「我々はダービーを戦うには値しないチームだった」 試合後、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督はそう言って、不満を隠していない。宿敵とも言えるアスレティック・ビルバオを相手に、敵地で1-0と零封で敗北した後だった。…

「我々はダービーを戦うには値しないチームだった」

 試合後、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督はそう言って、不満を隠していない。宿敵とも言えるアスレティック・ビルバオを相手に、敵地で1-0と零封で敗北した後だった。心が穏やかなはずはないが......。

 会見では、久保建英を60分と早い段階で見きって、ベンチへ下げたことに対する質問が飛んでいる。

「今日はラ・レアルの選手はだれひとり、輝いていなかった。もし、11人を代えられるなら、全員を代えただろう」

 アルグアシル監督はそう答えたのは、「またか」という反発もあったのだろう。ターンオーバーでの久保の起用について、あまりに批判されすぎている。指揮官としては選手の能力を最大限に使うマネジメントのはずだ。

 しかしながら、この日の交代は「早かった」と言わざるを得ない。
 



アスレティック・ビルバオとのダービーに先発、60分までプレーした久保建英 photo by Kawamori Mutsuo/MUTSUFOTOGRAFIA

 バスクダービー。同じバスクのアスレティックとラ・レアルが激突するダービーは特別である。スペイン国内では、レアル・マドリードとバルセロナのナショナルダービー(クラシコ)を除けば、一番高い注目度を誇る。両者に強力なライバル関係がある一方(両チーム間の移籍は禁断だ)、老若男女がスタジアムに足を運んで殺伐としない健全さもある。お互いの実力が拮抗し、「戦闘」を重んじる土壌だけに、極めてタフでハードなぶつかり合いになるのだ。

 言い換えれば、バスクダービーを制する立役者になった選手は英雄視される。

 ラ・レアルの久保は、1年目のバスクダービーで勝利をもたらすゴールを決めた時からヒーローになっている。どこか懐疑的だったドノスティア(サンセバスチャンのバスク語)のファンから、いっせいに認められたのである。そして2年目、彼は再び勝利のゴールを記録。どちらも本拠地レアレ・アレーナでの得点で、その人気が定着した。

 昨シーズン、久保はアジアカップに出場したためアウェーでのアスレティック戦を欠場し、以来、チームが2勝2分け4敗と失速していただけに、そのプレーは注目されていた。

【先制されてから久保が躍動】

 試合の序盤、久保は目立っていない。チーム自体が敵の激しさに押され気味で、ビルドアップもノッキング。ルカ・スチッチ、セルヒオ・ゴメスのふたりは前半、完全に消されていた。1トップに入ったミケル・オヤルサバルも、ユーロ2024優勝メンバーのダニエル・ビビアンと、先日代表デビューを飾ったアイトール・パレデスを押しのけて先発したジェライ・アルバレスのセンターバックコンビを前に沈黙。撃ち合いのなか、ガードするので精いっぱいだった。

 そして25分、波状攻撃からニコ・ウィリアムズの折り返しをオイアン・サンセトにヘディングで叩きつけられてしまう。

 久保が躍動を始めるのは、先制されたあとだった。

 30分には左CKを自ら蹴り、精度の高いボールをマルティン・スビメンディの頭に合わせる。35分には、自らのパスがカットされても、すかさず奪い返し、チームに活気を与える。40分には味方がカットしたボールを自陣からカウンターを発動。迫ってきたひとりと入れ替わり、敵陣へ突き進む。結局、猛追してきた敵の背後からのファウルでイエローを誘発した。相手の必死の形相で、"どれだけ久保が危険な存在か"が伝わってきた。43分には左サイドのアンデル・バレネチェアが折り返した瞬間に反応し、押し下げたバックラインの正面前に入り、右足でシュートを放つが、これは味方に当たった。

 チーム全体が不振のなか、得点の気配を放っていた久保だったが、「"火災"から救っていた数少ないメンバーだった久保を(交代で)消してしまった。それはまさにハラキリのようなものだ」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』の表現は痛烈だが、大げさでもない。交代後も、ラ・レアルの攻撃はほとんど改善されず、アスレティックに容易に試合をクローズされてしまったのである。

 交代カードを比べると、アスレティックはアレックス・べレンゲル、ゴルカ・グルセタ、アンデル・エレーラなど実力者を次々に投入し、最後までペースが落ちなかった。信頼できる本職のセンターフォワードがひとりもいないラ・レアルと比べて、補強も含めたチームマネジメントで差が出たとも言える。

 それだけに、久保の交代は"敗北"に等しかった。激しいコンタクトで潰されたシーンを見ても、一番警戒されていたのは間違いない。彼がいなくなったことで、チームは敵にストレスを与えられなくなった。前節のバルサ戦は今シーズン最高のパフォーマンスだったし、一発にかけるべきだったが......。

 10位と低迷するラ・レアルは、チームのやりくりも厳しくなっている。昨シーズンから信頼できるストライカーが不在のまま。オヤルサバルはトップもできるが、ストライカーではない。また、セルヒオ・ゴメス、スチッチのふたりは、ダビド・シルバとまでは言わずとも、もう少し安定したプレーを見せられないと苦戦は必至だ。

 久保はそんなチームを双肩に担う。次節はホームで、ひとつ順位が上の9位ベティスとの対戦だ。