FIAは12月11日にルワンダで開催したワールドモータースポーツカウンシルの会合で、2027年から導入するWRCの技術規定を承認した。選手権の将来をダイナミックでフレキシブルなものとする内容だとしている。 WRC関係者の間で広範囲にわたる協…

FIAは12月11日にルワンダで開催したワールドモータースポーツカウンシルの会合で、2027年から導入するWRCの技術規定を承認した。選手権の将来をダイナミックでフレキシブルなものとする内容だとしている。

WRC関係者の間で広範囲にわたる協議と協力が行われた結果、WRC27と呼ばれる規定が提案され、現行の全マニュファクチャラーの投票権を持つメンバー、WRCプロモーター、クルーの代表で構成されるWRC委員会によって合意された。この規定は27年シーズンから適用される。

計画されている規定サイクルは10年間で、マニュファクチャラーやチームが投資し、このスポーツを成長させるための安定した基盤を確保するとしている。
具体的な内容は、次のとおり。

・スタイルと中身
WRCにおける技術の将来において、中心となるのは柔軟性。自動車産業がこれまでにないほど多様化し、ダイナミックになっているなか、現行のラリー1車両に採用されているセーフティセルのコンセプトは、共通のデザインに改良し、複雑さとコストを削減する。これにより、ほぼすべての市販車のボディワークをセーフティセルに取り付けることができるようになり、27年からはハッチバックがサルーンやSUVと争ったり、特注のラリー・コンセプト・デザインがステージに登場する可能性も生まれる。

・ビルトイン・コスト削減
WRC関係者は、コストのコントロールがトップレベルへの参入を制限している重要な要因のひとつとして認識されているため、27年のコスト上限は34万5000ユーロ(約5526万円)となる。これは従来の方式と比較して、50%以上のコスト削減となる。

これらのコスト削減は、財務的な規制ではなく、部品コストの仕様によって行われる。また、特定の部品について、ラリー期間中の耐久性を高めるような技術設計を行うことでも、削減を行う。

車両自体のコスト削減に加え、人員制限、物流輸送コストの削減、現地施設の利用拡大、現場外でのエンジニアリングを支援するためのデータ接続の拡大により、チームのランニングコストが削減されるようになる。

・将来のパワートレーン
今回承認された規定は、ボディワークだけでなくパワートレーンについても多様性を採り入れる。WRCは、サステナブル燃料を使用するモータースポーツのパイオニアのひとつであり、22年にはその使用を義務づけているが、27年規定ではサステナブル燃料を使用する内燃エンジン、ハイブリッド・パワートレーン、フル電動のいずれかを自由に選択できる。当面の目標は、27年にコンペティターがサステナブル燃料を使用するICEを利用することで、その後の段階でハイブリッドシステムやフル電動技術を含む多様化の導入を視野に入れる。

これは、さまざまな市場がそれぞれの状況に対応するために、多種多様な事情が存在する現在の自動車業界の実情を反映したもの。環境の持続可能性を中核に据えながら、こうしたあらゆる選択肢にオープンであり続けることで、WRCがテクノロジーの先駆者であり続けることを目指す。

・オフロード系競技同士の連携
今回のカウンシルで承認された規定では、WRCと世界ラリークロス選手権のクロスオーバーの可能性も示された。

今後、さらなる承認とアップデートが必要ではあるが、この規定では、メーカーやチームが、それぞれの選手権独自のニーズに対応するために異なるパワートレインを使用しながら両選手権に併行して参戦する可能性への段階を設定している。

FIAアフォーダブル・クロスカー計画を通じたグラスルーツ・オフロード競技への後押しと合わせ、27年シーズンから施行される規定は、ラリー競技のダイナミックな未来を確保し、競技をよりエキサイティングでアクセスしやすく、安全なものとする。

FIA総裁のモハメド・ビン・スライエムは「今回承認された規定は、WRCの長期的な成長にとって不可欠なものだ。この規定で、コスト抑制、持続可能性、そしてラリーのトップレベルへの参戦増に焦点を当て、エキサイティングな未来への礎を築く」とコメントしている。

WRC委員会の委員長、パニラ・ソルベルグは「この段階までたどり着くのに多大な労力を費やしていただいた委員会のすべてのメンバーとWRC技術作業部会に感謝を伝えたい。 我々は、競技者、主催者、ファンの声をもとに明確な目標を設定し、その結果、コストを大幅に削減し、独立系チームがメーカーと競争できるようにすると同時に、自動車業界の情勢が変化してもWRCが存在し続けられる柔軟性を備えた規定が誕生した。まだやるべき仕事は残っているが、将来に向けて非常に心が沸き立っている」と自信を見せる。

WRCプロモーターのスポーツ担当ディレクター、ピーター・テュルは「WRCプロモーターは、FIAや関係者と協力しながら、2027年の新しい技術規則につながるプロセスに積極的に貢献してきた。大幅なコスト削減は、現在WRCに参戦しているマニュファクチャラーを維持し、新たなメーカーやブランドの参入を促すための重要なステップ。FIA WRC技術作業部会のすべての関係者に感謝するとともに、将来の明確なビジョンができたと確信している」と語っている。

発表では、既存のマニュファクチャラー勢からのコメントも伝えている。24年、悲願のドライバーチャンピオン輩出を達成したヒョンデ・モータースポーツの社長兼チーム代表、シリル・アビテブールは「選手権が長期的なロードマップを持って、我々がそのすべてを評価し、改善することができることは、マニュファクチャラーにとってポジティブなこと。ラリー競技には、安定とマニュファクチャラーベースでの成長が必要であり、コスト削減のために行われた重要な努力を歓迎する。また、エキサイティングなラリー形式で豪快なマシンを披露することで、ラリーという競技の価値を高め、ファンが増えることにも期待を寄せている」とコメント。

Mスポーツ・フォードのマネージングディレクター、マルコム・ウィルソンは「今回承認された規定は、WRCにとって正しい道筋だと思う。 WRCにはエントリー増やトップカテゴリーに参入するチームやドライバーがもっと必要であり、27年のレギュレーションはそれを後押しするものだ。この規定により、ラリー界の長期的な成功のために不可欠な若手ドライバーのチャンスを増やすことができるようになるし、WRCを、より参入しやすく、多くのチームがマニュファクチャラー陣と肩を並べて戦える選手権にすることも重要だ」と語る。

トヨタのチーム代表ヤリ‐マティ・ラトバラは「27年の規定に向け、できる限り貢献できるようFIAと懸命に取り組んできた。我々は、規定案のの主要なポイントはよく練られており、正しい方向に向かっていると信じている。まだ、細部の最終調整と改善という重要な仕事が残っているのは承知しているが、この段階においては極めて普通のことだ」と考えを述べている。