雷雨による試合中止の余波で、空白期間が実に約3カ月間におよんだ22日の浦和レッズとのJ1リーグ第28節の後半を1-0で終え、前半とのトータルを1-1で引き分けた直後。55分に同点ゴールを決めたFW小林悠は悔やんでいた。「エリソンに謝りまし…
雷雨による試合中止の余波で、空白期間が実に約3カ月間におよんだ22日の浦和レッズとのJ1リーグ第28節の後半を1-0で終え、前半とのトータルを1-1で引き分けた直後。55分に同点ゴールを決めたFW小林悠は悔やんでいた。
「エリソンに謝りました。可能性のあるクロスを入れたかったんですけど……」
振り返った場面はアディショナルタイムの92分。浦和のパスミスに反応したMF橘田健人が、前線中央のFWエリソンへワンタッチで縦パスを通す。数人に囲まれながらボールを失わず、前を向いたエリソンが右サイドへパスを送る。
フリーで走り込んできたのは小林。ゴール前の中央へエリソン、ファーへMF遠野大弥が詰める。MF家長昭博もエリソンの遠野の後方、こぼれ球を狙える位置をフォローしている。高まった勝ち越しゴールの予感は直後にため息へ変わった。
クロスを放つ刹那に小林が体勢を崩し、蹴り損なったボールはゴールラインのはるか後方へ外れていった。小林が申し訳なさそうに、自身の体の状態を明かした。
「もう乳酸がパンパンで。最初から飛ばしていたので……」
■佐々木旭「常に今日のような試合を続けたい」
敵地・埼玉スタジアムに乗り込んだ川崎は、ウォーミングアップを通常の形と180度変えた。先発する選手たちにマークをつけて、試合さながらの高い強度で攻防を繰り広げた結果、キックオフ直前で川崎の選手たちの息は上がっていた。
8月24日に行われた前半で背負ったビハインドを挽回すべく、後半開始直後から100%以上の力で浦和を圧倒するためのウォーミングアップ変更。その反動と言うべきか。特に攻撃陣に疲労が溜まっても、小林は後悔の二文字を封印した。
「前からいくしかないと思っていました。こういう試合は勢いといったものが大事だし、圧をかけるじゃないですけど、相手が嫌がっているのがわかったので、多少のリスクはあってもどんどん前からいきました。何回かひっくり返される場面もありましたけど、そこはみんなで割り切ってうまく戦えたと思います」
右センターバックで出場した佐々木は、雷雨の影響でピッチにあちこちに水が溜まり、思うようにボールを回せない状態で後手を踏み続け、23分にはMF渡邊凌磨にゴールネットを揺らされた3カ月前との違いに思いを馳せていた。
「個人的には、常に今日のような試合を続けたいと思いました。どの試合でも立ち上がりから今日くらいアグレッシブにいって、ボールを失ってもすぐ切り替えて、といった戦い方ができれば、僕たちが負ける相手はなかなかいないとも思いました。チームには波があるというか、確かにいいときも悪いときもありますけど、それでも今日のような姿勢はこれからも貫いていくべきだと思いました」
■「リスク管理はあまり考えていませんでした」
DFジェジエウが投入され、右サイドバックに回った81分以降の佐々木には、前へ、前へとアグレッシブに攻めあがっていく姿勢が加わった。
「リスク管理はあまり考えていませんでした。たとえ最終ラインが2枚になっても、オニさん(鬼木達監督)も『行けるときは行け』と言っていたし、センターバックもジェジ(ジェジエウ)と(車屋)紳太郎くんだったし、そう簡単にやられるような選手でもないので。(左サイドバックの三浦)颯太も本当に気持ちよさそうに、何度も何度も攻めあがっていたので、僕も負けないと思っていました」
鬼木達監督としては、45分間で浦和を逆転するためのシナリオを講じた。同点止まりとなったものの、試合への入り方を含めたアプローチは、今シーズンの川崎で欠けるケースが多かった戦いの原点を、すべての選手たちに思い出させた。
「残り試合は少なくなったし、今シーズンももう終わっちゃいますけど、それでもチーム全員で今日の45分間のような姿勢といったものを示していきたい」
佐々木の言葉がチーム全員の思いを代弁する。AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)を含めて、今シーズン限りで退任する鬼木監督のもとで戦える公式戦はあと4試合。今後にどのような体制が誕生しようとも、川崎が大切にしていくべき道標を、約3カ月のハーフタイムをへて行われた浦和との後半が教えてくれた。
(取材・文/藤江直人)