サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、17歳の天才ラミン・ヤマルの1得点4アシストの活躍もあってEUROで優勝したスペインが、苦しみか…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、17歳の天才ラミン・ヤマルの1得点4アシストの活躍もあってEUROで優勝したスペインが、苦しみから這い上がり、無敵艦隊へと名乗りを上げるキッカケとなった「奇跡の試合」。本当にあるんですね、そんなことが…。
■21世紀「最も成功している」チーム
2022年のワールドカップで日本は、スペインに2-1で勝った。前半は圧倒され、先制点を許した日本だったが、ハーフタイムの交代で攻撃的な3バックにシフトチェンジ、堂安律(シュートスピード120.04キロ)と田中碧の得点(三笘の1ミリ)で鮮やかな逆転勝ちだった。
だが、それによって日本がスペインを上回ったと考えているファンなどいないだろう。その後のスペインの強さは、欧州でも群を抜いている。2024年の欧州選手権(ドイツ)では決勝戦でイングランドを2-1で下し、全勝(ドイツとの準々決勝は延長戦)で4回目の優勝を飾った。
「4回」と言っても、最初は1964年の第2回大会。それから44年もたった2008年(オーストリア/スイス大会)に2回目の優勝を飾ると、2012年(ポーランド/ウクライナ大会)で連覇、2016年(フランス大会)はベスト16にとどまったが、2021年(全欧州大会)ではベスト4、そして2024年大会で優勝。2010年にはワールドカップ(南アフリカ大会)で念願の初優勝を果たしており、スペインが今世紀で最も成功しているチームのひとつであることは間違いない。
現時点でのFIFAランキングは3位。2008年から2013年まで首位をキープしていたが、日本に敗れた後にベスト16で敗退した2022年に10位に落ち、その後じりじりと順位を上げ、2位フランスとは僅差、首位アルゼンチンとの差も、1回の発表でひっくり返る可能性のある、わずかなものでしかない。
■さらに悲惨だった「ワールドカップ」
そのスペインが、1970年代にはワールドカップ予選敗退を繰り返し、欧州でも「古ぼけたサッカー大国」として低迷していたことを、あなたは信じられるだろうか。
欧州選手権は1976年まで、準決勝以降が「決勝大会」という小さな大会だった。1964年大会で優勝した後、スペインは1968年と1976年は予選グループを突破したものの、ベスト8で争われる準々決勝で敗れ、「決勝大会」にコマを進めることができなかった。1972年は、ソ連、北アイルランド、キプロスで組んだ予選グループから抜け出すことができなかった。
欧州選手権は1980年イタリア大会から大きく様変わりし、8チーム出場の「大きな大会」となった。スペインは予選を突破して出場権を獲得したものの、グループステージで地元イタリアに0-0で引き分けた後、ベルギーとイングランドにともに1-2で敗れてグループ最下位に終わった。
ワールドカップはさらに悲惨だった。1966年イングランド大会に出場したが1勝2敗に終わり、グループリーグで敗退。1970年メキシコ大会、1974年西ドイツ大会では、連続して欧州予選で敗退して決勝大会出場を逃したのである。ちなみに、当時のワールドカップは出場16チームの大会で、欧州に与えられた出場枠は9(1970年)、9.5(1974年)だった。当時はFIFAランキングなどないが、スペインは欧州のベスト10に入るかどうかという存在だったのだ。
■小さかった「プレーのスケール」
1978年にアルゼンチンで行われたワールドカップでは、欧州予選(ルーマニア、ユーゴスラビアと組んだ)を突破して12年ぶりに出場を果たした。初戦でオーストリアに1-2で敗れ、ブラジルとは0-0の引き分け、最終戦でスウェーデンに1-0で勝ったものの、グループ3位に終わり、そこで大会を終えた。
この大会で、私はオーストリア戦とスウェーデン戦のスペインを見たが、本当にパッとしないチームだった。全体に小柄で、ボールテクニックは高いのだが、アルゼンチンやブラジルと比較するべくもなく、プレーのスケールは小さかった。守備を固めて少数の選手でカウンターを狙うチームだった。
「エース」と目されていたのはフアニート(フアン・ゴメス・ゴンサレス)。スピードを武器とするレアル・マドリードのアタッカーだった。中盤ではアセンシ(フアン・マヌエル・アセンシ・リポル)がゲームメークを担当していた。だが、チームの実質上の中心選手はGKのアルコナーダ(ルイス・ミゲル・アルコナーダ・エチャリ)だった。レアル・ソシエダ所属。スペインの守備は、彼に大きく依存していた。