web Sportiva×BAILA special collaborationfeat. 田中佑美(陸上100mハードル)vol.2@後編過去を振り返るのは「引退してから」今は「新しい次の物語がある」撮影でも自然な笑顔を見せる田中佑美選手…
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feat. 田中佑美(陸上100mハードル)vol.2@後編
過去を振り返るのは「引退してから」今は「新しい次の物語がある」
撮影でも自然な笑顔を見せる田中佑美選手
photo by Kojima Yohei
女性向けメディア『BAILA』とのコラボ企画インタビューの後編。女性誌で活躍中のヘア&メイクアップアーティスト、スタイリスト、カメラマンが撮影を担当し、インタビューでは田中佑美のプライベートなどの内なる部分を掘り下げて話を聞いた。そこで発せられた言葉から見えてきた、彼女の新たな一面とは──。
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── 日本を代表するハードラーの田中選手ですが、オンとオフの切り替えはスムーズなほうですか。
「練習している時と、していない時では、オンとオフの区別はついていると思います。ただ、日常のなかに『アスリート』という意識が溶け込んでいるので、あまり考えてはいないのですが、プライベートでもアスリート的な視点になってしまうことはありますね」
── というと?
「たとえば、休日にどこかに出かけますとなっても、基本的に脚のことを考えてスニーカー以外は履かなかったり、食生活にしても節制しているわけじゃないんですけど、自炊をしたり、揚げ物をあまり食べなかったり、スイーツはご褒美的なものであったり。
努力をしているわけではないんですけど、必然的にそういったものが生活のベースにあります。なので、きっとこれってアスリート的なんだろうなって思います」
── 競技に影響しないように、自然体でアスリート的な生活ができているわけですね。スイーツを食べに行くのはチートデイ、みたいな。
「はい。食べるのを我慢するのもストレスなので(笑)。ただ、食べすぎて後悔するのもストレスなので、そこは適度に」
【『あの舞台に立ちたいな』って】
── プライベートにおけるリラックス方法は何かありますか? たとえば本を読んだり、音楽を聴いたり、ネットフリックスを見たり。
「どれもある程度はたしなむんですが、私が他人と違うんだろうなって思うのは、家の片づけを一気に休みの日にすることなんです。『何かを成し遂げたぞ!』っていうのが、私にとって一種のリラックスになるんです。
もちろんグダグダしている休日もあるんですけど、朝から買い物に行ったり、掃除するのを計画して全部こなした時、『ああ、充実した一日を送ったな〜』って思えるのがストレス発散のひとつですね。まあ、ただ家事をしただけなんですけどね(笑)。日常に『やったー!』を作るのが好きなのかもしれません。自己満ですけど」
photo by Kojima Yohei
── ほかに何かストレス発散方法は?
「さきほど自炊をしていると申し上げましたが、ご飯を作ったり、細く長くではありますが、パン作りやお菓子作りをしているんです。別にうまいわけじゃないんですけど、『作ったぞ!』という自己満を得たくて。
それを撮った写真を家族に送って、『美味しそうやん』という通知が来たら『でしょう?』って返すとか。そういう小っちゃい、自分を肯定してくれる自己満の作業はしています。味に関しては美味しくなくてもヘコみませんよ。作っただけでエラいので(笑)」
── まずはその工程が大事なわけですね。ところで大阪出身の田中選手は、幼い時から宝塚歌劇団が好きで憧れていたそうですね。いつぐらいから興味を持たれたのですか?
