最後の最後まで混沌としている2024年J1優勝争い。ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの三つ巴のまま、12月8日の最終節決着へと持ち越された。 現状を改めて整理すると、首位・神戸は勝ち点69、2位・広島は同68、3位・町田は…

 最後の最後まで混沌としている2024年J1優勝争い。ヴィッセル神戸サンフレッチェ広島、町田ゼルビアの三つ巴のまま、12月8日の最終節決着へと持ち越された。

 現状を改めて整理すると、首位・神戸は勝ち点69、2位・広島は同68、3位・町田は同66。神戸が次の湘南ベルマーレ戦で勝てば、文句なしの2連覇が決まることになる。
 問題はそれ以外のケースで、引き分けた時は広島がガンバ大阪に勝てば逆転優勝。神戸が黒星の時も広島と町田に逆転の目が出てくる。町田のタイトル獲得は神戸と広島が揃って敗れ、町田が鹿島アントラーズに勝利した場合のみ。確率的には低いが、何が起こるか分からないのがサッカーという競技。8日の14時キックオフの3試合を固唾を呑んで見守るしかないだろう。
 今のところ、やはり神戸が最も王者に近いのは紛れもない事実。その彼らが順当に湘南を下して2冠・連覇ということになれば、MVPはやはり11月30日の前節・柏レイソル戦で劇的同点弾を挙げた武藤嘉紀が最有力と言えそうだ。
 武藤は2021年夏の神戸加入後、大迫勇也山口蛍酒井高徳らとともにチームを力強く支えてきた。リーグ初制覇を達成した昨季も34試合出場10ゴールと活躍。だが、ご存じの通り、昨季は大迫が22ゴールという目覚ましい実績を残したため、ベストイレブン入りするだけにとどまっていた。

■武藤嘉紀による厳しい言葉

 しかしながら、今季は大迫が35試合出場11ゴール、宮代大聖が31試合出場10点という数字を残す中、武藤は36試合出場12ゴールと目下チーム得点トップ。しかも11月23日の天皇杯決勝でもガンバ相手に宮代の決勝弾をアシストしていて「チームを勝たせるダイレクトな仕事をしている選手」という印象が非常に強いのだ。
 神戸には、守護神・前川黛也、DFのマテウス・トゥーレルと山川哲史、アンカー・扇原貴宏のようにリーグ30試合以上に出ている主力はいるものの、インパクトという部分では武藤にやや劣る。そう考えると、32歳の円熟期を迎えたアタッカーが受賞するのがベストではないか。
 キャラクター的にも今季の武藤はビッグタイトルに相応しい立ち振る舞いを見せている。それを色濃く感じさせたのが、柏戦後の取材対応だ。
「本当に大きい勝ち点1だったし、なかったと思うと本当にぞっとするので、嬉しく思いますけど、やっぱり甘さが出ている。一番大事な試合で試合に入り切れていない選手っていうのがいましたし、そういうのはホントに必要ないって何度も言ってますけど、チームとして戦うことは絶対にブラしちゃいけない。
 立ち上がりからの失点、球際で勝てない、反応が遅い、気の緩み…。難しい試合になると分かっていたにも関わら、ああいう入りをしてしまったこと自体がやっぱり間違い。僕らは仲良しグループでやってるわけじゃないんでね」と彼は厳しい言葉を次々と吐き出したのだ。

■リーダーの風格

 それこそが視座の高さの証明ではないか。「自分たちは王者なのだから、本来なら柏戦で優勝を決めるべき」という思いがあるからこそ、不甲斐ない試合運びに対しての苦言が真っ先に飛び出したのだろう。
 武藤はもともと自分にもチームにも厳しい人間だが、それをより鮮明にしている点を見ても、リーダーの風格が見て取れる。そういう時であるがゆえに、彼がMVPに最も近い存在と言っても過言ではないのだ。
 その通りに物事が進むかどうかは最終節次第。神戸が柏戦で犯したミスをいい教訓にして、確実に勝ち切れれば、シナリオ通りの結末になるはず。その動向が今から大いに注目されるところだ。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)

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