2024年シーズンの「Street League Skateboarding (SLS)」。シングルトリックだけで順位を争う「SLS APEX」を含めるとプロツアー第7戦目となり、昨年に引き続き今年も日本は東京・有明で開催された「SLS T…

2024年シーズンの「Street League Skateboarding (SLS)」。シングルトリックだけで順位を争う「SLS APEX」を含めるとプロツアー第7戦目となり、昨年に引き続き今年も日本は東京・有明で開催された「SLS Tokyo 2024」。SLSシリーズのチャンピオンを決める「SLS SUPER CROWN CHAMPIONSHIP」を来年に控える中、その最終戦への出場権を獲得するためにも必要なポイントがかかる重要な大会となった。

女子カテゴリーでは優勝候補の一角である東京オリンピックメダリストの西矢椛や中山楓奈がノックアウトラウンドで敗退するほど極めてレベルの高い戦いが繰り広げられる中、決勝へはライッサ・レアウ(ブラジル)、クロエ・コベル(オーストラリア)に加えて吉沢恋、織田夢海、赤間凛音、上村葵が進出し、決勝常連勢による顔ぶれの中でこの東京大会での優勝の座が争われた。

なおSLSの採用するフォーマットはオリンピック関連の国際大会とは異なり、ランの完成度を評価する「ラインセクション」が2本、ベストトリックの難易度を評価する「シングルトリックセッション」が5本の計7本のうち4本のベストスコアを合算してリザルトを出す形。なおラインセクションからはベストラン最大1本のみが採用され、他の大会と違う点としてはシングルトリックでラインセクションを上回るスコアを残した場合、必ずしもラインセクションを合計スコアに採用しないという点。そのためシングルトリックだけで逆転することも可能ということだ。

【ラインセクション】

ライン1本目


ライッサ・レアウのライディング ©︎SLS

今回のコースレイアウトに関してはメインセクションから逆方向にランディングする際にスピードを付ける事が非常に難しいと前日の練習から多くのライダーが話し、苦戦していたこともありラインセクションは特にそれがスコアに顕著に現れる展開となった。

その中でのこの1本目はどのライダーもうまくまとめて決勝での流れを掴みたいと考える中で、唯一7点台の高得点をマークしたのはブラジルのライッサ・レアウ。先にライディングした日本人ライダーたちがミスを重ねる中、レアウはスピードが付けづらい方向では無理せずしっかり着実にラン構成を組み立てていた事はさすがで、「バックサイドクルックドグラインド」でランを始めると、「フロントサイドブラントスライド」や「キックフリップバックサイドリップスライド」などを綺麗にメイクしてトリックを繋いでいき、ラストトリックではミスがありながらも7.2ptの好発進を見せ、後続のライダーにプレッシャーをかけた。

スコアとしてレアウに続いたのはレアウの直前でライディングした昨年の東京大会覇者のクロエ・コベル。ハンドレールでの「バックサイドスミスグラインド」でランを始めた彼女は、ロングレールでも「バックサイドスミスグラインド」で全流し、さらにはギャップ越えの「キックフリップ」などで構成した得意のフリップ系だけに頼らないはバリエーションに富んだランで、ラストトリックではミスがあるも6.8ptをマークし安定的なスコアを残して次に繋げた。

ライン2本目


赤間凛音のライディング ©︎SLS

2本目でも1本目とはあまり展開は変わらない中で、ランをアップデートしてレアウとコベルに近づくスコアを残したのが現在SLSポイントランキングトップを走る赤間凛音。「フロントサイドフィーブルグラインド」でランを始めると、「キックフリップ」や「フロントサイドハリケーングラインド」、「ビックスピンヒールフリップ」など周りのライダーがあまりやらないトリックも含めた様々なトリックを詰め込んだライディングで6.6をマークして優勝の座を射程圏内に捉えたままシングルトリックセクションに挑む形に。

ただ今回頭一つ抜ける形で安定したライディングを見せているのがレアウ。2本目では1本目の内容をアップデート。1本目でメイクした「バックサイドノーズスライド」を「バックサイドテールスライド」に、またロングレールの中盤でメイクした「キックフリップバックサイドリップスライド」を「キックフリップバックサイドスミスグラインド」にアップデート。1本目同様にラストトリックのミスがあったものの、それを上回る高難度トリックにより7.5ptとスコアを引き上げ暫定1位でシングルトリックセクションへ。

