サッカー日本代表は、2024年のワールドカップ・アジア最終予選(3次予選)を戦い終えた。本大会出場を大きく引き寄せる素晴らしい戦いぶりだったが、サッカージャーナリストの大住良之は、9月からの6試合の中に、運命の岐路となった「一戦」があると…

 サッカー日本代表は、2024年のワールドカップ・アジア最終予選(3次予選)を戦い終えた。本大会出場を大きく引き寄せる素晴らしい戦いぶりだったが、サッカージャーナリストの大住良之は、9月からの6試合の中に、運命の岐路となった「一戦」があると指摘する。日本代表の「進化」を感じさせる一連のプレー、「奇跡の10秒」を読み解く!

■驚きの「チームディフェンス」

 11月の「アウェー連勝」で勝点を16に伸ばし、ワールドカップ2026北米大会(カナダ、アメリカ、メキシコ)出場権獲得をほぼ確実にした日本代表。9月からの6試合を振り返ると、大きな岐路が10月のサウジアラビア戦にあったことは明らかだ。

 9月に中国(7-0)とバーレーン(5-0)に快勝して、最高のスタートを切った日本。しかし、2位サウジアラビアは1勝1分の勝点4。このアウェーゲームで負ければ首位交代となり、混沌とした争いの中に巻き込まれる恐れもあった。その試合をしっかりと2-0で勝ち取ったことが、日本だけが大きく抜け出し、11月の2試合を経て「独走」状態となる最大の要因となった。

 サウジアラビアが予想された「3-4-3」システムではなく、「4-3-3」で入ってきたため、とくに相手のエースである左FWのサレム・アルドサリのところで「ミスマッチ」が生まれ、序盤は押し込まれる場面もあった。しかし、前半14分に鎌田大地のゴールで先制した頃には、それも落ち着き、日本がさらに2点目をと主導権を握りかけていた。サウジアラビアが決定的なチャンスをつくったのは、そんな時間帯だった。

 そのときに日本が見せた「チームディフェンス」は驚くべきものだった。相手のシュートを3回連続でブロックし、同点になってもおかしくない場面を、GK鈴木彩艶の手をわずらわせることなく防ぎきったのだ。この場面は、ここ数年間さまざまな試合を見てきた中で「出色」と言っていいシーンであり、日本代表チームの集団守備は「奇跡」と言っても過言ではないプレーだった。今回は、その名シーンを詳細に振り返ってみた。

■「得点力不足」という言葉が死語に

 今年9月から行われた「アジア最終予選」の6試合で、日本は22ゴールを奪い、失点はわずか2。「得点力不足」という言葉が「死語」になってしまうほどの快調な攻撃を見せた。しかし、「勝点16」を得た最大の理由は「守備」にあったと、私は考えている。

 何よりも、ボールを失った瞬間の切り替えの早さがライバルたちを圧倒していた。これこそ現代サッカーの最も重要なベースのひとつなのだが、日本代表の切り替えの早さは間違いなくワールドカックラスに達している。その切り替えの早さと前線からの追いかけを受けて、遠藤航守田英正の両ボランチが巧妙なポジショニングで中盤にネットを張った。

 そしてディフェンスラインでは、谷口彰悟の堅実無比なプレーを中心に、板倉滉町田浩樹が高さと強さで相手のロングボールをはね返した。両サイドの「ウイングバック」としてプレーした堂安律三笘薫伊東純也前田大然、中村敬斗らは、攻撃から守備に切り替わるときにいち早く動いて守備の第一歩をつくるとともに、手を抜くことなく下がってDFラインを助けた。

■「美しい」と表現できるほどの守備

 6月までの2次予選6試合で無失点(24得点)だったことはともかく、この最終予選に入っての6試合でも守備を崩されての失点は11月の中国戦(厦門)の1点だけ。オーストラリア戦でオウンゴールがあったが、強豪がそろう3次予選C組の6試合でわずか2失点というのは、2022年カタール大会のアジア最終予選の6試合の段階での成績(4勝2敗、得点5、失点4)と比較しても、見事と言うしかない。

 その守備力の極致のようなプレーが、サウジアラビア戦の「3連続ブロック」だった。そのプレーは、「美しい」と表現できるほどのものであり、守備、それも集団としての守備でこれだけのパフォーマンスを出せることに、日本代表の現在の力の根源を見ることができる。

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