茨城アストロプラネッツGMが語る選手育成とチーム運営(前編) 2023年のドラフト会議では、独立リーグからふたりの2位を含む計23選手が指名されて話題となったが、今年は16人が名前を呼ばれた。全体的には指名を減らした一方、支配下に限れば6人…
茨城アストロプラネッツGMが語る選手育成とチーム運営(前編)
2023年のドラフト会議では、独立リーグからふたりの2位を含む計23選手が指名されて話題となったが、今年は16人が名前を呼ばれた。全体的には指名を減らした一方、支配下に限れば6人→7人となっている。
四国アイランドリーグリーグPlusでは徳島インディゴソックスが今年も成果を上げた一方、BCリーグでは茨城アストロプラネッツが2年続けて支配下で指名された。昨年中日に5位指名された土生翔太(中日)につづき、今年は楽天から陽柏翔(よう・ぼうしゃん)が6位で指名されたのだ。
ルートインBCリーグアワードに出席した(写真左から)楽天6位の陽柏翔、オリックス育成2位の武蔵、ソフトバンク育成3位の大友宗
photo by Nikkan sports
【高卒1年目の陽柏翔が支配下で指名】
「正直、最高の形になりました」
そう喜んだのは、茨城アストロプラネッツの色川冬馬GMだ。
「入団当初は『育成で行けるかな......』というレベルからのスタートでした。ある時期から『育成では行けるだろう』と見えてきて、最後の最後、4球団から調査書をいただき、支配下で指名されました」
台湾出身の陽は2022年に来日し、明秀日立高校(茨城)に2年時に編入した。卒業後、同じ茨城のアストロプラネッツに入団したのは、陽自身が日本でプロ野球選手になることを望み、アストロプラネッツは「サイズはないけど、ツールはしっかりある」と評価したからだった。
身長173センチ、75キロの陽は、野球選手として決して大柄ではない。それでも50m走を6秒1で走る俊足と、スイング力、肩と一定以上の強さを高校時代から備えていた。
陽がアストロプラネッツの1年目にドラフト指名されたことで、同球団は昨年の日渡騰輝(中日、育成1位)につづき、茨城にゆかりのある高卒選手を1年でNPBに送り出した。
高卒選手が社会人や大学を経由すれば、各3、4年の年数が経過しないといけないが(※途中退学は除く)、独立リーグなら1年後にNPBに進める可能性がある。最短ルートでのNPB入りを増やせば独立リーグ球団も価値を上げていけるが、アストロプラネッツはどうやって2年つづけて輩出できたのか。色川GMが説明する。
「まずは打席数を与えることが必要です。バットが金属から木製に変わるし、同じ140キロのストレートでもそこに織り交ぜられる変化球の質や種類が断然レベルアップします。去年の日渡、今年の陽柏翔も7月頃まで結果が出ず、チームも勝てなくて非常に苦しかった。それでも逃げさせず、自分と向き合わせることを徹底的にやりました」
陽はBCリーグでなかなか結果を出せず、徐々にスイングが小さくなっていった。いい当たりが出ないためにヒットをほしがり、当てにいくようなスイングになる。苦しむ陽を見て、色川GMは声をかけた。
「僕が君を獲ったのは、そういう小さいスイングしてもらうためじゃないよ。ヒット1本打ったとか、どうでもいいんだ。君のスイングに魅了されて獲っているから、バットのことは気にするな」
【徹底したフィジカル強化】
じつは入団時、陽は木製バットを1本しか持っていなかった。経済的に恵まれず、金銭的な余裕がなかったからだ。唯一のバットを折りたくないこともあり、スイングが小さくなっていった。
そこで色川GMは球団のスポンサーに相談すると、「バットの1、2本くらいなら買ってあげるよ」と協力者を見つけた。
後半戦に入ると、陽は打撃成績を向上させていく。前半戦(4月6日〜6月19日)と後半戦(6月20日〜9月4日)の各27試合の成績を比べると、成長は明らかだ。
・前半:打率.213/出塁率.278/OPS.537
・後半:打率.286/出塁率.350/OPS.734
