快晴の12月15日に埼玉スタジアムで行われた高円宮杯JFA・U-18サッカープレミアリーグ2024ファイナル。イースト王者の横浜FCユースを3-0で下し、ユース年代の頂点に立ったのが、ウエスト王者の大津高校だった。 前半は多少押し込まれな…

 快晴の12月15日に埼玉スタジアムで行われた高円宮杯JFA・U-18サッカープレミアリーグ2024ファイナル。イースト王者の横浜FCユースを3-0で下し、ユース年代の頂点に立ったのが、ウエスト王者の大津高校だった。

 前半は多少押し込まれながらも、ボランチ・畑拓海の豪快なミドルシュートを前半終了間際に決め、大津は1-0で試合を折り返した。迎えた後半、エースFW山下景司が2ゴールをゲット。最終的に3-0で勝利し、ユース年代の日本一に輝いたのだ。
 大津と言えば、土肥洋一(横浜FC・GKコーチ)、巻誠一郎、谷口彰悟シントトロイデン)、植田直通(鹿島)という4人の選手が日本代表としてワールドカップ(W杯)に参戦した強豪校。2024年Jリーグベストイレブンに選ばれた濃野公人(鹿島)も2020年春の卒業生で、これまで50人を超えるプロサッカー選手を輩出している。けれども、これまで全国大会優勝はなかった。
 長年、チーム強化に当たってきた平岡和徳・テクニカルアドバイザー(TA)は、帝京高校時代の83年正月の高校サッカー選手権で長谷川健太(現名古屋監督)らを擁する清水東を撃破し、日本一に輝いた経験がある。それだけに、教え子たちにも成功体験を手にしてほしいと強く願い、長い間、努力を重ねてきた。ゆえに、今回の初タイトル獲得は感慨ひとしおだったに違いない。

■「凡事徹底」「年中夢求」「24時間をデザインする」

「凡事徹底」「年中夢求」「24時間をデザインする」といったスローガンを耳にしたことのあるサッカーファンも少なくないだろうが、平岡TAは言葉を巧みに使いながら選手のモチベーションを高め、自身の限界を超えさせようと導いてきた。そのアプローチは育成年代で高く評価されている。
 そんな大津も壁にぶつかったことがあった。最たるものが、2023年10月に表面化した「いじめ問題」だ。「2022年1月に当時1年生だったサッカー部員の男子生徒が全裸で土下座をさせられ、その様子を撮影されるいじめを受けていた」というショッキングなニュースが流れ、熊本県教育委員会が「いじめ防止対策推進法に基づく重大事態」に認定。一時はサッカー部が活動停止に追い込まれたのだ。
「僕は35年間、高校サッカーの指導現場に携わってきましたが、このような出来事に直面するのは初めて。生徒のサインに気づかず、寄り添ってあげられなかった。申し訳なく、心から猛省しています。自分が今まで積み重ねてきたものが音を立てて崩れるくらいの衝撃を受けました」と名将も神妙な面持ちで語っていた。
 そこからの1年間で彼らは選手や保護者とのコミュニケーションをより密にし、危機管理体制を強化するなど、安心安全の部活動実現に尽力。教え子の山城朋大監督らとともにできることを全てやってきたのだ。

■270名の部員と一緒に

 今年の大津には270人以上の部員がいる。その全員を前向きなマインドにさせ、サッカー・人間性の両面で進化させていくというのは用意なことではない。少しでも落ち度があれば、SNSなどを通して容赦ない批判にさらされる可能性がある。そこにも立ち向かいながら、サッカーを通して子供たちの人間教育を推し進める彼らの取り組みはリスペクトされるべきだろう。
 12月13日に発売された『不易流行』(内外出版社)という単行本には、そんな平岡TAの真摯な思いが凝縮されているという。
「組織運営や教育、子育て、親子関係に悩む人たちに何らかのヒントになれば」
 そんな平岡TAの考えが元に書かれたものだというが、35年間という現場の重みがあればこそだろう。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)

いま一番読まれている記事を読む