ヴィッセル神戸のリーグ連覇、天皇杯との2冠達成という形で幕を閉じた2024年J1。前半戦を2位で折り返した鹿島アントラーズには「今季こそ常勝軍団復活」という大きな期待が寄せられたが、後半に失速して5位でフィニッシュ。YBCルヴァンカップ3…
ヴィッセル神戸のリーグ連覇、天皇杯との2冠達成という形で幕を閉じた2024年J1。前半戦を2位で折り返した鹿島アントラーズには「今季こそ常勝軍団復活」という大きな期待が寄せられたが、後半に失速して5位でフィニッシュ。YBCルヴァンカップ3回戦敗退、天皇杯ベスト8という結果を含め、8シーズン連続で国内タイトル無冠という悔しい形で終わってしまった。
今季の鹿島を改めて振り返ってみると、町田ゼルビアなど国内複数クラブで指揮を執ったランコ・ポポヴィッチ監督が就任。堅守の再構築と鈴木優磨依存の攻撃からの脱却にまずは取り組んだ。
キャンプ中にキャプテン・柴崎岳が大ケガを負ったことで、指揮官は長くFWでやってきた知念慶をボランチに抜擢。これには本人も周囲も驚きを隠せなかったが、結果的に大成功し、彼は佐野海舟(マインツ)と鉄壁ボランチ陣を形成。最終的にはJ1デュエル王となり、キャリア初のベストイレブン入りを果たした。知念を長く指導した川崎フロンターレの鬼木達監督も「考えられなかった」と話すほどのサプライズ起用ではあったが、選手の秘めた才能が開花するのは素晴らしいこと。これは今季の鹿島最大の収穫と言っていい。
■抜擢して伸びた濃野公人
ポポヴィッチ監督が抜擢したもう1つの成功例が濃野公人。関西学院大学から今季加入したルーキーは開幕スタメンを確保し、そこから不動の右サイドバック(SB)へ飛躍。右MFに定着した師岡柊生とタテ関係も試合を重ねるごとに磨きがかかり、前半戦だけで5点をゲット。重要な得点源となっていったのだ。
「左の安西幸輝・仲間隼斗で崩して、右の濃野が決める」というのが、夏場までの鹿島の重要な攻撃パターンになっていたのも事実。新外国人FWチャヴリッチ加入効果もあって、確かに前半戦は鈴木優磨に頼らない得点パターンができたという手ごたえもあった。
しかしながら、7月に佐野が移籍し、チャヴリッチが負傷。このタイミングで三竿健斗を呼び戻したものの、夏の中断期間明けの8月以降は勝てなくなってしまう。2巡目になると対戦相手も当然研究してくるから、目濃野・師岡のタテのラインが止められるのも想定内だったはず。だが、ポポヴィッチ監督は新たな得点パターンを構築しきれず、結局は優磨依存に戻り、ズルズルと行ってしまった印象が強かった。
迎えた9月14日のサンフレッチェ広島との上位対決。知念と17歳の徳田誉がチームを救い、何とか踏みとどまったところまではよかった。ところが、直後の天皇杯で神戸に苦杯。さらに9月28日の湘南ベルマーレ戦で2-0から2-3にひっくり返されて敗れたのが致命傷になった。そこで濃野が右ひざ半月板を負傷し、今季絶望となったのも痛かった。
追い込まれた指揮官は、続く10月4日のアルビレックス新潟戦で3バックへのシフトという苦肉の策を講じ、4-0で圧勝したものの、クラブは吉岡宗重FDとともに更迭という大ナタを振るう決断を下したのである。
■J1制覇の可能性が残る中での監督解任
数字上ではまだJ1タイトルの可能性が残っているタイミングでの強化トップと監督の解任…。これは信じがたい出来事だった。上層部はいち早く2025年へ向けて舵を切ったということなのだろう。小泉文明社長から直々に就任を要請された中田浩二FDは、ポポヴィッチ体制のスタッフだった中後雅喜コーチを監督に抜擢。さらにパリ五輪が終わったばかりの羽田憲司コーチを暫定的に呼び戻し、指導に当たらせた。
中後・羽田体制では「まず堅守の鹿島を取り戻さないといけない」という意識が強く、伝統の4-4-2に回帰。師岡をトップに据え、鈴木優磨を左に回す形で10月19日のアビスパ福岡戦に挑んだ。が、守りの前進は見られたものの、攻め手を欠いてしまう。これを踏まえ、続く11月1日の川崎戦では鈴木と師岡の2トップに変更。三竿を右SBに据えるという変化をつけ、長年の宿敵を3-1で撃破。弾みをつけることに成功した。
けれども、終盤の重要局面となった名古屋グランパス、京都サンガ戦をドロー。この足踏みでタイトルもAFCチャンピオンズリーグ圏内も遠のいた。セレッソ大阪、町田とのラスト2戦を連勝し、中後・羽田体制を無敗で乗り切ったが、最終順位は5位。ラスト2戦で鈴木優磨と師岡が連発し、鈴木が国内キャリアハイの15点を達成。師岡も大きな成長の跡を見せただけに、「もう少しこのまま続けたかった」という思いも選手たちには少なからずあったかもしれない。
いずれにしても、激動の2024年はこれで終焉を迎えた。確かに成果も多く見られたが、タイトルが取れなかったのも事実。中田FD中心に今季を徹底検証することが肝要だ。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)