シュートのこぼれ球に狙いを定めて、24歳のエースはファーから中央へさらに加速していった。ボールを必死に追いながら、期待…
シュートのこぼれ球に狙いを定めて、24歳のエースはファーから中央へさらに加速していった。ボールを必死に追いながら、期待の逸材は相手ゴール前の状況を完璧に把握していた。次の瞬間、未来へつながるホットラインが開通した。
ホームのUvanceとどろきスタジアムで山東泰山(中国)と対峙した、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のリーグステージ第6節。川崎フロンターレが大量3ゴールを奪い、守備陣が無失点と踏ん張って迎えた90分だった。
MF橘田健人の縦パスを受けたMF河原創が、素早く反転してスルーパスを送る。ターゲットは6分前に投入されていた高卒ルーキー、FW神田奏真。この18歳は、ペナルティーエリア内を左側へ膨らみながら思考回路をフル回転させていた。
「角度的にけっこう厳しかったけど、走っている最中に(山田)新くんの姿が見えていたので。横パスが通れば入ると思って、うまく折り返せました。パスがちょっと弱い感じでしたけど、新くんがギリギリで詰めてくれてよかったです」
■デビューからわずか4分での大仕事
切り返しから利き足の右足で持ち直す時間はない。体を強引に捻って左足を振り抜き、自らは体勢を崩してその場に転倒しながら絶妙のパスを中央へ送る。相手ディフェンダーの前へ走り込み、左足を合わせた山田は実は異なる絵を描いていた。
「(神田)奏真がシュートを打つと思って、ボールがこぼれてきそうなところへ入っていったんですけど。本当にいいボールがきたので感謝したいですね」
高温多湿の敵地タイへ乗り込んだ、11月26日のブリーラム・ユナイテッドとの前節。アディショナルタイムの93分に投入され、長く待ち焦がれてきた公式戦デビューを果たした神田は、わずか4分後に大仕事をやってのけた。
敵陣の右サイドで素早いプレスからボールを奪うと、そのままショートカウンターを発動させる。ドリブル突破から、ペナルティーエリアの手前でファーへ走り込んできた山田へパスを送った。しかし、球足が弱く山田には合わない。
それでも、逆サイドへ詰めてきたMF遠野大弥が必死に折り返す。ボールは相手選手との接触で倒れ込んでいた山田をかすめてファーサイドへ。突然訪れたチャンスにも慌てず、落ち着いて左足を合わせた神田を阻む相手選手は誰もいなかった。
■神田奏真「はい、見えていました!」
プロデビュー戦で初ゴールを決める離れ業を演じて8日後。自身をして「パスが弱い」とちょっぴり慌てさせたパスを、再び山田へのもとへ送った神田のもとへ、ACL初ゴールを決めた山田が笑顔で抱きつきながら声をかけた。
「見えていたの?」
視界に山田の姿をとらえていたのか、と聞かれた神田は即答した。
「はい、見えていました!」
意図が込められたパスだったとわかった山田は、さらに喜びを爆発させた。2人の間でかわされた短い会話のエンディングを、神田がうれしそうに明かした。
「ナイス、と言われました」
年代別の日本代表の常連で、今シーズンはU-19代表で活躍してきたホープ。そして、プロ2年目で19ゴールを量産する急成長を遂げ、J1得点ランキングで3位タイにつける新エース。最後に至高のホットラインを開通させた川崎は4勝2敗で4位に浮上し、新体制のもとで臨む来年2月11日の浦項スティーラーズ(韓国)との第7節で勝てば、決勝トーナメント進出を決められる状況を手繰り寄せた。
(取材・文/藤江直人)
(後編へつづく)