目の前の一戦に集中していたからか。ホームのUvanceとどろきスタジアムのピッチに初めて立った川崎フロンターレの高卒ル…
目の前の一戦に集中していたからか。ホームのUvanceとどろきスタジアムのピッチに初めて立った川崎フロンターレの高卒ルーキー、FW神田奏真(静岡学園)の耳には、ファン・サポーターが歌う自身のチャントは聞こえていなかった。
川崎が4-0で快勝し、来年3月に幕を開ける決勝トーナメント進出へ王手をかけた、4日の山東泰山(中国)とのAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)のリーグステージ第6節。神田のアシストからFW山田新が4点目を決めた90分を境に、スタンドでは懐かしいチャントのリズムが奏でられていた。
それは今夏まで所属した、元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミスのチャントを、歌詞の一部を神田の名前と差し替えたものだった。公式戦でデビューから2試合で1ゴール1アシストと、周囲を驚かせる結果を残している18歳のホープが、早くも認められつつある証に、本人も「うれしいです」と声を弾ませた。
「ああいう偉大な選手が身近にいたのは、自分にとってもすごくいい経験でした。そのおかげでいまの自分があるとも思っているし、さらにバフェ(ゴミスの愛称)さんのチャントも引き継がれて。バフェさんからはストライカーとしてのポジション取りをよく言われましたし、いまもそこは自分に対して常に言い聞かせています」
■小林悠のプレーが神田奏真の手本になる
9月下旬に行われた退団会見で、ゴミスは山田と神田の名前をあげたうえで「若くて素晴らしい彼らがフロンターレを、そして日本代表を引っ張っていく」と期待を込めた。そして、J1歴代7位となる通算142ゴールをあげている37歳のベテラン、FW小林悠も輝きを放つ神田へゴミスと同じ思いを抱いている。
「高卒1年目であれだけやれるのは本当にすごいし、これからどのような選手になっていくのかが楽しみだし、僕なんかどんどん超えていってほしいですよ」
もっとも、小林は15シーズン目を終えようとしている自身のキャリアから弾き出された、成長を加速させるための金言を授けることも忘れなかった。
「積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくるし、僕も話せる範囲でアドバイスをさせてもらっています。ただ、フォワードは人に聞くよりも、自分でつかんでいくものなので。僕自身も周囲に聞くよりは、勝手に見て学んできましたからね」
川崎ひと筋でプレーしてきた小林が、身近でそのプレーを観察する、いわば師匠にあげてきたのがジュニーニョと大久保嘉人だった。今度は自分自身が、神田にとってのお手本になるという思いを込めながら、こんな言葉も紡いでいる。
「見て学んでもらえるようなプレーを僕がしていくことが、奏真にとってもプラスになる。なので、現役でプレーしている間はとにかく頑張るだけですね」
■「自分はストライカーなので、やはりゴールがほしかった」
試合終了間際には、今度は山田のパスを受けた神田が中央突破。ペナルティーエリア近くで右へ旋回しながらシュートを放つも、ゴール左へ外してしまった。
「もうちょっとボールを前へ運べたかといえば運べたし、シュートのときも体重があまり乗っていなかった。アシストという結果を残しましたけど、自分はストライカーなので、やはりゴールがほしかった、というのが正直な思いです」
今シーズンの最後の一戦となる、アビスパ福岡をホームに迎える8日の最終節で再びチャンスをつかみ取りたいと神田は前を見すえた。背中を見せてくれる先輩たちに囲まれながら、期待の逸材は成長への貪欲な思いをどんどん膨らませている。
(取材・文/藤江直人)