【まさかのミスからのスタート】 フィギュアスケートの全日本選手権男子シングルは、有力選手の全員が初優勝を意識して臨んだ。そのなかでも、一歩抜け出していたのがやはり鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)だった。全日本選手権で初優勝を果たした…

【まさかのミスからのスタート】

 フィギュアスケートの全日本選手権男子シングルは、有力選手の全員が初優勝を意識して臨んだ。そのなかでも、一歩抜け出していたのがやはり鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大学)だった。



全日本選手権で初優勝を果たした鍵山優真

 12月20日のショートプログラム(SP)では、ライバルの三浦佳生(オリエンタルバイオ/明治大学)と佐藤駿(エームサービス/明治大学)にともに転倒があり80点台と出遅れたなか、鍵山は92.05点で1位発進となった。だが、悔しさも残った。

 慎重さが伺える滑り出しだった。最初の4回転サルコウは、軸が動くジャンプながら耐えると、次の4回転トーループ+3回転トーループは確実に決めた。だが、シットスピンの後のトリプルアクセルは、前向きに着氷し転倒。鍵山にとって珍しい、大きなミスとなった。

「カロリーナ・コストナー先生からは『一つひとつのエレメンツを考えて』と言われていたので、4回転を2本降りた後もいけるとは考えず、冷静にやろうとだけ思っていました。でも、ふとノーミスがよぎって力が入ってしまったのか、アクセルがちょっと変な感じになってしまった。ただ全体的には変な緊張もせず、最初から最後まで冷静にできたと思います。アクセルのミスはあったけどその後のステップもしっかりと感情を出せたと思うので、そのあたりは今シーズンのなかでも良かったのではないか」

 鍵山がこう話すように、他の要素はGOE(出来ばえ点)加点もしっかり稼いで、傷口を大きく広げることはなかった。

【満足の演技後に宇野昌磨を真似たポーズ】

 翌21日のフリーは、各選手がプレッシャーのなかで荒れる展開になった。最終組1番滑走の佐藤と3番滑走の三浦はともにミス連発で230点台にとどまった。SP3位の友野一希(第一住建グループ)も序盤の4回転はすべてミスをして230点台。その時点での暫定1位はSP14位から盛り返して合計を247.31点にした壷井達也(シスメックス)だった。

 ジュニアの中田璃士(TOKIOインカミラ)が合計263.99点にして暫定トップに立った後、最終滑走の鍵山がリンクに立った。

「ショートが終わった時点で"今日は今日、明日は明日"と考えていた。このスポーツはメンタルがすごく大事になるから全力でやりたいっていう気持ちと、滑る前に(コーチの)父(正和氏)から『全力で戦って来い』と言われ、闘志だけをしっかり燃やして臨みました」

 鍵山は最初の4回転フリップを高さもあるジャンプとし4.71点の高い加点をもらうと、4回転サルコウや4回転トーループ+3回転トーループ、トリプルアクセルからの3連続ジャンプを着実に決める安定感を見せた。

 ただ後半は「ちょっと足が疲れてしまう部分があった」と、4回転トーループと3回転フリップ+ダブルアクセルでは着氷を乱してわずかに減点。それでもミスを最小限に抑え、演技後は氷上に大の字に倒れ込んだ。

「(大の字に寝そべるポーズは)宇野昌磨さんがやっていたのを見ていたので、最終滑走でいい演技をしたらちょっとやってみたいと思っていて。前の(中田)璃士君に先にやられちゃったけど、やってみたかったのでやりました(笑)。すごく気持ちよかったです」

 得点は、今季目指していた200点台の205.68点。合計を297.73点にして圧巻の初優勝を果たした。

「後半は多少のミスはあったけど、自分の中のやるべきことはすべて出しきれたかなと。演技内容自体はよかったと思います。結果も優勝することができて次の一歩に進めたのでないかと思います」

【大技を入れた4回転5本構成に挑む】

 期待されながら崩れてしまう選手が多くいたなか、鍵山の優勝は順当ともいえる結果。だが鍵山にとっては、意味がある勝利だった。

「いつも冷静で感情を思いっきり外に出すことはないので、父が感動して涙を流してくれていたのはすごくうれしかった」(鍵山)という、父の正和氏のキス&クライでの涙。正和氏は「この大会にかける思いは多分、優真以上に私のほうが強かった」と話す。

「親子で優勝(※正和氏は現役時代に全日本3連覇)というのではなく、優真がこれでやっと世界を狙っていけると言えるのかなと思います。やっぱり全日本タイトルを持ってこそ世界のてっぺんを見据えていけるというのはずっと思っていたので、やっとリスタートという感じです。これを持っているか持っていないかで、世界のトップを狙う、狙わないという言葉の重みも違ってくる」

 全日本王者のプライドがあってこそ、いざという時の勝負への執着心も変わってくる。タイトルを保持する意味の重さを、正和氏は強調するのだ。

 鍵山はこう話す。

「これからは全日本王者と紹介される場面も多くなってくると思うし、そういうところをしっかりと背負っていかないといけないと思っています。恥じぬような演技や行動をしっかりとしていきたいです」

 今後のプランについては、こう語った。

「(全日本のフリーは)3回転フリップ+3回転ループのところを3回転フリップ+ダブルアクセルにレベルを落としていたので、年明けの試合ではフリップ+ループにあらためてチャレンジしたい。そういうところから攻めていかないと、今のままでは本当に強いライバル選手がいる世界選手権で表彰台に上がれるかどうかも危ないラインだと思うので、日々120%出しきれたと思うような練習を積み重ねて頑張っていきたい。

 4回転ルッツももちろん、練習や曲かけに入れてやっていきたいです。僕のなかでの理想の最終的な構成はルッツも含めた4回転5本構成なので、しっかりと体力もつけて体も鍛えて、いい演技ができるように日々努力していきたいと思います」

 初優勝は、ともに歩み続ける鍵山親子にとって、次へ向け気持ちを高める大きな収穫だった。