"超速ラグビー"は、不発に終わった──。 11月24日、ラグビー日本代表(世界ランキング13位)は今シーズン最後のテストマッチとして、イギリスのロンドン郊外にあるアリアンツ・スタジアムで強豪イングランド(同7位)に挑ん…

 "超速ラグビー"は、不発に終わった──。

 11月24日、ラグビー日本代表(世界ランキング13位)は今シーズン最後のテストマッチとして、イギリスのロンドン郊外にあるアリアンツ・スタジアムで強豪イングランド(同7位)に挑んだ。

 直近2試合のフランス戦やウルグアイ戦とは違い、相手の前に出るディフェンスに対して日本は裏のスペースをキックで突き、そしてセットプレーで仕掛けるというゲームプランだった。しかし、前半から逆にセットプレーでプレッシャーを受けて、失トライを重ねた。

 日本らしい素早いアタックでSH齋藤直人(トゥールーズ)やFL姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)がトライを奪ったものの、前半に5トライ、後半も4トライを献上。最終的に15-59の大敗で幕を下ろした。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)


イングランドからトライを奪うも攻撃は単発どまり

 photo by ©JRFU

 エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)は悔しそうな表情で試合を振り返る。

「日本代表にはスピードがあり、ほかの国と違った形のラグビーをしているが、スキルにプレッシャーがかかってしまう。チームが勢いに乗った時に、どうしても(ミスをして)2、3回で相手にボールを渡してしまった。

 日本代表のスコッドは合計200キャップしかなく、10キャップ以下の選手も多い。経験を積んでこそ順応できるようになるが、そこはまだ苦戦している。やり続けていくしかない」

 世界的名将であるジョーンズHCが日本代表の指揮官に再任し、就任会見で「超速ラグビー」を掲げてビジョンを語った時、ファンは大きな期待を寄せた。しかし、初年度の成績は4勝7敗(非テストマッチを入れると5勝8敗)と、大きく負け越して終わった。

 特に世界ランキング・トップ10との6試合を見ると、イングランド戦(17-52)、イタリア戦(14-42)、フィジー戦(17-41)、ニュージーランド戦(19-64)、フランス戦(12-52)、そして今季2度目のイングランド戦(14-59)と、同じような展開で黒星を喫し、内容にも成長の跡が見られなかった。

【ディフェンスはプランがなかった】

 今回のイングランド戦では、少しプランを変えて裏のスペースへのキックを多用した。だが、パス&ランのラグビーを好むジョーンズHCは、シーズンを通してアタック重視のラグビーを試みた。

 セットプレーでは、強豪相手に通用する部分もあった。しかし、アタッキングラグビーを実行するために欠かせない接点・フィジカルのバトルで後手を踏み続け、勝つ流れに持っていくことができなかった。

 ジョーンズHCはこの1年について、語気を強めて言う。

「新しいクルマに乗っているような感じ。走り出しがうまくいっていない。ひとつうまくいっても、ほかの部品が壊れる。アップダウンが激しかった。何かが大幅に改善されたこともないが、何かが悪くなったこともない。若いチームなので、ひたすらプロセスをやり続けることが重要だ」

 6月に行なった単独インタビューでも、ジョーンズHCはこう語っていた。

「超速ラグビーを習得していくのは、時間がかかると自覚している。要所要所でいいプレーは見られるかもしれないが、2026年あたりにはプレーしたい形が継続的に、一貫性を持ってできるかな」

 超速ラグビーがいきなり浸透することは難しく、長期的スパンで考えていると言う。しかし、テストマッチは国と国との真剣勝負であり、もっともっと勝利に執着してほしかった。超速ラグビーに固執するあまり、今回のイングランド戦以外は大きな工夫が見られず、同じような展開で負け続けたのは残念でならない。

 BKでは年長の29歳CTB梶村祐介(横浜キヤノンイーグルス)は、現状について率直な意見を述べた。

「正直、選手は(コーチ陣から)降りてきたものをやるしかない。言葉選びは難しいが、お互いにもっと成長しないと、ここから伸びることはない。プランの変更が毎試合なくて、同じような展開で負けが続いていた感覚はあった。もっと修正してゲームに臨めた」

 アタック重視のジョーンズHCは、練習では7:3くらいの割合で攻撃の時間が多く、ディフェンス面は疎かになっているようにも見える。

「若い選手が多いなか、単発のフィジカルはある一方、我慢強さが欠けていた。正直、ディフェンスは『どこでボールを獲るか』というプランがなくて、相手のエラー待ちになっている。ディフェンスのゴールが見えなかった」(梶村)

【来季は言い訳がまったく通用しない】

 ジョーンズHCが日本らしいアタックで世界を驚かせたい気持ちはわかる。ただ、全体の練習時間は限られているため、いきなり全部を変えてしまうのではなく、前体制でもプレーした選手や元コーチに話を聞き、ディフェンスシステムなどは踏襲してもよかったのではないか。

 前任のジェイミー・ジョセフHCは若手の育成にあまり力を入れなかったため、2027年ワールドカップに向けて若手の成長と台頭が急務だったことは十分に理解している。大学生を積極的に合宿に招集したことも、決して悪いことではない。

 ただ、ジョーンズHCはそれを誇るかのように、試合のたびに「今年は新たにキャップを得た選手が20人になった」「若いチームでスコッドのキャップは200しかない」とアピールしてきた。しかし、急速に変化を求めすぎた部分もあるのではないだろうか。

 2015年に退任した時、ジョーンズHCは前回ワールドカップを経験した選手と若手との割合は「6:4くらいがいい」と話していた。だが、今回の海外遠征に参加した42人中、ワールドカップ経験者は13人、つまり3割ほどしかいなかった。

 また、前回就任した2012年の時はサントリーサンゴリアスで2年間指揮を執っていたため、日本でプレーしている選手にかなり精通していた。しかし、今回はそうではない。

 ジョーンズHCが再任1年目で世界トップ10の国々に勝てなかった責任について、永友洋司ナショナルチームディレクターはこう語る。

「KPI(最終目標に対してプロセスの達成状況)も含めての成績が大事なポイントになってくる。イングランド戦が終わって、日本に戻ってからのレビューになる」

 個人的には、このタイミングでジョーンズHCの退任には賛成しない。1年目でクビになることもないだろう。ただ、ジョーンズHCの言葉を借りれば、2年目の来シーズンは「新しいクルマ」ではない。

 今シーズンをしっかりとレビューし、コーチ陣や選手の声を聞きつつ柔軟に"クルマ"を乗りこなし、日本代表を勝つ方向に"ドライブ"しなければ、ファンは愛想を尽かしてしまうだろう。今季と同じようなラグビーを貫き、来季も同じような成績ならば、その時は退任も考えるべきだ。

 いずれにせよ、来季のエディージャパンは言い訳がまったく通用しない、真価が問われるシーズンになるだろう。