もちろん、成績上昇の理由はバット以外にもある。アストロプラネッツはチーム方針として徹底的なウエイトトレーニングと食事の管理により、筋肉量を増やしてパワーアップさせていくのだ。
球団がドラフト候補の全選手について作成してNPB球団に渡しているスカウティングレポートを見ると、陽の成長は顕著にわかる。4月から9月の変化で、体重は「71キロ→75キロ」、「筋肉量は59キロ→64キロ」。
さらに、トレーニング数値は「懸垂26回」「スクワット200キロ」、今季の成績は「盗塁21」、能力として「スイング速度は最速117キロ」「盗塁のタイムは3.2秒台前半」などと目立つように明記されている。球団のスカウティングレポートを見ると、アピールポイントが一目瞭然なのだ。
こうした取り組みが実を結んで陽が楽天に5位指名された一方、ソフトバンクに育成3位で指名されたのが捕手の大友宗だった。
「大友を支配下で行かせられなかったのは痛恨の極みです」
色川GMは苦虫を噛み潰すように語った。実力を考えると、支配下で指名される確信があったからだ。
【育成指名は痛恨の極み】
大友は帝京大学、日本通運を経て今年アストロプラネッツに入団。日本通運では先輩のレギュラー捕手の陰に隠れてチャンスがなく、トライアウトを受けてBCリーグで野球人生を賭けた。
「投げる、走る、打つことに対して、あれだけのツールを持っている選手はこの先、独立リーグに来るのかなって思うくらいです」(色川GM)
大友にとって25歳で迎える今年のドラフトは、年齢的に考えればラストチャンスになるかもしれない。
そうして臨んだ今季はBCリーグ開幕前、色川GMがアメリカで主宰するトラベリングチーム「アジアンブリーズ」に参加して武者修行の旅に出た。それからBCリーグに参戦し、トータルで約80試合に出場。社会人時代からプレー機会が大幅に増え、実戦の中で成長した。色川GMが説明する。
「キャッチャーのセカンド送球もよくなったし、打席でのボールの見方、アプローチの仕方も改善されました」
アストロプラネッツがNPB球団に渡したスカウティングレポートを見ると、ポップタイム(投球を捕球してから送球が二塁や三塁に到達するまでの時間)は1.89秒。色川GMによると、それからドラフトまでの期間に1.82秒が計測されたという。
打撃面ではBCリーグ2位の12本塁打、OPS.869を記録するなど長打力を持ち味とする一方、確実性の向上に改善の余地があった。バットのヘッドが遠回りする課題があり、5月頃には打率2割を切ったからだ。
そこで6月からスイング軌道を可視化する「ブラスト」をグリップエンドにつけ、改善を図った。具体的に行なったのは「オンプレーン率」の向上、つまり投球を"線"で捉えるためのスイングだ。色川GMが説明する。
「オンプレーン率が上がれば上がるほど、打球の弾道が下がることに気づきました。大友の特徴を生かすにはどういうスイングがベストかと考え、当初65%だったオンプレーン率は75%くらいがいいだろうと。そうして最終的に打率.244まで上がり、長打力を発揮することもできました」
大友はフィジカルの強化にも取り組み、体重85キロで筋肉量71.1キロ、体脂肪率12.8%に。身長181センチの「捕手では珍しい5ツールプレイヤー」としてドラフト会議を迎えた。
残念ながら支配下での指名はなかったが、前述したようにソフトバンクが育成3位で指名する。色川GMは「痛恨の極み」と語るが、育成からでもチャンスはある。まずはスタートラインに立つことができ、ここから先は本人次第だ。
「あの年齢(25歳)の選手を逆に育成で獲ってくれるという奇跡を起こしてくれ、ソフトバンクさんには感謝しかないです。これからは大友次第なので、本人が"成功"にしてくれると思います」(色川GM)
ひと言で「独立リーグ」と言っても30以上の球団があり、そのカラーはさまざまだ。
そのなかでなぜ、茨城アストロプラネッツは毎年のようにドラフトで指名されているのか。その理由はNPBに「欲しい」と思ってもらえるように育成し、アプローチしているからだ。
つづく>>