その瞬間、ピーススタジアムは黄金の歓声で満ちあふれた。2024年12月1日、午後2時19分のことである。 このとき、J…
その瞬間、ピーススタジアムは黄金の歓声で満ちあふれた。2024年12月1日、午後2時19分のことである。
このとき、J1昇格プレーオフ決勝を巡って激突したV・ファーレン長崎戦で、ベガルタ仙台FWエロンがゴールネットを揺らすことに成功した。すでに1点目を奪っていた仙台にとって、この2点目は試合の行方を決定づけるもの。1100km離れた杜の都から駆け付けた仙台サポーター2000人を歓喜させた。
この得点場面をアシストしたのは真瀬拓海。そして、その右SBにボールを供給したのは郷家友太。右サイドのコンビが導いた得点だった。
そしてこの右サイドが、森山佳郎監督が「(4得点取ることは)1%も考えていなかった」と話すほど難しいこの試合でスコアを動かしていく。先制点となったPK以外の3得点すべてが右サイドから生まれたものなのだ。
とはいえ、長崎もその右サイドを警戒していた。試合前の両チームのスタッフ間の会話で、長崎のスタッフは仙台のスタッフに「真瀬上がりの3枚気味で仕掛けてくるんでしょ?」と心理戦とも言えるジャブを放ってきていたという。その返しは、「そこを突いてくるんでしょ?」というもの。ピッチの外でも、互いが互いにプレッシャーをかけ、探り合う試合だった。
■郷家友太が語る左右の違い
とはいえ、特に序盤は左サイドの相良竜之介の個人技が光った。そのドリブルで相手選手を抜き、長崎の守備に穴を開けようとした。
郷家友太に右サイドの攻撃について聞いても、「ポケットは取りたいなと思っていたんですけど、相手も真瀬くんや僕のポジションを消してました」とその難しさを振り返ったうえで、「逆に前半は相良のサイドではボールを受けて仕掛けることができていた」と話しており、外から見えていたものと中で感じていたことは同じだったようだ。
仙台は左右非対称の攻撃を展開。右サイドでは郷家友太や真瀬拓海らがボールをつなぎながら手数と時間をかけて相手の守備を破ろうとする。対して左サイドは、相良竜之介のその細かなタッチによるドリブルとスピードで切り裂こうとする。違った攻撃を展開することで、相手を揺さぶっていった。
だからこそ、右サイドを警戒されていたとしても、左サイドでの攻撃があることをチームは意識していた。実際、郷家は逆サイドについて賞賛しつつ、「本当に1年を通してみれば、左サイドは勢いを持った攻撃のスタイルで、右はちょっと丁寧に相手の動きを見ながらの攻撃ができている。チームに左と右でまた違う2つの攻撃があるので、相手も困るんじゃないかなと思います」と手応えを明かす。
■真瀬拓海「このコンビは自信を持ってやっています」
「ユウタがいい形で背後を取ってくれて、自分のとこに転がってきて、中を冷静に見たらエロンがうまく合わせてくれた。本当にいい崩しだったと思います」
ベガルタの2点目をこう自賛して振り返る真瀬拓海は、郷家の関係について自信を見せる。さらに、「ユウタは引き出せる選手」としたえで、「自分(=真瀬)のプレーを気遣ってくれて、ボールを引き出し、ワンツーを狙い、そして、中にポジションを取って背後や外に走りやすいようにしてくれる」とも語って、いいコンビネーションができていることを言葉にする。
そして、次のように言い切る。「去年からやっているので、お互いの良さは分かってます。このコンビは自信持ってやっています」
ベガルタ仙台が時間をかけて作り出した左右非対称の攻め方。それは、右サイドが左サイドをリスペクトし、さらに、同じサイド内でもリスペクトをしながら積み重ねてきたものだ。この大一番でその蓄積が出たことによって、勝利を手にしたのだった。
(取材・文/中地拓也)