ゴールボール日本代表の国際競技力向上を目的に海外から強豪チームを招いて開く国際大会、「2024ジャパンパラゴールボール競技大会」が11月22日と23日の2日間、所沢市民体育館(埼玉県所沢市)で開催された。これまでは女子チームが対象だったが、…

ゴールボール日本代表の国際競技力向上を目的に海外から強豪チームを招いて開く国際大会、「2024ジャパンパラゴールボール競技大会」が11月22日と23日の2日間、所沢市民体育館(埼玉県所沢市)で開催された。これまでは女子チームが対象だったが、今大会は初めて男子チームの大会として開かれ、オーストラリア、ポーランド、そして日本代表AとBの4チームが出場した。


表彰式・閉会式を終え、健闘を称え合う全チームの選手・スタッフたち

日本にとっては金メダルに輝いたパリパラリンピック以来となる国際大会。パリ大会代表6人に次世代の若手選手らを加えた12人を、ポジションなどを考慮して2分割したチーム編成で臨んだ。4チーム総当たり戦を経て準決勝、3位決定戦、決勝が順に行われ、決勝でオーストラリアがポーランドを7-2で下して優勝。3位決定戦の末、6-4で勝利した日本Aが3位、日本Bが4位となった。順位的には残念な結果だったが、パリ大会日本代表ヘッドコーチ(HC)で、今大会は日本Aを率いた工藤力也HCの受け止めはポジティブだった。

「決勝で日本チーム同士がぶつかることをイメージして準備していた。準決勝でA・Bどちらも勝てなかったのは今の力。金メダルチームだから順当に勝てるわけではない。学ぶものが多い大会だった」

金メダリストの日本に対し、オーストラリアとポーランドは世界ランキングでも格下ではあったが、両チームとも体格では勝り、攻撃はパワフルで守備範囲も広い。さらにオーストラリアは2032年に自国開催となるメルボルンパラリンピックを控え鋭意強化中で、ポーランドもゴールボール強豪国の多いヨーロッパの中で切磋琢磨しながら力をつけている。


優勝を決め、喜ぶオーストラリアチームの選手たち

一方の日本は、パリ代表メンバーの多くがパリ大会後に約1カ月休養し、練習復帰から間もないタイミング。そして、不運なことに、強化拠点であるナショナルトレーニングセンター(NTC)・イーストで事故(*)があり、直前練習にも影響し、チームワーク醸成も含めコンディション的には万全とは言えなかった。(*: 11月14日、1階エントランス付近の壁が崩落。原因究明や安全対策などを理由に当面の施設利用が休止に)

金メダリストの凱旋試合としてハイレベルなパフォーマンスや結果も期待される中、工藤HCはあえて、ベスト6人で編成する「日本代表」でなく、全12選手で2チーム出場する形を要望したのだという。「この大会は、(連覇を狙う28年の)ロサンゼルス大会に向けてのスタートとなる大会。(パリ代表6人の)トップ選手のさらなる成長と、6人を脅かすような若手選手に国際経験を積ませたいという思いがあった」と意図を説明。指揮官のそんな狙いを背負い、日本チームは何をつかんだのだろうか。

好調な予選ラウンドから一転、準決勝で苦杯

日本Aはパリ大会代表の金子和也、田口侑治、萩原直樹の3人に、東京パラ代表の山口凌河、そして、本格的な国際大会は初となる永野陽希と山本秀幸の6選手。ただし、田口はパリ大会でのケガの影響からベンチスタッフとしての参加に留まり、エースの金子は今大会直前の体調不良で欠場となり、4選手で戦う苦しい布陣となった。

それでも、センターの萩原は、「得点源の金子選手がいないことは本当に痛手。でも、金子選手がいないことで他の選手の出場時間が増えるなど、そこはチームとしてプラスに捉えている」と前を向き、金子と同じレフトウイングの永野は、「金子選手がいなくて、ひたすらにアピールのチャンスかなと思っている」と意気込んだ。


ボールに飛びつく萩原直樹(左)とカバーに入る永野陽希

実際、日本Aはチーム一丸で快進撃を見せた。4チームによる総当たり戦が行われた大会初日はポーランドを14-6で、オーストラリアを8-4で、日本Bは接戦の末に9-8で下し、3勝全勝の1位で、2日目の準決勝に駒を進めた。だが、予選4位のオーストラリアと戦った準決勝で日本Aは序盤から先行され、前半を1-4。後半も点差は広がり、結局、2-10と圧倒され、決勝進出を逃した。

萩原は、「日本の皆さんにゴールボールを見ていただくチャンスだったのに、思うような結果が出せず、悔しいの一言に尽きる。Aチームは4人で回し、初日は体力的にもしんどい試合が続いた。疲労が溜まっている中で準決勝のオーストラリア戦に臨み、うまく合わせられずにもったいない試合をしてしまった。僕自身は守備でやられた部分がある。海外選手独特のボールをもっと受けて、4年後に向かっていきたい」と悔しさをにじませた。

