5日から、アメリカ、アラバマ州のマグノリアグローブゴルフコースで、来季のツアー出場資格をかけた米ツアー最終予選会が開催された。最終日となる予定だった9日が悪天候のため順延となり、10日に5ラウンド90ホールの長丁場が終了した。山下美夢有は2…

5日から、アメリカ、アラバマ州のマグノリアグローブゴルフコースで、来季のツアー出場資格をかけた米ツアー最終予選会が開催された。

最終日となる予定だった9日が悪天候のため順延となり、10日に5ラウンド90ホールの長丁場が終了した。

山下美夢有は2位に6打の大差をつけてトップ通過し、来季の米ツアー出場資格を獲得。寒さや雨、不安定な天候に見舞われた最終予選会だったが、日本で見せ続けている安定感抜群のプレーを披露した。

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山下は5ラウンド中3ラウンドでノーボギー。5ラウンドトータルでバーディが31個、ボギーは4個だった。2位の岩井千怜は、バーディが33個、ダブルボギーが3個、ボギーが6個。そして、3位のポーリン・ルーサン・ブシャールは、バーディが30個、ダブルボギーが1個、ボギーが9個。

山下の‟バーディを取ってボギーを打たない”ゴルフが際立った。

山下は今季、3年連続年間女王を逃したものの、全米女子プロゴルフ選手権で2位タイ。パリ五輪では金メダル争いを繰り広げた上での4位タイと、世界との距離を近づけた1年となった。

安定感が高いプレーは、フェアウェイキープ率が高いドライバーショットだけでなく、パットも支えている。その山下のパットについて解説する。

■「平均パット数」「パーセーブ率」「平均バーディ数」「平均ストローク」2年連続1位

山下は、パットの状態が影響するスタッツの多くが1位。パーオンホールの平均パット数、パーセーブ率、平均バーディ数、平均ストロークは昨季、今季と2年連続1位だ。さらに、1ラウンドあたりの平均パット数が2位。このスタッツはパーオン率が良い場合、順位が下がりやすい(※)が、上位に入っている。

昨季もパーオンホールの平均パット数は1位だったが、1ラウンドあたりの平均パット数は7位だった。元々高かったパットの安定感が、さらに高くなってきているようだ。

パットの成長もあり、平均ストロークは69.1478で今季も1位。昨季の69.4322を上回っている。

山下のパットはなぜ、安定感が高いのだろうか。パッティングストロークや、ストロークに入る前のルーティーンに目を向けると、その理由が見えてくる。

(※)パーオン率が良い場合、ファーストパットは長めになりやすい。パーオン率が悪い場合、グリーンの近くからグリーンオンさせるため、ファーストパットは短めになりやすい。

山下美夢有の平均パット数

■ストローク前のルーティーン

ストロークの仕方の前に、ストローク前のルーティーンに注目してみたい。

山下も他の選手と同じように、ストロークの前に素振りをしながらイメージを作っているが、ロングパットとショートパットで素振りをする場所が異なる。

ロングパットは飛球線後方側で、ターゲット方向に正対しながら素振りをして、ミドルパットとショートパットはボールの手前側(打つ時の向き)で素振りをしている。

これは、ロングパットは距離感を重視してイメージを作り、ミドルパットとショートパットは、距離感だけでなく打ち出し方向にも焦点をあててイメージを作っていることが考えられる。

タッチを合わせることに集中するべきパットは飛球線後方側、カップインを狙うパットは手前側、ということがいえるかもしれない。

■ストローク

山下は、小さい振り幅、かつ、速めのテンポで迷いが感じられないストロークをしている。

ヘッド軌道やフェースの向きに意識を向けることなく、ラインを読んでいる時や素振りの時に作ったイメージに浸り、ボール初速や打ち出し方向に集中しているストロークだ。

多くの一般ゴルファーは、ヘッド軌道やフェースの向きなど、ストローク中のクラブヘッドの状態を気にしすぎる傾向にある。それにより、ストロークが大きめの振り幅になりやすい。

パットに難があると感じているゴルファーは、山下のように、小さい振り幅、かつ、速めのテンポのストロークを意識してみると、ヘッドのブレが抑えられ、イメージ通りの距離感で狙った方向に打ち出しやすくなるかもしれない。

■古江彩佳と似たプレースタイル

今季、メジャーのエビアン選手権を制するだけでなく、米ツアー年間最小の平均ストロークの選手におくられる、ベアトロフィーを古江彩佳が獲得した。

古江はドライビングディスタンスが約5ヤード伸びたとはいえ、順位は昨季が142位で今季が134位と、あまり変わっておらず、ショットの精度と、パットの安定感で勝負している。

米ツアーは男子だけではなく女子も、飛ばし屋の選手が多いが、飛距離以外の部分を生かして、米ツアーのトップ選手と互角以上に戦えることが証明された。

山下は古江と似たタイプのプレースタイル。

山下自身も海外での実績を重ねてきていることで、米ツアーで戦える自信をつけているだろうが、古江が米ツアーで存在感を高めてきていることは心強いのではないだろうか。

20-21シーズンの年間ポイントランキング1位(※)が古江。そして、22年、23年と2年連続年間ポイントランキング1位となったのが山下。

山下には米ツアールーキーイヤーとなる来季、古江に続いて、日本ツアーのトップに立った選手の力を米ツアーで見せつけてもらいたい。

(※)21年までは、ポイントよりも獲得賞金の方が優先されていたため、古江には‟年間女王”という称号は与えられていない。ちなみに20-21年の賞金女王は稲見萌寧。

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著者プロフィール

野洲明●ゴルフ活動家

各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。