トラックシーズンからチームを牽引する帝京大のエース・山中 photo by SportsPressJP/AFLO1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。過去10大会で5年連続を…
トラックシーズンからチームを牽引する帝京大のエース・山中
photo by SportsPressJP/AFLO
1月2日・3日に行なわれる第101回箱根駅伝(217.1km/往路107.5km・復路109.6km)。
過去10大会で5年連続を含む7度のシード権を獲得してきた帝京大が地力を上げてきている。春先から他校のエースと伍してきた主将の山中博生(4年)を筆頭に、多彩な区間配置が可能な戦力は魅力十分。チームのキャッチフレーズ「日本一諦(あきら)めの悪いチーム」の精神が息づくなか、上位校に割って入る潜在能力を秘めている。
【好調の駅伝シーズンと箱根3位の難易度】
前回大会は、7区から9区まで区間一ケタ順位でつなぎ(2位、8位、3位)復路6位と、往路12位から浮上して総合9位に入った帝京大。前々回大会では13位に終わり、連続シードが5年で途切れ予選会からの出場となったものの、持ち前のしたたかさを見せて1年でシード権を再奪取した。
迎えた今季は出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに8位と安定。特に全日本は区間4位以内が3名と存在感を発揮して、4年ぶりのシード権も獲得した。中野孝行監督はふたつの駅伝を振り返り、手応えを感じている。
「出雲は途中から流れを変えることが難しいレースなので、前半から強い選手を置きましたが、全日本は後半に長い区間がふたつあり、3区間でレースのほぼ半分近い距離。だから6区の楠岡由浩(2年)で反撃し、7区と8区はしっかり順位を固めるために安定感のある4年生を置きました。特に7区の福田翔は1区タイプで本来なら前半に使ってもよかったんですが、逆にどこでも走れることを確認できました。出雲でもアンカーに使って単独でも走れたことあり、全日本でより確信を持てた、というのがありました」
箱根に向け、選手たちが掲げる目標は総合3位だが、中野監督は年末までの取り組みを重視する。
「本当に目標順位を決めるのは12月29日(区間エントリー締切日)。戦力は変わるし、ほかのチームが伸びるか、うちがどれだけ伸びるか、基準がないなかで目標順位を立てるのはナンセンスです。それよりも、今持っている力をどこまでためられるかということのほうが重要だと思います」
そして、こうもつけ加える。
「選手たちは出雲や全日本でも『過去最高』という言葉を口にしていたし、箱根も3位というけど『そう、簡単ではないよね』と言っています。3位とはどういうチームかといえば、國學院大も駒澤大も青山学院大も優勝を目指している。さらに早稲田大や前回3位の城西大も、4位の東洋大もいる。
優勝候補に勝たないと3位にはなれないし簡単ではないが、お前たちが本当に本気だったら自分たちでやりなさい、と。
ただ、全日本では3区から5区で順位を落として11位まで下がりましたけど、今までだったら、よくても(最終順位は)9位か10位だったはず。でも今回は攻めて、攻めての8番だった。
6区の楠岡も最後は離されて悔しがっていたけど、10km過ぎまでは攻めに攻めていた。7区の福田も8区の小林(大晟、4年)も、一切守らずに攻めていた。それでいいんだ、こういうことができるようになったんだという勇気を持たせてくれたのかなと思います」
ただ、現実を考えれば、前回9位だったとはいえ、後ろには中央大もいて大東文化大もいる。全日本には出場しなかった前回6位の法政大も、箱根に向けて着実に準備しているはずだ。ほかのチームも力をつけてきているなか、「シード権を確実に取るためには、4~5位はいける手応えを持って臨まなければいけない」と中野監督は言う。
【エース・山中筆頭にレベルアップした布陣】
そのための準備は、確実にできつつある。なかでも大きいのが、中野監督も想定できなかったという成長を見せた山中博生の存在だ。
5月の関東インカレ2部10000mでは留学生たちの先頭争いに加わり、28分04秒54で4位(日本人2番手)に入った。出雲は1区、全日本はエース区間の2区でそれぞれ区間4位。5000mの自己記録は14分25秒26だが、前述の関東インカレ10000mで前半の5000mを13分台で入った自信から、全日本では5kmを13分50秒で入って7km過ぎまで青学大と創価大との先頭争いに加わった。
その山中は2区を志願し、1時間6分台で走ることを目標にしている。
「(2区)区間16位だった前回は他校の選手と並んだ時に、スピード面で劣ってしまうのではという考えが頭のなかにありました。でも、5月の関東インカレ10000mをハイペースでいけて、『スピードがないわけではない』ということを体感できました。
ハーフも自己ベストは1時間03分02秒ですが、前回の箱根は1時間2分10秒くらいで通過していたので、力がついた今は1分台で確実にいけます。課題はスピードではなく、ラスト5kmを走るスタミナだと思って練習をしてきました」
チームエントリー16人のうち10000m28分台は9名と例年以上に多い。
「20kmを19歳から22歳のまだ未熟な体でやるとなったら、しっかりトレーニングをさせていかないといけないことは、前々から感じていました。だから『ハーフで力をつけたほうがいいよね』とやった結果、10000mや5000mの記録が勝手についてきただけ」と中野監督は言うが、往路候補も自然と名前が挙がってくる。
前回は3区区間9位で走った柴戸遼太(3年)をはじめ、「今回は1、3、4区を意識している」という前回8区区間8位の島田晃希(3年)、「前回までは1区にこだわってきたが、3区も意識している」という福田、さらに「どこでも行く準備をする」という楠岡らが筆頭候補になるだろう。
「(今季)しっかり走れている選手は、秋にはハーフや記録会には出さないようにしています。もし出していれば、山中なら10000mで27分30~40秒はいくだろうし、柴戸も28分0秒台、島田は28分前半でいくだろうし、楠岡も28分30は切ってくるだろうと思います。でも、箱根に向けた取り組みの過程では、トレーニングを積むことと、休ませることが大切。あえて駅伝に出さなかった選手もいて、ちょっとためさせているような感じです」(中野監督)
1区で順調に滑り出せば、大崩れしない陣容は揃っている。
ただ、前回区間20位と15位だった5区と6区の山の特殊区間は、年末になってみないとわからない状況だ。また、「私の現役時代がそうだったように、5000m、10000mで強ければ、山も上れる。よく誤解されているけど、山(を走れる選手)を作らないのではなく、山しかできない選手は作らない」という中野監督のポリシーもあるからだ。
もっとも前回6位だった復路には、選手たちも自信を持つ。柱になりそうなのは、前回9区区間3位で、今季の全日本も最長区間の8区で区間4位と安定した結果を出している4年生の小林だ。「前回より1分は速いタイムで走りたい」と意識は高い。また、楠岡も上りに適性があるため、復路ならコース終盤が上り基調になる8区を希望している。
出てほしい選手は? と問うと、一気に14人ほどの名前をあげる中野監督。そのなかには4年になって力をつけてきた林叶大や高島大空、黒木浩祐などもいる。
「うちは固定メンバーがないから29日まで悩みたいですね。昔だったら誰をどこに置けるか、あとは誰が走れるのかという感じだったけど、今回は『誰が出ても面白いよな』『誰でもおかしくないよね』という状況を作っていきたいですね」という。
「日本一諦めの悪いチーム」を自負する帝京大。長い指導歴のなかで、高校時代無名だった選手を数多く好ランナーに育成してきた"中野マジック"が、今回の箱根ではどのようなものになるのか。スタートを切るまでわからない。