すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用でき…
すっかりサッカーの一部となった、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。だが、そのテクノロジーを十分に有効活用できているかどうかは疑わしい、と言うのは、サッカージャーナリストの後藤健生。その問題点について、Jリーグの優勝争いの一戦を使って検証を試みる!
■ついにリーグ戦の「優勝争い」に介入
年々その威力を増しつつあるビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)は、ついにリーグ戦の優勝争いにまで介入してきた。
11月30日に行われたJ1リーグ第37節の柏レイソル対ヴィッセル神戸の一戦。
ピッチ上では優勝争いのトップを走る神戸と、一日も早くJ1残留を決めたい柏が熱い戦いを繰り広げていた。柏が前線からハイプレスをかけて神戸のパスを分断。ロングボールに対してもDFが頑張って跳ね返し続けた。
そして、開始わずか5分、左CKから木下康介が高い打点のヘディングを決めて1点をリード。後半は神戸に押し込まれる場面も増えたが、最後まで粘り強く守り切り、そして、カウンターから何度か決定機もつかんだ。そこで、「2点目」を取れていれば、柏は間違いなく勝利して残留を決められたはずだ。
「怯むことなく、90分間表現してくれた」と柏の井原正巳監督。
たしかに90分までは本当によく戦ったのだが……。アディショナルタイムに入ってから、さまざまなドラマが展開され、柏は5試合連続のアディショナルタイムでの被弾となって勝利を逃してしまった。
■実に貴重なものとなった「勝点1」
まず、88分に空中戦の競り合いで柏のDFのジエゴが武藤嘉紀に対してヒジ打ちを食らわせた。御厨貴文主審はこのプレーを流したが、ここでVARが介入。反則が認められて神戸にPKが与えられ、前半に同様の反則で警告を受けていたジエゴは退場となった。
ところが、このPKのチャンスで大迫勇也のキックはクロスバーの上に大きく外れてしまう。「これで神戸の敗戦が濃厚」と思われたが、神戸は諦めることなく1人少なくなった柏のゴールに襲いかかった。
そして、100分(90+10分)に混戦の中で武藤がこぼれ球を押し込んで同点かと思われたのだが、副審の旗が上がっており、万事休すかと思われた。
しかし、ここで再びVARが介入する。そして、約4分という時間をかけてオフサイドのチェックが行われ、神戸の得点が認められたのだ。
こうして、試合は1対1の引き分けに終わり、神戸は勝点1ポイントを獲得したが、このVARによって与えられた1ポイントは、神戸にとって実に貴重なものとなった。
もし、神戸がこの試合に敗れていたら、翌日の北海道コンサドーレ札幌戦でサンフレッチェ広島が勝利した時点で両チームの勝点が並び、得失点差で上回る広島が首位を奪還していたはずだったからだ。そうなったら、神戸は最終節で湘南ベルマーレを破ったとしても、広島が勝利したら優勝に届かなくなっていた。
だが、柏戦で貴重な勝点1を手にしたおかげで、神戸は勝点でリードした状態で最終節を迎えることができることになったのだ。
■16分58秒もあった「追加タイム」
この試合、後半のアディショナルタイムは16分58秒もあった。
ジエゴの反則の場面。オン・フィールド・レビューが行われ、PKの決定が示されたのはプレーの時点から約3分20秒が経過していた(さらに、大迫がキックするまでに3分10秒ほどかかった)。
そして、武藤の同点ゴールが決まってから得点が認められるまでには、なんと4分もの時間が経過していた。こちらはオフサイド判定だから、オンリー・レビューだったので、観客もピッチ上の選手たちも、御厨主審が耳に手を当ててVARと交信している場面を延々と見せ続けられたのだ。
その後、神戸サポーター席前でゴール・セレブレーションがあり、シャツを脱いだ武藤に警告が与えられる時間もあって、結局アディショナルタイムは17分近い長いものとなったのだ。