F1第24戦アブダビGPレビュー(後編) ほんのわずかな差で逃したQ3──。だからこそ2024シーズン最終戦・アブダビGP決勝では挽回し、入賞を果たしたかった。 ところが、スタートでまさかのクラッチトラブル。入賞の望みを失い、集中力を切らし…

F1第24戦アブダビGPレビュー(後編)

 ほんのわずかな差で逃したQ3──。だからこそ2024シーズン最終戦・アブダビGP決勝では挽回し、入賞を果たしたかった。

 ところが、スタートでまさかのクラッチトラブル。入賞の望みを失い、集中力を切らしてもおかしくない展開となった。だが、角田裕毅(RB)の闘志は消えなかった。


角田裕毅はレッドブルのマシンをどう操るのか

 photo by BOOZY

 1ストップになるか、2ストップになるか、タイヤが保つか、保たないか......。際どいレース展開のなか、角田は最初から1ストップで走りきることだけを考えてレースに挑んだ。

 ミディアムタイヤは15周を超えるとペースが厳しくなり、さらには2ストップ作戦も視野に入れて早めにピットインしたニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)やピエール・ガスリー(アルピーヌ)がフレッシュなタイヤで追いつき、易々と抜いていった。

「彼らと争ってタイムロスはしないようにしろ。我々が見ているのはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)だ」

 角田に対して、無線でそのような指示が飛んだ。チームとしてはハースやアルピーヌとの戦いはもう考えておらず、残り1回のピットストップの時、アストンマーティン勢の前でフィニッシュすることにターゲットを絞っていた。

 22周目にハードタイヤに履き替え、入賞圏外でも、グリップ不足に苦しみながらも、角田はプッシュし続けた。そして30周目を過ぎてピットインしたアストンマーティン勢がうしろから追いすがり、15周もフレッシュなタイヤを履くアロンソは抑えきれなかったものの、ランス・ストロールはなんとか封じ込め続けた。

 バックストレートエンドのターン6で抜かれても、連続する次のストレートで再び抜き返す。本来はマシン性能が大きく異なるはずのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)に対しても、簡単に譲るようなことはせず、一度は抜かれても抜き返した。

 最後はストロールにも先行を許したものの、彼がトラックリミット違反の5秒加算ペナルティで後退したことにより、角田は12位を取り戻した。

「1ストップ作戦はかなりタフなレースではありましたけど、その後は全力ですべて出しきることはできた。スタートの出遅れから、かなりいい形で挽回もできたと思います」

【RBマシンとの違いを楽しみたい】

 たとえポイント獲得という形でなくても、どんなことでも自分らしくレースをし、自分の力を最大限に発揮したい──。そんな角田の意地が随所にあふれていた。

「もちろんこの結果は満足のいくものではないですけど、今日のレース中に僕がどんなふうにアプローチしていたか、最後まであきらめずに走ったことと、走りのクオリティは悪くなかったんじゃないかと思います」

 Q3や入賞を狙える速さのマシンがなければ、その結果を示すことはできない。今、自分の手にあるもので最大限の走りをすることしか、ドライバーにできることはない。

 アブダビGP週末の角田は、やれるだけのことはやりきった。

 そして2日後のテストでは、レッドブルRB20をドライブする。

「F1でこのチーム以外のマシンに乗るのは初めてなので、すごく楽しみにしています。同じようなマシンではありますけど(VCARB 01とは)かなり違うはずなので、ワクワクしていますし、楽しみたいと思っています。それと同時に、チームに対して今後の開発につながるような、できるかぎりいいフィードバックをすることに集中しています」

 2025年のシートは、このテストだけで決まるわけでも、アブダビGPの結果だけで決まるわけでもない。シーズンを通して見せてきた走りと成長のすべてが評価対象となり、結論が導き出される。

 だから角田も、このテストに向けて変な気負いはない。あるのは自信だけだ。

「ランプランはまだ何も聞いていませんけど、基本的にチームが指示するとおりのことをやるつもりです。パフォーマンスランができなかったとしても、それ以外のところでチームに印象づける走りができればと思っていますし、その自信はしっかりとあります」

 自分にやれることをすべてやり、あとはチームの判断に委ねるしかない。

 いや、チームの判断だけなく、純粋なレースだけでもなく、さまざまな要素による綱引きが行なわれたうえで、トップチームたるレッドブルのシートは決まる。

 コース上の純粋なレースだけに目を向ければ、結論は誰の目にも明らかだ。アブダビGPでも、角田はそれを示してみせた。

 どんな障壁を排してでもそれと同じ結論を選ぶのが、純粋に勝利だけを追求するレーシングチームというものだ。

 果たして、今のレッドブル・レーシングがどんなチームなのか、結論はもうすぐわかる。