多くの声援を受けながらパリ五輪6位入賞を果たした鈴木優花 photo by JMPA夏のパリ五輪女子マラソンで6位入賞を果たした鈴木優花(第一生命)。史上もっとも過酷と言われたコースに挑み、自分自身の持てる力を出しきってみせたが、オリンピッ…


多くの声援を受けながらパリ五輪6位入賞を果たした鈴木優花

 photo by JMPA

夏のパリ五輪女子マラソンで6位入賞を果たした鈴木優花(第一生命)。史上もっとも過酷と言われたコースに挑み、自分自身の持てる力を出しきってみせたが、オリンピック出場権を獲得してから大会本番までは、人知れぬプレッシャーを感じながら準備を進めてきた。

その過程で学んだこと、そしてオリンピックを経験して、あらためて感じるマラソンの魅力について聞いた。

*本文はグループインタビューの内容も含めて、再構成したものです。

後編:パリ五輪女子マラソン6位・鈴木優花インタビュー

【オリンピックへの過程で得たもの】

――MGCで代表権を獲得してから10カ月の準備期間がありましたが、振り返っていかがですか。

鈴木 思った以上に長く感じました。春先にトラックでタイムが出ない時は落ち込みましたし、MGC1位というプレッシャーももちろんありました。メディアでの取り上げられ方であったり、昔から応援していただいている方からも多く声援をいただきましたが、やはり調子が悪い時には、"代表なのに、何やっているんだろう"と自責の念に駆られた時もありました。ただ、その10カ月が長いか短いかは人それぞれですし、私自身は与えられた期間の中でやるべきことはやりました。

――五輪本番の2カ月前にシンスプリントで走れない時期があったとのことですが、そこで休んだから好走につながったのか、それともケガなしでもっと練習を積んでいれば、もっといけたのか、どちらだと感じていますか。

鈴木 半分半分ですね。私は出された練習以上に追い込んでしまうタイプなので、休んだ分、いい意味で体はリフレッシュできたと感じています。一方で走り込みはベース作りにとって一番の練習なので、ケガがなければもう少し前にいけたかなと思う気持ちもあります。ただ、ケガをした時でも前向きに考えると、バイクトレーニングや水泳で心肺機能を高めたり、全身運動もできたので、今回のタフなコースにはうまく生きてきたんじゃないかと思います。

――オリンピックに出て、プレッシャーを乗り越えて成長したと思える部分は?

鈴木 ここまで自分を追いこんだ期間はなかったです。自分は何のためにオリンピックに出るのか? コーチからも聞かれて、最初は答えられなかったんですけど、周りからの期待に感謝しつつ、結局、それを重荷にしているのは自分なので、それをシンプルに喜びに変えていけばいい、自分のために走ればいいという発想の転換ができるようになりました。

 あとケガした時も落ち込むのではなく、これはなるべくしてなっている、と考えらえるようになりました。今目の前に起こっていることは過ぎていくことなので、そこを割りきれるようになったのは成長した部分だと思います。

【日本記録更新、そしてロス五輪を目指して】

――今回のパリ五輪は男女平等が一つのテーマの大会であり、初めて女子マラソンがトリの種目となりました。選手の立場からはその点についてはどう捉えていましたか。

鈴木 正直、そこまで強く意識はしていませんでした。早くレースの日が来ないかという気持ちのほうが強かったです。ただ、女性に華を持たせてくれる大会であることはメディアなどを通じて知っていたので、その点についてはモチベーションになりました。

――パリ五輪が3回目のフルマラソンでしたが、鈴木選手が考えるマラソンの魅力とは?

鈴木 沿道でたくさんの人が待っていて、絶え間なく応援してくれる部分です。オリンピックはまた独特な雰囲気があって、その土地の景色を視野に入れながら走るわけですが、その間、苦しい場面でもずっと応援をいただくと、力が湧いてきます。日本の旗が見えるとか、苦しい時に大きな声で励まされるとか。

 オリンピックの正式種目では一番長い距離で争う種目ですし、2時間半近くの間、多くの人から注目を浴びるので、そこで自分でどう表現するのか。選手それぞれ違うと思いますが、それが奥深さでもあり、多くの人にいろんな視点を持って見てもらえれば、もっと盛り上がるのではないかと思います。

――今後の目標は?

鈴木 直近では未定ですが、一番大きな目標は4年後のロス五輪、あとは日本記録更新です。日本記録が出て以降(2024年1月に前田穂南/天満屋が2時間18分59秒で走り、19年ぶりに更新)、私も日本記録を更新したい気持ちは強くなりました。ただ、オリンピックに向かう過程もそうでしたが、等身大の自分を見失いたくはないので、やっぱり一つひとつ積み重ねていかないと近づけていけないという気持ちは変わりません。

●Profile
すずき・ゆうか/1999年9月14日生まれ、秋田県出身。大曲高校入学後に陸上競技に本格的に取り組み、3年時にはインターハイ出場を果たす(3000m予選落ち)。大東文化大学入学後に長距離ランナーとして成長を遂げ、トラック、駅伝で活躍。大学卒業前の2022年3月に、初マラソンとなる名古屋ウイメンズマラソンで女子日本学生記録となる2時間25分02秒で5位。2度目のフルマラソンとなったパリ五輪代表選考会MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で1位となり、オリンピック代表に内定。3度目のマラソンとなったパリ五輪では6位入賞を果たした。実業団では1991年東京世界陸上選手権2位、92年バルセロナ五輪4位のマラソン実績も持ち、指導者としても多くの日本代表を育て上げてきた山下佐知子コーチに師事している。