サッカー日本代表は、2024年のワールドカップ・アジア最終予選(3次予選)を戦い終えた。本大会出場を大きく引き寄せる素晴らしい戦いぶりだったが、サッカージャーナリストの大住良之は、9月からの6試合の中に、運命の岐路となった「一戦」があると…
サッカー日本代表は、2024年のワールドカップ・アジア最終予選(3次予選)を戦い終えた。本大会出場を大きく引き寄せる素晴らしい戦いぶりだったが、サッカージャーナリストの大住良之は、9月からの6試合の中に、運命の岐路となった「一戦」があると指摘する。日本代表の「進化」を感じさせる一連のプレー、「奇跡の10秒」を読み解く!
■試合が壊れるのを防いだ「立役者」
さて、そのプレーは、前半27分、DAZNの中継映像の時計では「26分48秒」あたり、サウジアラビアのMFムサブ・アルジュワイルが日本陣に入った中盤で、前向きにボールを持ったところから始まる。
この少し前のプレーで、日本は左のタッチライン際で町田浩樹から鎌田大地にパスが渡り(三笘薫が内側に入り、鎌田が外側で巧妙なポジションを取っていた)、鎌田がインサイドを取ってドリブルで前進しようとしたところを、戻ってきたサウジアラビア右FWアイマン・ヤハヤが後ろから体をぶつけ、鎌田の足を引っかけて倒した。
しかし、ファウルは取られない。この試合を吹いたのは韓国の金鐘赫(キム・ジョンヒョク)主審。この場面は取ってほしいところだったが、試合全体を見れば、日本選手にカードを出させようとするサウジアラビアの「ダイビング」に敢然とした態度で臨み、おかしな試合になるのを防いだ立役者だった。
■ポジションセンスに優れた「エース」
ボールを拾ったのは、サウジアラビア右サイドバックのサウド・アブドゥルハミド。日本陣左のスペースに大きなパスを送るが、これは確実にポジションを取った板倉滉が頭で中盤に戻す。相手との間に落ちた少し際どいボールだったが、ボールに寄った守田英正は平然とワンタッチでセンターサークル内の南野拓実にボールを送る。
ボールに触れずにターンして前進した南野は、当たりにくるサウジアラビアDFアリ・ラジャミを軽くかわすが、すぐ背後にいたDFハッサン・カディシュにボールを奪われる。それを拾ったアリ・ラジャミが左に開いたサレム・アルドサリに展開、サレム・アルドサリは内側からサポートにきたMFナセル・アルドサリにワンタッチで渡し、そのまま斜めに動いて日本のバイタルエリアに向かう。
ナセル・アルドサリはターンして内側を向き、中央からサポートにくるMFムサブ・アルジュワイルへパス。受けたムサブ・アルジュワイルは、少し左に持ち出す。この瞬間の両チームの選手たちの位置を示したのが、<シーン1>である。黒丸数字がサウジアラビアの選手。日本選手は赤丸数字で示してある。
このとき、日本選手は、ボールを持ったムサブ・アルジュワイル⑦の左を南野⑧がおさえ、右からは鎌田⑮がアプローチしている。最前線やや左にポジションを取るFWフェラス・アルブライカン⑨には板倉④がしっかりとマークについている。しかし、サレム・アルドサリ⑲は戻ろうとする守田⑤と遠藤航⑥、そしてDFライン中央の谷口彰悟③の中央、「重心点」でストップ。さすがにサウジラビアのエースは優れたポジションセンスを持っている。
■最後尾の選手たちが「アピール」も…
この直前のプレーで南野がハッサン・カディシュとアリ・ラジャミに連続して強烈なタックルを食らわせ、2人は続けざまに倒れ、センターサークル内でそのまま横たわっていた。スタンドからは南野へのブーイングが起こり、サウジアラビアの最後尾に残っていた選手たちはファウルをアピールした。しかし、サウジアラビアがそのままボールを保持して攻撃しようとしているため、金鐘赫主審は平気な顔をしてプレーを続行させた。
ムサブ・アルジュワイル⑦からサレム・アルドサリ⑲への鋭い縦パス。これにマーク相手のフェラス・アルブライカン⑨を捨てて、板倉④が飛び込む。だが、サレム・アルドサリ⑲は巧みなワンタッチで板倉④を背負ったままフェラス・アルブライカン⑨にパス。フェラス・アルブライカン⑨は縦に抜け出す。
これは谷口③がよく寄せ、シュートを許さない。シュートができないと見たフェラス・アルブライカン⑨は、中央に走り込んできたサレム・アルドサリ⑲にパス。町田⑯を背負った状態だったが、サレム・アルドサリ⑲は強引に左ターンしながら右足を振った。だが、町田⑯は冷静にそのコースに左足を出し、シュートをブロックする。<シーン2>
サレム・アルドサリ⑲はすぐにターンし、戻ってくる守田⑤をかわしながらペナルティーエリアに近づいてくるムサブ・アルジュワイル⑦にバックパス。ペナルティーエリアに入りながら一歩持ったムサブ・アルジュワイル⑦は右足を思い切り振り抜く。そこに入ってきたのが日本の選手たちだった。
サレム・アルドサリ⑲のパスを阻止しようとした守田⑤は、そのまま間髪を入れずにターンしてムサブ・アルジュワイル⑦に寄せ、右足を上げてブロックに入る。その右後ろには遠藤⑥。真後ろには町田⑯が寄せ、左からは三笘⑦が戻って3人の「股下」を消すべく、体を倒しながら足を伸ばして低い位置をカバーした。ボールは守田⑤の臀部(でんぶ)に当たって、こぼれた。<シーン3>