現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 今季の久保建英は、ビッグクラブ相手には大変な活躍を見せながら、対策を講じてくる相手には苦戦している様子に見える。 今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を…
現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
今季の久保建英は、ビッグクラブ相手には大変な活躍を見せながら、対策を講じてくる相手には苦戦している様子に見える。
今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、対戦相手によって波のある久保のパフォーマンスについて分析してもらった。
【久保の向上心は称賛に値する】
2024年、久保建英はあまりいいスタートを切れなかった。1月に日本代表の一員として参加したアジアカップでコンディションを崩して戻ってきたことで、レアル・ソシエダが彼の力を本当に必要とした時、その期待に応えられなかった。チームを離れる前の調子を取り戻すのに苦労したことは、昨季の最終的な成績に影を落とすものとなった。
レガネス戦で先制点の起点となった久保建英
photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
今季開幕時もチーム全体の調子と同様に、久保のパフォーマンスには疑問が持たれていたが、それでも彼は変わらずラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)で最も攻撃に関与し続ける選手となり、アウェーのエスパニョール戦(1-0)のような貴重なゴールを何度か決め、チームを勝利に導いてきた。
ラ・レアルは攻撃面で彼のイマジネーションを必要とし、それに応えるかのように久保も1年の最後を迎えるこの時期まで、チームとともに以前の調子を取り戻しながら向上してきた。パフォーマンスに波はあったものの、チャンスを生み出してゴールを決め、今季ここまでチームのトップスコアラーのひとりになっている。
そして2024年の終わりを迎える今、私は彼が今年をいい形で締めくくると強く信じている。なぜならボールの有無にかかわらず、彼の個の力を向上させる努力は称賛に値するからだ。
久保は生粋の"非順応主義者(自分の持っているものに満足できず、より多くを求める人)"であり、その意思を彼はプレーを通じてずっと示してきた。たとえば決定機が2度巡ってきたとして、ゴールネットを揺らしたのが1度だけだった場合、彼は決して満足しないタイプなのだ。
彼が目指すのは、ラ・レアルを牽引して重要な役割を果たすこと。個人的にいい結果を残せれば、チームにも利益がもたらされることを常に意識してプレーしている。
【ビッグクラブ相手に輝く理由】
久保が1年をいい形で終えるうえでの問題は、残り3試合の対戦相手が、今季ここまで最高のプレーを見せてきたようなビッグクラブではないという点だ。正直なところ、対戦相手のレベルと久保のプレーに直接的な関係があるとは思えない。それでも相手のレベルに引っ張られるように、久保がベストパフォーマンスを発揮していることも事実である。チームがいいイメージを与えた試合は、久保が最もいいプレーをした試合でもある。これは偶然ではない。
ヴィニシウス・ジュニオールを擁するレアル・マドリードや、ラミン・ヤマルの所属するバルセロナでも同じようなことは起こっている。スター選手が活躍し、いいパフォーマンスを見せれば、そのチームは恩恵を受けられるのだ。
警戒されることなく自分たちのサッカーを貫き通してくる相手ほど、久保はより自由を得て輝ける。後ろに引かずに常に向かってくる強豪に対して、久保は数メートルのスペースを与えられた瞬間、本領発揮できるのだ。
バルセロナ戦(1-0)やアヤックス戦(2-0)がまさにそうだった。1年の終わりを間もなく迎える今、私たちはこの2試合で記憶に残る久保の最高の姿が見られた。相手チームのディフェンスが個で守ることをベースにしている時、久保は1対1のデュエルで闘争心をむき出しにして猛獣のような姿を現し、非常に高い技術レベルのプレーを発揮する。久保が集中力を高めた時、ラ・レアルに火が灯る。
一方、久保のスイッチが切れている場合は、チームも落ち込んでいるように見えてしまう。ヴィクトリア・プルゼニ(1-2)相手のおかしな負け方や、サン・マメスでのバスクダービー(アスレティック・ビルバオ戦、0-1)はその典型だ。
アスレティックのように対策を練って久保封じを講じてくるようなチームや、低い位置にブロックを組み、背後に走るスペースを与えずにチャンスを作ることを許してくれないタイプの守備に対して、久保はやや分が悪いと言える。
【対策を講じてくる相手への対応策】
そのような状況下でプレーする場合、それほど大きな輝きを放てないかもしれないが、だからといってそれはプレーが悪かったことを意味しているわけではない。直近のレガネス戦で相手が後ろに大きく引き、DFラインがGKにほぼ密着している局面があった。久保はその際、サイドでドリブル突破してゴールラインまで到達するのに苦労したが、他の解決策を見つけていた。先制点のプレーは、彼がカットインから逆サイドに送った正確なパスが起点となったのだ。
この試合で得たものは、ラ・レアルで再びスターとなった1年に最高の輝きをもたらすために、残りの試合で自分が何をやるべきかの方向性を示すものになったと思う。
また、厳しいマークを打開するための解決策が、常に自分の背後にあると久保は気づいている。対戦相手が彼のことをよく研究し、その対策を徹底的に施してくるなかでの1対1の場面で問題を解決するためには、右サイドバックのホン・アランブルとの新たなコンビネーションが必要となる。
このベネズエラ代表の右サイドバックは、久保と多彩で効果的なコネクションを築いている。1年前には考えられなかったが、今ではお互いを完璧に理解していると言えるだろう。
彼らはアヤックス戦で勝利した時、すばらしい連係で主役を演じた。アランブルは右サイドに強烈な個性とエネルギーをもたらし、彼のオーバーラップによって久保は度々、執拗なマークから解放されている。サイドを駆け上がることでマーカーを引きつけ、攻撃をサポートして2対1の局面を作り出す彼を、久保は大いに頼るべきだ。そうすることで久保は1対1を仕掛ける自由を得て、その計り知れないドリブルのクオリティーを発揮し、中に入って優位に立てる。
それが、これから先も彼を待ち受ける厳しいマークに打ち勝つカギとなるだろう。そうすれば2024年を自分にとってふさわしい形で終えられ、ラ・レアルの選手としてさらなる成長ができた1年を締めくくることができるはずだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)