「もともと母方の祖母が宝塚ファンで、幼稚園の頃から観劇に連れて行ってもらっていたんです。好きだと認識したいのは小学生ぐらいで、クラシックバレエをやっていたこともあり、何となく『あの舞台に立ちたいな』って思っていたんです」
── そうだったんですね。
「実は高校生の時に、宝塚音楽学校を受験しようか迷って、最終的には受験するに至らなかったんですけど、それを機に距離を置いた時期がありました。もちろん今でも宝塚は好きですよ。機会があれば観劇したいなって思いますし、家でDVDを観たりもしています。やっぱり、あの華やかな世界観が好きですね」
【陸上競技を選んでよかった】
── 差し支えなければ、受験を断念した経緯を教えてくれますか。
「受験届は手に入れたのですが、手続きをすることに躊躇してしまって......。今でこそ『宝塚が好きです』と正直に言えるようになりましたが、当時は学校の友人にも言えず、極私的なものだったんです。
ですから、受験のために必要な健康診断書を取る際、かかりつけ医にお願いする時にすら言えずに戸惑ってしまったんです。それを見ていた両親から『その程度の覚悟ならば、辞めたほうがいい。そんな簡単な世界じゃない』と言われ、結局、受験をあきらめたんです」
photo by Kojima Yohei
── 覚悟を決めることができなかった。
「今思えば、高校生で人生の重要な選択を迫られて、そこまでの覚悟はなかったんだなって思っています。来世ではきっと......と思ったりもするんですが、今はこの人生というか、陸上競技を選んでよかったと思っています」
── 今や日本を代表するハードル選手。自分の選択は間違ってなかったなと、あらためて感じていますか。
「そうですね......。今、私は社会人4年目なんですけど、1年目は結果が出ず、陸上を選んだことを後悔というか、反省していたんです。正直に言えば、大学4年生の時にコロナの真っただ中で就職に困っていたのもあって、当時は『絶対に陸上を続けたい』という熱量があったわけでもなかったんです。ただ、何となくやめる決断ができずに続けてしまったという感じでした」
── それで1年目は後悔をしてしまった。
「今は結果がある程度出ているので、続けてよかったと思っています。ただ、世の中ってわりと結果を出している人が正解というか、たとえば陸上だったら足の速い人の練習方法や考え方が正しいと見られがちです。でも、それはきっと結果というエフェクトがかかっているだけで、それが本当ではないんだよっていうのが自分のなかでは大きくあるんです」
── 結果はあくまでも表向きのことであって、競技者としてそれがすべてではない。
「自分はたまたまというか、たくさんの人の手を借りて、後悔しないレベルまで競技力が上がって、今このようにお話させていただく機会をいただいています。ですが、自分のすべてが正しいと思っているわけではないし、反省すべき点も多いので、これをよりよくしていきたいと今は思っています」
【一緒に寄り添うアスリートを目指して】
── なるほど。アスリートとして、それは大切な視点だと思います。では最後に、今後の目標について聞かせてください。そして、陸上人生の先に何を見据えているのか、イメージでけっこうなので教えてください。
「競技者としては来年、東京で世界陸上が開催されるので、目指したいと思っています。今年、パリ五輪があり、スポーツに対する関心も高まっている状況で、東京を舞台に世界陸上が開催されるのは、すごくラッキーなことだと思っているので、出場できるように、そして1秒でも速く走れるようにがんばっていきたいです。
photo by Kojima Yohei
そして、陸上生活の先の人生ですが、私のこれまでの話を聞いてお気づきかもしれませんが、あまりアスリートっぽくないというか、『努力は絶対に叶う!』といったタイプではありません。どちらかというと、迷い、戸惑いながら、でも自分に折り合いをつけて、競技を楽しんでいるアスリートだと自己分析しています。
この視点を忘れずに、アスリートが試合に向き合うように、読者の方々も人生や仕事に真摯に向き合っていると思います。私としては、そんな方々に寄り添うじゃないですけど、一緒にがんばっていけるようなアスリートを目指して、どういう形になるかはわかりませんが、今後も活動していきたいと思っています」
<了>
【profile】
田中佑美(たなか・ゆみ)
1998年12月15日生まれ、大阪府出身。中学から100mハードルを始め、関西大学第一高ではインターハイを連覇し、第9回世界ユース選手権に日本代表として出場する。立命館大学では関西インカレ4連覇、2019年には日本インカレ優勝。2021年4月より富士通に所属し、2022年の日本選手権で3位、2023年世界選手権(ブダペスト)日本代表、2023年のアジア大会で銅メダルを獲得する。パリオリンピックでは準決勝に進出。Instagram→Tanaka Yumi(@yu____den)
<スタッフ>
小嶋洋平●撮影、石上美津江●スタイリスト、吉﨑沙世子(io)●ヘア&メイク、動画撮影&制作●磯貝琢哉、動画ディレクター●池田タツ(スポーツフォース)
<衣装クレジット>
ジャケット¥97900/ホワイトオフィス(クチュール ド アダム)、ワンピース¥29480・カットソー¥16280/シンチ(オブラダ)、ピアス¥42900・リング¥25300/マリハ、ブローチ(別注)¥16500/ピモンテ(ラダ)、ブーツ¥83600/ショールーム ロイト(フラッタード)
★★★ 【@BAILAでも田中佑美選手の記事を配信中!】 ★★★
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