井上戦が目前で先延ばしになったグッドマン。無念の負傷に本人は苛立ちを隠さなかった。(C)Getty Images延期決断までの相当な葛藤 誰の目にも明らかなダメージが、事態の深刻さを如実に物語った。 プロボクシングの4団体統一スーパーバンタ…

 

井上戦が目前で先延ばしになったグッドマン。無念の負傷に本人は苛立ちを隠さなかった。(C)Getty Images

 

延期決断までの相当な葛藤

 誰の目にも明らかなダメージが、事態の深刻さを如実に物語った。

 プロボクシングの4団体統一スーパーバンタム級王者の井上尚弥と12月24日の“クリスマス決戦”に臨む予定だったIBF&WBO世界同級1位のサム・グッドマン(豪州)が現地12月13日の練習中に左目まぶたを裂傷。これにより試合は1か月後の1月24日に開催延期となった。

【動画】痛々しい左目の裂傷…井上戦を控えたグッドマンの負傷シーン

 井上との試合は26歳の挑戦者にとって「人生で一番」と位置付ける大一番。下馬評は敗北予測が大半を占めたが、それでも番狂わせを起こせば、一夜にして人生を変えられる可能性がある試合でもある。だからこそ、10日前のアクシデントに本人の失望は隠し切れなかった。

 来日を翌日に控えた中で、練習のギアも上がっていたのかもしれない。豪スポーツ専門局『FOX Sports』などが公開した問題の負傷シーンを収めた動画では、本格的なスパーリングの最中にグッドマンが左目をカット。トレーナーたちが急遽中断し、ダメージから試合への影響を察知した本人が「あぁクソッ」と悔しさを爆発させる異様な様子が確認できる。

 無論、真剣に取り組んだ練習中の不可抗力なアクシデントではある。それでも陣営には、延期の決断をするまでに相当な葛藤があったようだ。『FOX Sports』の取材に応じた豪興行会社『No Limit Boxing』のCEOで、グッドマンのプロモーターを務めるマット・ローズ氏は、意気消沈するジムに到着した際の率直な感想を口にしている。

「あまりにも不吉な雰囲気が漂っていて、私はすぐに連れていた子どもたちを外で待つように言った。部屋全体が、まるで『活気』を奪われたようだった。ジムにはサムの父親を含めた40人以上の大人がいたが、全員が本当に無感情で、生気を失っていたようだった。あんな光景は今までに見たことがない。本当に悲惨だ……」

 試合まで約1週間と迫っていた。それだけに後に引けないという思いもあった。舞台裏を伝えた『FOX Sports』によれば、グッドマンは負傷直後に流血しながらジョエル・キーガントレーナーとピート・ミトレフスキーマネージャーに「俺はできる」と主張。しかし、傷の深さを目にした周囲から「ダメだ」と止められたという。

 

井上戦に向けて猛練習を重ねていたグッドマン。(C)Getty Images

 

「あれほど打ちのめされた顔をしている人間を見たことがない」

 今回のアクシデントを受け、井上陣営との対戦交渉も緊急的に行ったというローズ氏は「私たちはすぐに日本人たちと話し、カットで何が起こったのかを伝えた。そこで必ず6週間以内に回復させるつもりだと話した」と告白。その上で「正直に言うが、サムにとって、今何が起こったのか理解することすら難しい」と打ち明け、左まぶたを4針も縫う大怪我を負ったグッドマンの精神的な落胆ぶりを語った。

「過去12週間でサムが払った犠牲は、人生で払える最大限の犠牲だと言える。彼はここに来るまでに本当に素晴らしい姿を見せていた。だからこそ信じられなかった。私がジムに入ると、彼は階段に無気力に座り込んでいた。プロスポーツ界であれほど打ちのめされた顔をしている人間を見たことがない。私は彼に何を言っていいか分からなかったから、ただただ同情するしかなかった。スパーリングではヘッドギアをちゃんと装着し、すべてを正しく行っていたからね。すべてがとても悲惨だった」

 負傷後に自身のインスタグラムで「イノウエ選手にもお詫びしたいと思います。彼と彼の陣営はこの試合のために一生懸命準備してきたと知っているので、本当に申し訳なく思っています」と口にしたグッドマンにとって救いとなったのは、井上側の反応だろう。来年1月24日に決まった延期のスケジュールもつつがなく進み、王者本人もXで「お互い最高の状態で闘おう」とメッセージを発信していた。

 約1か月後に左目を回復させ、万全の状態で王者に挑めるか。過去19戦無敗の挑戦者は、その真価が問われている。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

 

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