「シングルトリックセクション」

1トライ目

ここではまずラインセクションでなかなか良いスコアを残すことができなかった吉沢恋が第一滑走者としてハバレッジで「バックサイドノーズスライドショービットアウト」をメイクすると8.0ptというハイスコアをマークして幸先の良いのスタートを切る。その後は上村葵、織田夢海、赤間凛音の3人が全員ハンドレールでの「バックサイドスミスグラインド」をチョイスしてメイクし7.0ptをスコア。戦略的なことか今後の戦いを優位に進めるためにここではしっかりトリックをメイクに徹底した様子が見受けられ、ただ大技にトライするだけではなくしっかり全体の試合運びを見据えたトリックチョイスも必要なのだと感じられた。

その後はNikonサインと大きなオブスタクルのあるギャップで「キックフリップ」にトライしたコベルと、ラインセクションで好調なライディングを見せたレアウがトリックに失敗。その後のシングルトリックセクションの残り4本と手数はあるものの好ましくない1本目となった。

2トライ目


吉沢恋 ©︎SLS

ここでは1トライ目とは異なり全体的に攻めのトリックチョイスとなった2トライ目。まずは1トライ目で8.0ptをマークし幸先良いスタートを切った吉沢がここでも決める。今年の夏のパリオリンピックでの金メダル獲得の決め手となった彼女の代名詞トリックでもある「ビックスピンフリップフロントサイドボードスライド」をレールで決めると7.8ptをマーク。ハンドレールのような大きなセクションではないレールでのメイクだったためスコアは伸びきらなかったがそれでもしっかりスコアをマークして強さを見せた。

その後はコベルが1トライ目でミスのあったNikonサインのギャップで「キックフリップ」をしっかり決めて7.1ptをマーク。そしてそんなコベルに続いてトライしたレアウがハバセクションで「バックサイドテールスライド」という難しい体勢でのトリックを決め切ると8.2ptをマークしてしっかり1トライ目のミスをカバーして見せた。

3トライ目

東京大会の戦いも徐々に佳境に近づいてくる中、各ライダーがスコアメイクに苦戦する一方でここのトライで集解トリックを決めたのは女子ストリート種目界の二大巨頭となっているオーストラリアのコベルとブラジルのレアウ。まずコベルが1トライ目の日本人ライダーたち同様にハンドレールでの「バックサイドスミスグラインド」を綺麗にメイクし6.9ptをマークしてしっかりスコアアップを図る。

そして再度ハバセクションでしっかりトリックをメイクしてスコアを残したのはレアウ。ここではコベルと同様に「バックサイドスミスグラインド」を決め切ると7.1ptをマークした。

4トライ目


赤間凛音 ©︎SLS

4本のスコアが採用されるレギュレーションであるため、ここまで2つ以上マークしていないライダーには後がない中で迎えるこのトライ。シングルトリックでは1トライ目以降スコアをマークできていなかった上村は2本目からトライしているハンドレールでの「フロントサイドブランドスライド」を決めきり7.9ptをマークし、なんとか表彰台圏内を維持しながらラストトライへ向かうこととなった。一方で厳しい戦いを強いられたのが織田。2本目からトライしてきた彼女の代名詞的なハンマートリックである「キックフリップフロントサイドフィーブルグラインド」をここでも決めきれずこの時点で優勝圏内から外れることとなった。

他にも上村を除く各ライダーがスコアメイクに苦戦する中でしっかり決めてきたのは赤間。ハバセクションで「バックサイド180ノーズグラインド」という難しいバランス力が強いられるトリックを決めると8.1ptという高得点をマークし、優勝の座を射程圏内に収めてラストトライに。

この時点で暫定トップはレアウ、2位に赤間、3位にコベルという順に。ただまだ吉沢と上村にもスコア次第では表彰台に手が届くことからまだまだ最後の1本まで分からない熾烈な戦いとなった。

