広尾晃のBaseball Diversityジャパンウィンターリーグ(JWL)は、毎年11月末から約1か月間、沖縄の地で行われるウィンターリーグだ。今年で3回目を迎える。ウィンターリーグとは?野球のウィンターリーグとは、レギュラーシーズンが…
広尾晃のBaseball Diversity
ジャパンウィンターリーグ(JWL)は、毎年11月末から約1か月間、沖縄の地で行われるウィンターリーグだ。今年で3回目を迎える。
ウィンターリーグとは?
野球のウィンターリーグとは、レギュラーシーズンがオフになる冬季に、温暖な地域で行われるリーグ戦だ。
主として2つの目的で行われる。
1つは、シーズンオフの期間の選手の実力アップ。特に若手で、レギュラーシーズンは試合出場機会に恵まれない選手の経験値を高めるために行われる。またケガをして、フル出場できなかった選手などのリハビリ的な目的もある。
もう一つは、今いるチームを退団して、新たな活躍先を求める選手の、トライアウトの場という意味もある。戦力外になったり、自ら退団した選手にとって、実力をアピールする機会となる。
また、純粋に「野球を楽しみたい」という目的で参加する選手も中にはいる。
充実したプログラム
JWLもまさにこの目的で行われる。特に、トライアウトの場として評価が高い。参加費用は40万円弱と高額だが、プログラムは充実している。
まず、選手は球場に近接したホテルに宿泊し、3度の食事がついている。
選手にはユニフォームが支給される。また試合出場機会は確保される。チームにはトレーナーがいて、選手の身体のケアをする。
試合中は、投手の球速、回転数、変化量、打者の打球速度、打球角度などのデータが計測される。
また、夜はホテルの会議室などで、トレーナー、データアナリストなどの専門家による「レベルアッププログラム」という座学が行われる。自由参加ではあるが、きわめてレベルの高い講義だ。
NPB、中国代表、CPBL、社会人野球などが参加
3年目の今季、JWLはさらに充実した。
まず埼玉西武ライオンズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、横浜DeNAベイスターズとNPBの3球団が若手中心に選手を派遣した。
また中華人民共和国がU23の選抜チームを、チームごと派遣した。2028年のロサンゼルス五輪では「野球」が競技として復活することが決まっているが、中国は再び野球に力を入れ始めている。
さらに、台湾プロ野球(CPBL)の中信兄弟なども選手を派遣。韓国プロ野球(KBO)からも選手がやってきた。
社会人野球のトヨタ、HONDAなども引き続き選手を派遣。日本の独立リーグからも選手が参加している。
それに加え、ヨーロッパ、アメリカ大陸からもマイナーリーガー、独立リーガーがやってくる。彼らの多くは「日本野球を学びたい」という意向を持っている。
東京オリンピックやWBCで日本が世界一になったことが大きいが、参加した選手は
「もちろん、MLBが組織としては大きいが、MLBは競争ばかりで、野球を学ぶことができない。日本は指導者が、日本のスタイルの野球を教えてくれる。ここで学べば成長することができる」と話す。
1年目の参加者は66人、2年目は101人だったが、3年目の今年は13か国143人になった。今年は実力によってアドバンス、トライアウトの2つのリーグに分かれ、それぞれ3チームによるリーグ戦(リーグをまたいだ交流戦あり)を戦う。
なお、プロ野球チームの参加により、従来は参加が認められていた大学生、高校生はプロアマ規定に抵触するため参加ができなくなっている。
地元の期待感も高まる
11月22日、那覇空港で「空港歓迎式」が行われた。選手の代表に花束が贈呈され、選手による決意表明が行われた。3年目を迎え、JWLは沖縄財界の全面的な支援の下に行われている。沖縄県の金融機関の発表によると、昨年の経済効果は5.8億円に上ると言う。
11月23日は、選手の体力、運動能力を計測するフィジカルテストが行われた。30m走、垂直跳び、バイクによる脚力測定、投球測定、ノック、フリーバッティング、プルダウン(全力でネットに投げ込んで速度を計測する)など。選手はグループに分かれて次々とメニューをこなしていったが、何しろ人数が多いので、どこでも行列ができている。また日本語だけでなく、英語、スペイン語に中国語も聞こえてくる。
アメリカで行われているウィンターリーグもこういう雰囲気なのだろう。
24日朝8時半、沖縄市のコザ信金スタジアムでオープニングセレモニーが行われた。主催者の鷲崎一誠代表は
「ここ沖縄に、世界中の選手を集めて、ここから羽ばたいていける “野球界のチャンプルー” をつくりたい」とあいさつ。地元沖縄市副市長やスポンサーのあいさつの後、開幕戦が始まった。
レベルの高い熱戦を展開
開幕戦はEISAと、中国U23の対戦。広島東洋カープを今オフに戦力外になった内間拓馬が5回被安打2の力投。EISAが2対0で初戦を飾った。
内間の球速は150㎞/h近くが出ていたが、中国の選手も負けずに食らいついていく。両チームの守備も機敏で肩も強い。
昨年までのレベルとは一線を画した強いチーム同士の対戦だった。
基本的に午前9時、正午、午後3時プレイボールの1日3試合。休日は5日間あるが、アドバンス、トライアウト計6チームは、26日で18試合+プレーオフを消化する。
感覚的には、ほぼ毎日試合をすることになる。このスケジュールで試合をするうちに、コンディション維持のためには何をすべきか、とか、食事の重要性などを学ぶ。
また国内外の選手と生活をともにすることで、深い友情が芽生える。
海外のウィンターリーグを経験した選手たちはしばしば「一生付き合える友を得た」と言うが、そうした出会いもウィンターリーグの魅力だ。
レベルアッププログラムの学び
さらに言えば前述した「レベルアッププログラム」など「学び」の場がいろいろ用意されているのもジャパンウィンターリーグの魅力だ。
フィジカルテストの日には、室内練習場で、大谷翔平などが通っていることでも知られるアメリカのトレーニング施設「ドライブライン」の関係者が、この施設が開発したトレーニング機器の説明会を行った。
さらに初日の試合後は、ホテルの会議室で多くのトップアスリートのメンテナンスを担当する骨格改善トレーナーの鈴木善雅氏が、骨格と野球選手のパフォーマンスの関係について講義を行った。
「大谷翔平選手が160㎞/hのボールを投げることができるのは、骨格がこういう構造になっているから」という説明に、選手たちからはざわめきの声が出た。
翌日はこの試合のデータ計測を担当するアナリストたちが、データの見方やデータから何を得るのか、について解説。
3日目には、埼玉西武ライオンズの栄養管理を担う帝京大学スポーツ医科学センター助教の虎石真弥氏が、アスリートはどんな食生活を送るべきか、チェックすべきことは何か、について講義をした。
こうした「レベルアッププログラム」は、自由参加になっているが、毎回数10人の選手が参加し、熱心に話を聞いていた。
各回の講義では、外国人選手には、通訳がついていた。
今後は、外国人選手向けの講義、セミナーも予定されている。
選手の先行投資の場
ジャパンウィンターリーグは、単なるキャンプでも合宿でもない。集団生活ではあるが、選手個々が自主的に野球に向き合い、自身を成長させるために主体性をもって学んでいくプログラムでもある。
この体験を経れば、多くの野球選手は視界が広がり、将来展望もできてくるのではないかと思う。野球選手にとってはいわば「先行投資の場」になっているのではないか。