米国女子ツアー(LPGA)の2024年シーズンが終了し、古江彩佳が最少の平均ストロークをマークした選手に贈られる「ベアトロフィ」を獲得した。年間を通じて最も安定したスコアを出した選手の証明とも言える賞はLPGAでは1958年から、米国男子…
米国女子ツアー(LPGA)の2024年シーズンが終了し、古江彩佳が最少の平均ストロークをマークした選手に贈られる「ベアトロフィ」を獲得した。年間を通じて最も安定したスコアを出した選手の証明とも言える賞はLPGAでは1958年から、米国男子PGAツアーでは「バードントロフィ」という名称で1937年から表彰されている。男女を通じて日本人で初受賞した古江は歴史的快挙を達成したと言って良いだろう。
カメラマンとして古江を撮っていて、その強さの源は「ルーティンの不変性」ではないかと思うことがある。ショット前のルーティンはこちらが暗記できるほど変わらないし、普段の話し方や態度にもアップダウンがない。安定の古江、なのだ。そんなルーティンで最も「変わらないなあ」と感じさせるものにホールアウト時の“一礼“がある。
日本人選手が“コースに一礼”をするのは一般的と思われるかもしれないが、調子が悪かったラウンドの後にはしないこともある。しかし、古江はどんなラウンドの後も一礼をする。欠かしたことを見たことがない。そこに古江の強さを垣間見る気がする…という内容で、今回のコラムを「古江の一礼と、変わらないルーティン」と題して書こうと考え、最終ホールで古江の撮影をしていた。
パーパットを沈めてベアトロフィ受賞を決めると、同伴競技者らと笑顔でハグをしてグリーンを下りる。さあ、一礼はこの辺りだ。シャッターチャンス!とファインダーを覗いていると、古江の周りにさらに人が集まってきた。最終ホールのピンフラッグを持つ係を任されていたセントジュード小児病院の子どもたちや保護者、さらにはLPGAコミッショナーのモリー・マクー・サマーン氏までやって来た。
いつもよりずっと多くの人たちから祝福される古江は一瞬、キャップのツバを触ったのだが、そのまま一礼することなくスコアを提出するテントへと歩き去った。
「えっ、一礼は?」
日本人選手として初のベアトロフィ獲得。一方で、頭の中が「古江が、初めて一礼せずにグリーンを下りた!」ことでいっぱいになった。
もちろん一礼しなかったことに全く問題はないし、とやかく言うつもりもない。ただ、筆者が見る限り、今まで一度も一礼を欠かさなかった古江が、初めて一礼せずに最終グリーンを下りたのだ。「これは事件だ!」と勝手に思って、本人に尋ねてみた。
―一礼は、いつも意識してやっているんですか?
意識してやっているというより、身に染みついちゃってるので。でも、今回はたくさん人が集まって来ちゃって、忘れちゃったんです。忘れると、ちょっと気持ち悪いですね(笑)
忘れたことは、忘れていなかった。カメラには映らなかったけれど、古江は今回もちゃんと一礼をしていた。筆者の心のファインダーには、そう写っていた。
◇田邉安啓(JJ)
福井県出身。ニューヨークを拠点にゴルフカメラマンとして活動する。1991年に渡米し、大学卒業後の96年から米国のゴルフ場で勤務した。98年からゴルフカメラマンとして、PGAツアーやLPGAツアーを撮影。現在は年間30試合以上を取材。