netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度…

netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)

◆超人気薄の馬が上位に食い込んだ例はそれほど多くない

AIマスターM(以下、M) 先週はチャンピオンズCが行われ、単勝オッズ2.2倍(1番人気)のレモンポップが優勝を果たしました。

伊吹 お見事と言うほかありませんね。好スタート・好ダッシュを決めて難なくハナを切るかと思われたものの、外からミトノオー(10着)に競りかけられ、併走する形で1コーナーを通過。しかし、2コーナーで再びレモンポップが前に出て、先行争いに決着をつけています。向正面でミトノオーらを引き離し単独先頭に立つと、後続が各々のタイミングで進出を図る中、リードを保ったままゴール前の直線へ。先団からペプチドナイル(5着)が、内ラチ沿いからドゥラエレーデ(3着)が、大外からウィルソンテソーロ(2着)がそれぞれ迫り、最後はウィルソンテソーロと並んでゴールしましたが、結局ハナ差だけ凌ぎ切りました。決勝線の手前で伸びた2頭、ドゥラエレーデとウィルソンテソーロは4コーナーを10番手前後のポジションで通過していましたし、ハギノアレグリアス(4着)がいたポジションもその近く。決して先行馬向きの流れではなかったはずです。陣営はもちろん、鞍上の坂井瑠星騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。

M レモンポップは自身6度目のGI級レース制覇で、JRAのGIに限っても2023年のフェブラリーS、チャンピオンズCに続く3勝目。引退式当日のラストランを制し、これ以上ない形で競走生活を締め括りました。

伊吹 2023年のドバイゴールデンシャヒーンで10着に、2024年のサウジCで12着に敗れているとはいえ、国内のレースに限ると2023年の根岸Sから7連勝。通算成績も国外のレースを除けば15戦12勝15連対で、まったく崩れていません。デビューから丸4年に渡ってこれほど安定した成績を収めるのは至難の業。単純に競走能力が高いだけでは成し得ない偉業だと思いますし、田中博康調教師をはじめとする周囲のスタッフも素晴らしかったですね。

M 種牡馬入り後もかなりの注目を集めることになるのではないかと思います。

伊吹 レモンポップはもともと2018年のキーンランド社11月セールで購買された馬。当時の価格は7万USドル(およそ1千万円)でした。母や兄姉の戦績が地味で、デビュー前から注目を集めるような存在ではなかったものの、父がLemon Drop Kid、母の父がGiant's Causewayですから、一流の種牡馬となる下地は十分にあるのではないでしょうか。全日本的なダート競走の体系整備に伴い、国内でもダート向き血統に対する需要が高まっているところなので、本当に楽しみです。

M 今週の日曜京都メインレースは、例年だと阪神芝1600m外で施行されている2歳牝馬チャンピオン決定戦、阪神ジュベナイルフィリーズ。昨年は単勝オッズ5.9倍(3番人気)のアスコリピチェーノが優勝を果たしました。歴史的名牝を輩出してきた注目のレースである一方、魅力ある配当が飛び出した年も決して少なくないように思います。

伊吹 2023年は3連単2万1530円とやや堅めの決着でしたが、2022年が3連単17万8460円、2021年も3連単11万4300円。これくらいの波乱は十分にあり得ると認識しておくべきでしょう。

M ただし、過去10年の単勝人気順別成績を見ると、7番人気以下の馬はあまり上位に食い込めていません。

伊吹 より実態に即した区切り方をすると、単勝4番人気以内の馬は2014年以降[9-5-8-18](3着内率55.0%)、単勝5番人気から単勝6番人気の馬は2014年以降[1-2-1-16](3着内率20.0%)、単勝7番人気から単勝12番人気の馬は2014年以降[0-3-1-56](3着内率6.7%)、単勝13番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-58](3着内率0.0%)となっていました。上位人気グループの馬がそれなりに堅実なので、極端に人気のない馬から入るのは得策でないような気もします。

M そんな阪神JFでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ミストレスです。

伊吹 面白いところを挙げてきましたね。上位人気グループの一角を占めるかどうかは微妙なところですが、少なくとも超人気薄ということはないはず。

M ミストレスはキャリア2戦。デビュー戦が2着馬を6馬身突き放す完勝でしたし、前走のアルテミスSでも2着に健闘しています。実績上位ではあるものの、逃げの競馬しかしていない点を不安視する向きもありそう。それなりに妙味あるオッズが付くのではないでしょうか。

伊吹 ちなみに、当歳時のセレクトセールにおける購買価格は9680万円(税込み)。もともとその潜在能力を高く評価されていた馬です。Aiエスケープも有力と見ているのであれば、しっかりマークしておいた方が良さそう。この見立てを踏まえたうえで、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきたいと思います。

M 最大のポイントはどのあたりでしょう?

伊吹 まずは距離適性をチェックしておきたいところ。2014年以降の3着以内馬30頭中26頭は、1500m超のレースにおいて“着順が1着、かつ上がり3ハロンタイム順位が3位以内”となった経験のある馬でした。

M なるほど。1マイル未満のレースしか勝ったことがない馬は強調できませんね。

伊吹 ちなみに、“JRAの、1500m超のレース”において“着順が1着、かつ上がり3ハロンタイム順位が3位以内”となった経験がない、かつ“JRAの、牝馬限定以外の、出走頭数が14頭以上の、重賞のレース”において3着以内となった経験がない馬は2014年以降[1-0-0-77](3着内率1.3%)。牡馬相手の重賞で善戦したことがあるくらいの実績馬でない限り、距離適性に不安の残る馬は割り引きが必要です。

M ミストレスは新潟芝1600m外のデビュー戦を勝っているうえ、当時の上がり3ハロンタイム順位は2位。この点は強調材料のひとつと言えます。

伊吹 あとは戦績の安定感も見逃せないファクターのひとつ。同じく2014年以降の3着以内馬30頭中28頭は、JRAのレースにおいて4着以下となった経験がない馬でした。

M 大敗を喫したことのある馬は過信禁物、と。

伊吹 おっしゃる通り。今年はこの条件に引っ掛かっている実績馬がわりと多いので、扱いに注意しましょう。

M 先程も触れた通り、ミストレスはこれまでのところ2戦2連対。まだ大きく崩れたことはありません。

伊吹 さらに、同じく2014年以降の3着以内馬30頭中27頭は、関東圏のレースで“着順が3着以内、かつ4コーナー通過順が2番手以下”となったことのある馬でした。

M 思いのほかはっきりと明暗が分かれていますね。

伊吹 番組体系の構造や近年のトレンドによるものだと思うのですが、阪神JFの前哨戦にあたるレースは、京都・阪神やローカル各場よりも東京・中山の方がハイレベルになりがち。関東圏のレースを積極的に使ってこなかった馬は、疑ってかかった方が良さそうです。

M ミストレスが2着となったアルテミスSは、東京芝1600mで施行されたレース。当時の4コーナー通過順が1番手だったので、厳密に言うと伊吹さんの挙げた条件をクリアしていませんが……。

伊吹 基本的に差し有利なレースですし、確かにその点は若干気になるものの、だからと言って大きく評価を下げる必要はないでしょう。Aiエスケープが狙い目と見ているのであれば、少なくとも無理に嫌う必要はないはず。実際のオッズも加味したうえで、買い目上の位置付けをじっくり検討したいと思います。