福田正博 フットボール原論■サッカー日本代表はW杯アジア最終予選で5勝1分け。2位オーストラリアに9ポイント差をつける勝ち点16の首位で2024年を終了した。この6試合の森保一監督のチームマネジメントを福田正博氏に解説してもらった。【チーム…
福田正博 フットボール原論
■サッカー日本代表はW杯アジア最終予選で5勝1分け。2位オーストラリアに9ポイント差をつける勝ち点16の首位で2024年を終了した。この6試合の森保一監督のチームマネジメントを福田正博氏に解説してもらった。
【チームの可能性の最大化に努めた森保監督】
日本代表は11月シリーズでインドネシア、中国に連勝し、年内のW杯アジア最終予選を6戦5勝1分け、22得点2失点と圧倒的な結果で終えた。
この6試合を振り返ると、森保一監督は漫然と勝利を積み重ねるだけではなく、新たなことに取り組む姿勢を見せていた。もちろん、目先の勝負をあと回しにしたわけではなく、勝利に向けて優勢な状況がつくれたところで選手交代のカードを切ったり、指示を出したりしながら、チームの可能性の最大化に努めていた。
サッカー日本代表の森保一監督には2026年W杯本番に向けたチームマネジメントが見られる
photo by Sano Miki
こうした取り組みができた背景には初戦、2戦目で大勝して好スタートを切り、3戦目、4戦目でグループ最大のライバルと目されていたサウジアラビア戦とオーストラリア戦を1勝1分けで終えられたからだろう。2026年のW杯本番に向けて、日本代表チームをさらに成長させていこうとする森保監督の意欲が見て取れた。
左ウイングバック(WB)の三笘薫を後半途中からシャドーの位置に置いたのは顕著な例だ。W杯での強豪国との対戦を想定した時に、日本代表が持つ攻撃力を最大化させる必要に迫られることもある。左WBには中村敬斗ら攻撃力の高い選手もいる。彼らを交代で使うだけではなく、ふたりの共存が可能かをチェックしたのだろう。
こういう取り組みは、親善試合よりも公式戦で試すからこそ意味がある。試合で初めて新たなことに取り組むと、「練習してないものをやるなんて」と批判される場合があるが、それは日頃からたっぷり練習時間が取れるクラブでの話なら真っ当な意見だ。しかし、選手たちが一緒に練習する時間が限られる代表活動にあっては、ぶっつけ本番であってもチャレンジしなければならないケースもある。
また、ひと昔前の日本代表と違って、いまの選手たちのレベルは格段に高まっている。ほとんどの選手がヨーロッパのクラブに所属しているが、彼らは日常的にバリエーション豊富な戦術に対応しながらクラブで出場機会を確保している。戦術理解度や対応力が高いため、日本代表で新たな役割を急に求められたとしても、ひととおりのことはできるだろう。
あとは、周りの選手とのコンビネーションが課題になるが、これは数をこなすほどに高まっていくものなので、限られた代表戦のなかで機会をつくるのは妥当な判断だと言える。
【11月シリーズでは幅広い選手起用】
アウェーでのインドネシア戦や中国戦では、4バックで戦っているように見える時間帯もあった。これが森保監督の意図したものだったかはわからない。なぜなら、いまの日本代表選手たちは、試合展開や状況に応じて選手たちの判断で立ち位置を変えることもあるからだ。ただ、選手たちの判断によるものだとしたら、それこそ、森保監督が日本代表監督の就任当初から選手たちにもっとも求めてきたものだ。
ピッチでプレーするのは監督ではなく、選手たち。試合の流れを変えるために監督がすべてを指示するのではなく、選手たちで判断して柔軟に対応できるようになってもらう。それが間違っていたり、足りなければ監督が指示を出せばいい。こうした部分での力こそ、日本代表が世界の強豪国と肩を並べるには必要で、それが森保監督の考えだ。
それだけに、3バックで試合に入り、途中で4バックになって、ふたたび3バックになるのは何ら不思議ではない。フォーメーションにとらわれすぎると、森保監督の日本代表が取り組んでいる本質を見落とすことになると思っている。
選手起用も、11月シリーズでは幅広い起用をしていた。W杯最終予選は全試合で招集されながらも、4バックではなく3バックで戦うために出番がなかったDF菅原由勢(サウサンプトン)を、インドネシア戦の後半途中からピッチに送り出した。
ほかにもMF旗手怜央(セルティック)、FW大橋祐紀(ブラックバーン)、FW古橋亨梧(セルティック)、DF橋岡大樹(ルートンタウン)、DF瀬古歩夢(グラスホッパー)といった出場機会のなかった選手をピッチに立たせた。
監督にとって、チームマネジメントでもっとも気を配らなければいけないことのひとつが、試合に出られない選手たちのモチベーション管理だ。代表選手のレベルともなれば各クラブの主力として活躍する顔ぶれだから、試合に出られなければフラストレーションを溜め込むことになる。チームが勝利を重ねてうまく運んでいる時は、それでも納得せざるを得ないが、歯車が狂い出すと一気にチーム崩壊をもたらす存在にもなりかねないのだ。
いまの日本代表選手たちはベンチに座る時の振る舞いも心得ているため、チームの勝利のために役割をまっとうしている。とはいえ、試合に出たいのが選手の性だ。今回は試合に使うことで彼らのガス抜きをしながら、スタメン組に不測の事態が起きた場合への備えへの布石を森保監督は打ったと思う。
起用された選手たちには、当然ながら代表ユニフォームでピッチに立つ緊張感や重圧はあったはずだ。それでも普段どおりのプレーを発揮できるのが、いまの日本代表の強さだろう。特にミスが失点に直結するDFラインにおいて、11月シリーズのインドネシア戦で橋岡大樹が、中国戦では瀬古歩夢が右センターバックでW杯アジア最終予選に初出場。ふたりとも危なげないプレーを見せてくれた。ただ、今後強豪国と対戦した時にどういった力で日本代表を助けるかも見たいと思う。
【前回の予選経験が生きている】
来年3月のバーレーン戦で勝利するとW杯本大会出場が決まるが、こうした好循環にあるのは、森保監督にとって2度目のW杯予選というのも大きいだろう。前回大会の最終予選では、初戦でつまずいたことで、解任騒ぎに発展しかけるほど苦しんだ。そこで得た教訓を糧として生かしているように映る。勝負への手綱は緩めず、それでいながら先を見据えた手腕を発揮している。
そして、選手たちも今年1月のアジアカップで準々決勝敗退があった。それだけにこのW杯アジア最終予選ではどんな相手であっても手を抜かずに、圧倒的な結果を残してくれたのだと思う。
ただ、忘れてはいけないのは、日本代表に求められているのは、もっと高いステージでの躍動だ。W杯アジア最終予選は通過点にすぎず、彼らにはさらなる成長を遂げてもらわなければいけない。
次の代表戦となる2025年3月まで、選手たちがそれぞれ所属クラブで成長をアピールしてくれることを期待している。彼らの日常である海外リーグでのプレーもしっかりと見ていきたい。