代理人・ウルフ氏は佐々木の人生観を含めて今回の決断を説明 photo by Sugiura Daisuke後編:佐々木朗希のメジャー挑戦は、なぜ今なのか?ポスティングシステムを利用して、メジャー移籍を進めている佐々木朗希。最終的な球団決定は…


代理人・ウルフ氏は佐々木の人生観を含めて今回の決断を説明

 photo by Sugiura Daisuke

後編:佐々木朗希のメジャー挑戦は、なぜ今なのか?

ポスティングシステムを利用して、メジャー移籍を進めている佐々木朗希。最終的な球団決定は来年の1月15日以降と見られているが、なぜ佐々木は巨額の契約を得られる2年後まで待たずに、自身の評価から著しく低い契約になる今、渡米を決断したのか。

代理人を務めるウルフ氏は、佐々木の人生観を例に挙げながら説明した。

【「何事も当然のことだと思っていないことがわかる」】

「ポスティング制度ゆえ、交渉期間が45日に限定される(佐々木朗希の)交渉状況について、可能な範囲で質問に答えたい」

 今年はテキサス州ダラスで行なわれたMLBオフシーズン最大のイベント、ウィンターミーティング中の12月10日――。大手代理人事務所ワッサーマンのジョエル・ウルフ氏の会見は、そんな言葉で始まった。千葉ロッテマリーンズからポスティングシステムを通じてメジャー入りを目指す佐々木の注目度の高さを示すように、この日のメディアセッションには約100人の記者が集結。米メディア約28分、日本メディア約12分という長い質疑応答の間、辣腕代理人はひと言ひと言選びながら、確認するかのように言葉をつないだ。

「長い間待ったあとで、ついに(メジャー入りを)進められることにロウキは非常にハッピーで安堵している。千葉ロッテやNPBの最高のファンが落胆していることも理解しているが、MLBでいいプレーをして、彼らにも敬意を表すことを望んでいる。多くの人にとって理解が難しいのはわかっているが、彼にとって長い間の夢だった。いつかみんなに理解して、受け入れてほしい」

 ここでは多くの質問が飛び交ったが、端的に言って、焦点は"佐々木がなぜこの時点でメジャー入りを進めるのか"に絞られた。佐々木はまだ23歳ゆえに、"25歳ルール"の対象。得られるのはマイナー契約のみのために契約金の額が低く抑えられるにもかかわらず、なぜここでの渡米を決めたのか。

「高校時代からずっとメジャーリーグに来ることがロウキの夢だった。ダルビッシュ有、田中(将大)、松坂(大輔)のような選手たちに憧れて育った。それこそが彼がずっとやりたかったことだ」

 佐々木のメジャー志向はかなり早い段階から伝えられており、もちろん「Dream comes true」のためというのは大前提にはある。ただ、早期移籍の根拠はそれだけではあるまい。ウルフ氏は佐々木の幼少期の経験を決断の理由として挙げ、その言葉はより説得力を持って響いてきた。

「彼の人生で起きたいくつかの出来事、悲劇を見れば、何事も当然のことだと思っていないことがわかる。彼は世界をとても違った目で見ていると思う」

 佐々木がまだ9歳だった2011年3月。東日本大震災が発生し、祖父母と37歳だった父を亡くした。家も津波で流され、岩手県の陸前高田市から大船渡市への転居を余儀なくされた。幼少期からこんな経験をすれば、"人生に当たり前のことはない"と考えるようになっても不思議はない。それと同時に、"自身にとって大切なことをあと回しにしたくない"と考えても当然かもしれない。

「私もこのゲームに長い間、関わってきたが、ロウキの観点ではベースボールにも人生にも、絶対的なものはない。だから彼に"2年後に3〜4億ドルの契約が取れるから"とは、私も言えない。状況次第ではそうなる可能性もあるが、ケガは起こるし、いろいろなことが起こるからだ」

【「ロウキを説得できる人は誰もいない」】

 ウルフ代理人はそう語り、「今後、何があるかはわからない。いずれトミー・ジョン手術を受けることだってあり得る」とも話していた。実際に佐々木はこれまでさまざまな故障に見舞われてきた投手であり、その耐久力の乏しさゆえに"メジャーへの準備"という面では疑問が呈されてきた。逆にいえば、このようにいつ大きな故障があるかもわからないからこそ、なるべく早く最終目標の場所にたどり着き、そこでの成長を臨んだ部分があったのだろう。

 自身の意思、希望を貫き通す過程で、異論、批判が出てくるのは覚悟のうえだった。ほかならぬウルフ氏ですらも、「非常に困難になることはわかっていたし、(当初は)実現させるために何かできると、彼に保証もできなかった」と振り返ったほどだ。それでも「彼は、メディアから多くの批判を受けることになるとわかっていたし、実際に批判された。それでも決意を固め、決してあきらめなかった」と続けた百戦錬磨の代理人の言葉からは、わが道をゆく佐々木の姿勢へのリスペクトが確実に感じられた。

「ロウキを説得できる人は誰もいない。ロウキが私たちを説得する。彼は自分で自分の船を操縦し、彼がボスだ」

 すでに争奪戦は動き出しており、当然のように多くのチームが獲得を目指すと明言している。ロサンゼルス・ドジャースが本命、サンディエゴ・パドレスが対抗馬という見方が一般的だが、かといってアメリカ西海岸が希望というわけではない。東海岸の雄、ニューヨーク・ヤンキースもすでに全力で獲得を目指すことを表明している。前述の通り、マイナー契約ゆえにセオリー上は全チームの争奪戦参加が可能であり、ウルフ代理人はスモールマーケットのチームに行く可能性も打ち消してはいない。

「彼がこれまでメディア絡みで楽しい経験をしていないことを考えると、小規模か、中規模マーケットのチームのほうが着地点としてより有益かもしれないという議論もある」

 このようにさまざまな意見、議論があるなかで、"チームロウキ"の船長はどのチームを選び、その理由をどう説明するのか。文字どおり、全米が注目する"ディシジョン(決断)"。現状で確かなのは、どんな結論を出そうと、最終的にはそれは佐々木自身の決断だろうということだけだ。