5トライ目


ライッサ・レアウのライディング ©︎SLS

そんな中で迎えた最終トライ。まずここで女子のネクストレベルを感じさせる大技を決めて見せたのが吉沢だ。彼女はハンドレールで4本目では決められなかった「ビックスピンフリップフロントサイドボードスライドショービットアウト」をメイク。このトリックのメイクには吉沢も両手を大きく掲げて喜びを表した。

この会場中が大盛り上がりとなったトリックには今大会唯一の「9 Club」の9.1ptがマークされ女子決勝の最高スコアが付けられると暫定1位までジャンプアップ。それまでの暫定3位で吉沢の後の滑走となったコベルが吉沢のスコアを上回ることができず、優勝争いから離脱する中で吉沢に続く高得点をマークしたのは赤間。彼女ならではの高難度グラインドトリックである「バックサイドバーレーグラインド」で8.4ptをマークすると吉沢を上回り暫定1位に返り咲いた。

そして迎えた最終滑走者はレアウ。4本目ではハンドレールでの「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」に失敗していたが、残りレアウが1位にジャンプアップするためには7.3ptで良かったことから、ここは冷静にハンドレールでの「フロントサイドブラントスライド」にスイッチしてメイク。7.9ptをマークして赤間を上回るとレアウの優勝が決まった。

最終結果


©︎SLS

優勝 : ライッサ・レアウ(ブラジル)30.7pt
2位 : 赤間 凛音(日本)30.1pt
3位 : 吉沢 恋(日本)29.4pt
4位 : クロエ・コベル(オーストラリア)27.8pt
5位 : 上村 葵(日本)20.5pt
6位 : 織田 夢海(日本)13.1pt

最後に

まず今大会ではライッサ・レアウの強さが際立ったような印象を受けた。今回は多くのライダーが苦戦を強いられたレベルの高いコースレイアウトの中でしっかり自分のできるライディングを落とし込み、頭一つ抜けたレベルのライディングを見せていたのはレアウが長年世界大会で戦い抜いてきた強さだと感じられた。ただ一方で今大会ではメイクできなかったのは「9 Club」のトリック。筆者としては今回メイクとはならなかった「フロントサイドブラントスライドショービットアウト」を含めて9点台のトリックをまだまだ隠し持っていると考えている。来月の「SUPER CROWN」でどんな滑りを見せてくれるのかに期待したい。

また日本人勢に関しては、まず赤間は今大会も常に冷静に自分のライディングに集中しながらトリックをこなしており、今回もその強さを表れていたからこそ東京大会という自国開催である中でもしっかりと結果に繋がったのだろう。そして今回2度目のSLS出場となった吉沢は女子唯一の「9 Club」という見事なトリックを見せるなどとやはりオリンピック金メダリストの強さを感じる一戦となった。この勢いのまま「SUPER CROWN」でも優勝争いに食い込みオリンピック金メダルに並ぶタイトル獲得を期待したい。

一方で今回では決勝に残ったものの悔しい結果に終わったのが織田と上村。織田は今大会では自身のハンマートリックである「キックフリップフロントサイドフィーブルグラインド」がメイクできず苦戦強いられたが、彼女が今回トライしていたどのトリックもメイクしてスコアをまとめれば優勝できるレベルであるため、cでのリベンジを期待したい。また上村に関しても前大会ではなかなかメイクできなかった大技の数々のメイク率が少しずつ上がっているように思える今大会だったため、「SUPER CROWN」を含めて今後の大会でしっかり結果に繋げてくることだろう。そして今回はノックアウトラウンド敗退となってしまった西矢と中山も依然優勝候補である実力の持ち主であり、「SUPER CROWN」ではまた優勝争いに食い込んでくることだろう。

次戦はいよいよ今シーズン最後となるSLSのチャンピオンを決める大会「SUPER CROWN」。絶対王者レアウのホームで戦うことになる中、彼女との差を日本人ライダーたちがどう縮めてくるのか期待しながらその活躍に注目したい。

The post 日本人選手勢の追随をかわし、優勝を勝ち取ったのはブラジルのライッサ・レアウ「2024 SLS CHAMPIONSHIP TOUR – TOKYO presented by Nikon」 女子決勝 first appeared on FINEPLAY.