すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用できているかどうかは疑わしい、と言うのは、サッカージャーナリストの後藤健生。その問題点について、Jリーグの優勝争いの一戦を使…

 すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用できているかどうかは疑わしい、と言うのは、サッカージャーナリストの後藤健生。その問題点について、Jリーグの優勝争いの一戦を使って検証を試みる!

■なぜオフサイドだけ「厳密」なのか

 では、武藤嘉紀の同点ゴールの場面はどうなのか。

 オフサイド・ラインぎりぎりの攻防であり、また、オフサイド・ポジションにいた選手がプレーに関与したか否かという難しい判断を迫られたことは事実だ。だが、それにしても約4分というのは明らかに長すぎるのではないだろうか。

 もう一つの論点としては、ピッチ上の審判団が下した「オフサイド」という判定が「はっきりとした、明白な間違い」だったかどうかという点だ。

 もしそれが「はっきりとした、明白な」事象だったとしたら、判定を下すまでに4分もかかるわけはない。「はっきりしない」、「明白ではない」からこそ、判定に時間がかかるのではないか。

 だが、オフサイド判定に限っては、明白ではない場面でも長時間かけて厳密な判定を下すための努力がなされるというのが、現行のVAR制度なのだ。なぜ、ここだけ「禁欲的」ではないのだろうか?

■引く作業に時間がかかる「3Dライン」

 オフサイド判定に時間がかかるひとつの理由として、3Dラインのことがよく言われる。

 映像を基に攻撃側の足先や手先を地上に投影させた赤いラインが引かれ、守備側プレーヤーの足先、手先には青いラインが引かれて、それでオフサイドか否かを判断するのだが、そのラインを引く作業に時間がかかるというのだ。

 だが、そんなラインを引かなくては判断できないというのは、つまり、それが「はっきりした、明白な」プレーではないということを意味する。

 VARに、そんなことまでを求める必要はあるのだろうか?

 オフサイド判定の専門家である副審(AVAR)がスロー映像や静止画を肉眼で見て判断できないような状況なら、それは「はっきりとした、明白な」オフサイドではないのだから「同一線上」(つまりオンサイド)と見なしたり、ピッチ上の審判団の判定を優先させたりしてもいいのではないか。

 VARというシステムは、ある意味ではとても禁欲的なのに、オフサイドに関してだけ、極端に100%を追求することになっている。そのちぐはぐさが、僕にはおかしいと思えるのである。

■「勝点1」を加えて圧倒的に有利だが…

 いずれにしても、J1リーグは12月8日に最終節を向かえる。

「VARでもらった」勝点1を加えた神戸が圧倒的に有利な状況であるのは間違いない。ホーム、ノエビアスタジアム神戸で湘南ベルマーレに勝利すれば、他会場の結果とは関係なく神戸のJ1リーグ連覇と2024年シーズンの2冠が決定する。

 だが、それほどすんなりと優勝が決まるとは思えないのがJリーグというリーグなのだ。

 首位に立ったチームがリズムを崩して星を落としてしまう。だが、翌週は代わって首位に立ったチームが不甲斐ない試合をして、再び順位が逆転してしまう。そして、たまたま最終節終了の時点で上にいたチームが優勝……。

 昔から、Jリーグではそんな優勝争いが何度も繰り返されてきた。

 神戸は昨年のチャンピオンであり、サンフレッチェ広島も一昨年、昨年と2年連続で3位に入った強豪だ。現在のJリーグでの最強の2チームであることに疑いはない。神戸には、海外リーグで活躍し、経験豊富な選手が何人もいる。

 そんなチームでも、シーズンが終盤に近付き、優勝争いの渦中に立つと冷静に戦えなくなってしまうのだ。

 今シーズンのJリーグで最強の攻撃力を誇る広島も、11月に入ると突然、得点力不足に陥り、リーグ戦では2試合連続で無得点負け……。と思っていたら、12月1日の札幌戦ではいきなり5得点の大爆発となった。

 一方、リーグ戦、天皇杯ACLを通じて堅守を武器に安定した戦いぶりを続けていた神戸も、柏レイソルとの試合では良いところが見えなくなってしまった。たしかに、柏が前線から素晴らしいプレスをかけてきたし、DFのパフォーマンスも高かったが、神戸の選手の動きにキレが欠けていたことも事実。

 そんな状況を見ていると、「ホームで湘南に勝って神戸がすっきりと連覇達成」といったシナリオは現実的ではないような気がしてくる。最終節でも、何らかのドラマやサプライズが起こるのではないか……。

 見ているほうは面白いのだが、本来なら強いチームは最後まで揺るぎない戦いを続けて勝ち切ってほしいような気もする。たとえば、ワールドカップ・アジア最終予選を戦う日本代表のように……。

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