Jujuインタビュー 前編(全2回) 2024年シーズン、国内最高峰のスーパーフォーミュラ(SF)に史上最年少の18歳でデビューを果たしたJujuこと、野田樹潤。ファンの大きな注目を集めたデビューイヤーは、12位(第8戦・鈴鹿サーキット)が…

Jujuインタビュー 前編(全2回)

 2024年シーズン、国内最高峰のスーパーフォーミュラ(SF)に史上最年少の18歳でデビューを果たしたJujuこと、野田樹潤。ファンの大きな注目を集めたデビューイヤーは、12位(第8戦・鈴鹿サーキット)が最高順位だった。本人はどのようにシーズンを振り返り、どんな思いを抱いているのだろうか。



2024年の自身の活動を振り返ったJuju

【SF初参戦で得られた手応え】

ーー2024年のSF参戦に際し、「自分のできるベストを尽くしていろんなことを学び、成長していく」と目標を語っていました。自己採点ではどれくらい達成できましたか?

Juju(以下同) 開幕前に目標を立てていたのは、初めてのSFなので、まずクルマとサーキットに慣れるためにしっかり走ることでした。そういう部分では、年間2回あるテスト走行でも最多ラップを周回し、レースでも全戦を完走できました。「しっかり走る」部分に関してはこなせたのかなと思います。

 あと、一戦一戦成長していく部分については、先輩ドライバーとのタイム差を少しずつ詰めていくことを目標にして、全戦通してやり遂げることができたのかなと思っています。

 ただ、アスリートとして常に上のレベルを目指していますので、仮に自分の目標を達成できたとしても100%満足したと言えるシーズンは今年に限らず、この先もないのかなと思っています。

ーー決勝のラップペースは他のドライバーと比べて遜色なかったと思います。そのあたりは自信になったのではないですか?

 そうですね。タイヤ交換のある長丁場のレースは初めてでしたが、スタートからゴールまでタイヤをマネジメントしながらペースを組み立てて、タイヤをしっかりと使いきるという部分は、意外とできたのかなと思っています。

 3月の開幕戦の鈴鹿サーキットは寒く、ベテランドライバーでもタイヤのグリップがなくて飛んでいってしまうようなコンディションでした。すごく難しかったのですが、逆に最初のレースでそういう経験ができたので、そのあとは精神的にラクでした。

(SF独自ルールの)オーバーテイクシステム(OTS)は、開幕戦に比べると、だんだんうまく使えるようになりました。最初はOTSを全体的なペースを安定させるために使用していたところがありましたが、11月に開催された最終戦ではOTSを使ってバトルをしていこうとチームと話し、実践できました。成長できたと感じる部分です。

【小林可夢偉選手とのレースは自信になった】

ーー鈴鹿での第8戦は自己ベストの12位でした。レース中には入賞圏内を走行する場面もありました。ドライビングアドバイザーを務める父の野田英樹さんが11番手を走っていた時、「Juju、冷静に落ち着いていけ! でも熱くいけよ! (前を走る)岩佐(歩夢)を抜くぞ」と無線で叫んでいたのが印象的でした。英樹さんのほうが興奮していたんじゃないですか?

 基本、いつもああいう感じなんです(笑)。逆に周りが熱くなったり、興奮していたりすると、自分が心理的に冷静になることができます。だからちょうどいいんです。そうなるように父が計算しているのか、自然にそうなっているのか、わかりませんけど。

 私自身、岩佐選手を抜けばトップ10に入って、ポイントを獲得できるとは知らなかったんです。知らなかったというよりも、自分のなかで抜けばポイント獲得だと熱くなっていたわけではなく、とにかく前のマシンを抜きたい。それだけに集中していました。

 次にF1に参戦する日本人ドライバーと言われている岩佐選手はOTSも使って追い抜きをしてきてくれ、元F1ドライバーの小林可夢偉さんもちょっと強引な追い抜きを仕掛けてきました。そこまで力のあるふたりを本気にさせられたというのは自分にとってすごく自信になっていますし、本当にいいレースができたなと感じています。

【ステップアップへ向けた課題】

ーー最終戦では1年の集大成となるレースができたと思いますが、一方で課題として見えてきた部分はありますか?

