やりたいことのひとつだ。

「ファンの方には感謝しかありません。復帰した時、『戻ってきてくれてありがとう』と言ってくれる方も多くて、本当に救われました。その方たちに感謝の気持ちを伝えたくて、クリスマスにイベントを開催することにしたんです。気合を入れてサンタコスを着ようと思っています。たくさんお喋りしたいですね」

 夢は、「真白優希選手を目指してプロレスラーになりました」と言われる存在になること。今の真白なら、きっと近い将来、夢を叶えることになるだろう。

【プロフィール】
真白優希(ましろ・ゆうき)

2001年4月18日、兵庫県生まれ。高校3年間、アイスリボンのプロレスサークルに通い、卒業後に入門。2020年8月9日、横浜文化体育館大会にて4対4のイリミネーションマッチでデビュー。2022年1月16日、トライアングルリボン王座を戴冠。同年12月31日、引退するも、2024年1月27日、後楽園ホール大会にて現役復帰。10月19日、YuuRIを破り、ICE×∞王座を戴冠。給料未払いを契機に、10月末で所属契約を解除し、11月からフリー。153cm、47kg。X:@mashiro_yuki89