日本Bは、パリ大会代表の宮食行次、佐野優人、鳥居陽生の3人に、東京パラ代表の川嶋悠太と国際経験豊富なベテランの信澤用秀、そして、国際戦初出場の行弘敬祐がエントリーされた。佐野は、「日本チームの底上げのために新しいメンバーも含め、みんなの個性が出て、いい大会にしたい」と挑んだ。

総当たり戦ではオーストラリアを4-1で下し、ポーランドは13-3と圧倒したが、日本Aには8-9で惜敗し、2勝1敗で予選2位となった。準決勝は同3位のポーランドとの再戦となったが、先制を許すと、そのまま5-8で敗れた。

Bのキャプテンを担った宮食は、「勝てる相手だったのに落としてしまったのはすごく悔しい」と振り返り、オーストラリアやポーランドが日本に勝って喜ぶ姿に、「追われる立場になったと改めて感じた。勝つべき相手にはしっかり勝たないといけないという気持ちもさらに強くなった。これからも一球一球、全力プレーで行きたい」と力を込めた。


スロー動作に入る宮食行次(中央)。左手前は鳥居陽生、右奥は行弘敬祐

一方で、「個人的にはパリが終わって燃え尽きていないかと不安だったが、試合をしたら燃える気持ちが戻ってきた」と安堵し、チームとしては、「パラが終わって一旦フラットになり、若手も含めて競い合う感じが出てきている。今大会で若い選手たちが海外選手に対し長いプレー時間を持てたことは良かったし、日本チーム同士の試合は2試合とも接戦になり、観ている人には面白い試合になったのでは。ロス大会に向けて、男子チームは明るい第一歩が踏み出せている手応えがある」と、好感触を得たようだ。

鳥居は今大会を「国内で海外選手と試合ができる数少ない機会」ととらえ、「個人的に今後、取りくんでいきたいことをぶつけることができた」と振り返った。パリ大会ではチーム最年少だったが、今後は、「チームの軸となる選手を目指しているので、1球に対する思いや毎日をどう過ごすかなど、もう1度詰めて頑張っていきたい」と思いを新たにした。

存在感をそれぞれアピールした次世代選手たち

パリ大会期間中は中継番組の解説者として活躍した永野は、「日本代表のレベルの高さに感動しつつ、『次は自分の番だ』という目でパリ大会を見ていた」と振り返り、今大会は「それぞれの持ち味を出そうとチームで話していた。僕は間(ま)をずらした攻撃での得点や相手の嫌がるボールを的確に投げる力を発揮したいと思っていた」といい、実際に積極的な攻撃で貢献した。


積極的な攻撃でアピールした永野陽希(右)。右奥の山口凌河も得点力が持ち味

山本は今秋、育成選手から強化指定選手に上がったばかりだが、今大会はメインポジションのセンターだけでなく、チーム事情からライトに入る時間帯もあった。それでも、「全体的に落ち着いてプレーできた。守備は自信をもってやっている」と頼もしい。行弘は、「日本では味えない、海外選手のとてつもない強いボールやすごく手前から打ってくる速いボールにもしっかりと対応できた」と自信を得た。ミスもあり、「メンタルの弱さも感じたが、国際大会のような緊張する舞台じゃないと得られない経験。失敗も次に活かしたい」と前を向く。

宮食は若手の成長について、「めちゃくちゃ伸びているので驚異に感じている。でも、僕自身が多くの先輩からアドバイスをいただいてきたように、自分も持っている技術やメンタリティは余すことなく、若い選手に還元しようと思っている。その上で僕が乗り越え、さらに上を行けばいい」。まだまだ譲るつもりはない。

工藤HCは、永野にはミスもあったが、「同じ轍を踏まない修正力の高さ」を、山本には「音を聞く能力の高さとメンタルの強さ」を感じたと言い、行弘には、「田口や萩原というツートップがいるセンター陣を脅かす選手になってほしい」と期待を寄せた。さらに、山口の守備力の成長も評価するなど、チーム内に世代交代や競争心が感じられ、「求めていた以上の収穫がある大会になった」と、うなずいた。

連覇を目指す4年後のロサンゼルス大会に向け、パリ大会の成功体験であるフィジカル強化に再度取り組むとともに、海外チームを招いての合同合宿なども計画中だという。「若手を成長させながら最終的にトップ6人に絞り、ピークを合わせたい」と話し、まずは最短で出場権獲得のチャンスとなる2026年に開催予定の世界選手権を目標に挙げた。

敗戦の悔しさからつかんだことは多い。チーム内の競争激化も進化には欠かせない。オリオンジャパン男子のこれからに、目が離せない。