 エンジニアリングの知識がベテランドライバーの方に比べてまだまだ不足していると感じました。やっぱりSFのようなハイレベルなクラスのカテゴリーでは、セッティングが緻密です。そこはこれまで私が参戦していたレースと異なりますので、専門的な知識をつけていかなければならないと痛感しました。知識をもっと深めていくことで、クルマづくりの面でもさらにステップアップできるのかなと思います。

 あとは予選ですね。SFは練習がまったくできませんし、私にとって日本のサーキットは走るのがほとんど初めて。経験値が少ない状況でも、限られた時間のなかでタイムを縮めていかなければなりません。その点で開幕前から難しい挑戦になるとはわかっていましたが、やっぱり成長が必要です。

ーー 一発のタイムを出す予選はフィジカル的にもつらいところがありましたか?

 そんなになかったです。むしろ体力面に関しては決勝のほうが大丈夫かなとシーズン前に思っていました。これまで長丁場のレースを経験したことがなかったですし、(SFでは)週末に1大会2イベントの時もありました。「この長いレースを週末で2回もやるの?」と心配していたのですが、意外と大丈夫でした。

 予選に関しては、フィジカル的なことよりも、とくに1大会2レースの時は練習走行もなく、朝起きて、いきなりハイパワーのマシンに乗って、一発ポンッとタイムを出さなければなりません。それがすごく難しくて。でもいい経験になりました。


photo by JRP

【日本とヨーロッパの

「常識」の違い】

ーー3年前のインタビューでは、レスリング女子で五輪3連覇を達成した吉田沙保里さんのような身体を目指すと話していました。フィジカル面での不足を感じたことはありましたか?

 たとえばドライバーにとって大事な首回りでも2〜3年前に比べると、だいぶ筋肉はつきましたが、全般的にもっとつけていきたいなと感じています。今、不足しているからというよりも、フィジカルを強くすることでもっとパフォーマンスアップが実現できると思っています。これからさらに上を目指していくためには、フィジカルをもっともっと鍛え、吉田沙保里さんのレベルまで体づくりをしていかなければならないと考えています。

ーー普段はどんなトレーニングをされているのですか?

 フィジカルトレーニングは、シーズンオフの期間は取り組みますが、基本的にレース前はあまりやらないようにしています。トレーナーの先生がスケジュールを見てメニューを組み立てくれています。

 あとは動体視力を鍛えたり、メンタルトレーニングも専門の先生に教えてもらっています。メンタルトレーニングと聞くと、気合いを入れるというイメージがあると思うんですけど、それよりもいかに平常心を保つか。どちらかといえば、自然体でいられる、自分らしくレースをする部分のトレーニングです。あと、自宅のシミュレーターにも乗っています。

ーー日本のレースを本格的に戦うのは今年が初めてでした。ヨーロッパのレースとの違いを感じるところはありましたか?

 考え方や文化の違いなのかもしれないですけど、たとえばレースの駆け引きであったり、ルール上の認識であったり、エンジニアのアプローチだったり、やっぱりヨーロッパと日本の違いはけっこう感じました。最初はちょっと戸惑いました。

 どっちが正しいというわけでなく、日本とヨーロッパの常識がちょっとずれていることを何度か感じました。でも「郷に入っては郷に従え」と言いますので、日本でレースをやっていくうえでは日本の常識にもっと理解を深めていく必要があると思っています。ただ、ヨーロッパに戻ったら、切り替える必要があるので、どっちの常識も忘れないようにしなければなりません。

つづく

【プロフィール】
Juju/野田樹潤 のだ・じゅじゅ 
2006年、東京都生まれ、岡山県育ち。元F1ドライバーの野田英樹の次女として生まれ、3歳でカートに乗り始め、4歳でカートレースデビュー。9歳でフォーミュラカーを初めてドライブ。2020年から家族とともに渡欧し、デンマークF4、Wシリーズなどを経て、2023年はF1の登竜門であるユーロフォーミュラオープンで女性初の優勝を飾る。同年、ジノックスF2000(旧イタリアF3)で史上初の年間王者に輝く。2024年よりスーパーフォーミュラにTGM Grand Prixから参戦した。ファッション、マンガが好き。