スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額571万9660ユーロ/クレーコート)は4日、男子シングルス2回戦が行われ、第6シードの錦織圭(日清食品/6位)が、ファビオ・…

 スペイン・マドリッドで開催されている「ムトゥア マドリッド・オープン」(ATP1000/5月1~8日/賞金総額571万9660ユーロ/クレーコート)は4日、男子シングルス2回戦が行われ、第6シードの錦織圭(日清食品/6位)が、ファビオ・フォニーニ(イタリア/31位)を6-2 3-6 7-5のフルセットの接戦の末に下し、3回戦に駒を進めた。

 錦織は5日に行われる3回戦で、前日にフェルナンド・ベルダスコ(スペイン/52位)を6-4 3-6 6-1の、やはりフルセットで倒して勝ち上がった第10シードのリシャール・ガスケ(フランス/12位)と対戦する。試合は、スタジアム3の第2試合に組まれている(第1試合は現地時間正午に開始)。

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 まさに、九死に一生を得た、と表現したくなるような試合だった。

 錦織が『理想のテニス』を演じた第1セットのあと、次第に勢いを上げていったフォニーニを前に、最後の最後まで主導権を奪い返したわけではなかっただけに、一層そうだ。

 「僕は今日、ほとんど負けかけた。第1セットのあと、フォニーニは間違いなく僕よりいいプレーをしていた。よりアグレッシブにプレーしていたのは彼だったし、サービスも、リターンもよりよくなっていた。彼は勝つに値するプレーをしていたと思う。最後の数ゲームに、彼に何が起きたのかはわからないが、(勝てたのは)少し幸運だった」と、試合後、錦織はため息とともに振り返った。

 「第1セットではかなりいいテニスをしたと思うので、自信を維持し、次の試合ではよりよいプレーをするよう努めたい」と言い添えた言葉の通り、第1セットの錦織は、攻撃性と頭脳的試合運びをうまく融合させたテニスで、理想的スタートを切る。

 錦織よりはミスが早かったとはいえ、フォニーニもまずいプレーをしていたわけではない。錦織は、攻めるべきところではアグレッシブに打ち、さらに球種やショットの長短で揺さぶりをかけて、2度続けて相手のサービスをブレークし、このセットを6-2で取る。しかしフォニーニの調子上昇の兆しは、第1セットの終盤から、もう感じられ始めていた。

 より攻撃的にストロークを叩き始めたフォニーニは、第2セットに入ると、錦織の最初のサービスゲームからプレッシャーをかけ始める。錦織は、フォアハンドの強打で振り回され、ラリーの主導権を握られながらも、相手の決め球のミスにも助けられ、何とかキープに成功したが、フォニーニの脅威はそこでは終わらなかった。

 打ち込まれながらも耐え抜き、2-2…2-3…3-3…とついていったが、グラウンドストロークのラリーで錦織が押され気味である、という形勢自体は変わらない。そして3-4からの錦織のサービスゲームで、空気の中に漂っていた不穏な何かが、スコア上で具現化された。

 ベースラインからの打ち合いで押され、ミスを強いられた錦織は、15-40とブレークポイントを握られ、最後は強打を凌ごうと上げたロブがコートを割って、この試合初のブレークを許してしまう。次のゲームはフォニーニが楽にサービスキープして、第2セットは3-6。勝負はファイナルセットに持ち込まれた。

 「1セット目と、全く展開が変わってしまった。一番の原因は、1セット目ではよりステップインして打っていたのを、やめてしまったことだと思う。たぶん2セット目からは、少し守備的になりすぎてしまい、自分から打って、ボールを左右に打ち分ける、という部分が少なくなってしまっていた。ファイナルセットでも、そのことは頭の中ではわかっていたが、なかなか修正することができなかった」と、錦織は、のちに反省点を分析している。そしてその言葉の通り、第3セットに入っても、押され気味の苦しい展開は変わらなかった。

 この最終セットの第3ゲームで錦織は、0-40と、3本のブレークポイントを握られたが、フォアハンドを強気で叩いて1ポイントを返したあと、フォニーニが4本連続のミスをおかし、ほとんどラッキーともいえるサービスキープに成功している。実際、第2セット以降は、フォニーニの強打とミスが試合を操るという、いいも悪いもフォニーニ主導の形で進んでいった。

 ミスより多くのウィナーを奪う精神で、試合の主導権を握り続けたフォニーニのあの姿勢が実ったのが、3-3から迎えた錦織のサービスゲームだ。強烈なフォアハンドを叩き込まれ、ラリー戦で圧倒された錦織は、こらえきれずにミスをして15-40とされ、最後はダブルフォールトでゲームを献上してしまった。

 しかし、流れを変えられない中でも、錦織は踏み堪え続けた。そして、その返し続ける姿勢が、おそらく運の助けも得て、最終的に勝機を呼び寄せる。

 4-5から迎えたフォニーニのサービスゲームで、錦織はブレークバックに成功するのだが、それは自動的とも言える、実に奇妙な形で実現した。錦織は、その第10ゲームに入ったときの心理を次のように説明する。

 「最後は、ほぼ諦めていた。3セット目も彼のほうがいいプレーをしていたし、ほぼ常に攻められ続けていた。最後のゲーム(4-5からの第10ゲーム)もあのままいけば、やられるな、と思っていたが、彼のミスが相次いだり、その少し前のゲームよりミスが増えていたので、こちらはなるべくミスをしないように…ただ、1ポイントずつプレーしようと努めていただけで、それほど深くは考えていなかった」

 フォニーニは、15-40からファーストサービスとフォアハンドの強打でデュースまで盛り返すが、そこからまたも2本のミスをおかし、錦織ははからずもブレークに成功する。そしてこの5-5から、運気がはっきりと変わった。

ファビオ・フォニーニ

 そこまで、フォニーニは、比較的ミスを抑えて強打でラリーを支配していたが、ここから突然、アンフォーストエラーをおかす頻度が高くなる。加えて、錦織のサービスがよくなり、30-30から続けてファーストサービスを入れたことも、助けになった。 「あのゲームをキープしてから、自分のサービスゲームでもプレーの内容がよくなってきていたので、5-5になって、少し吹っきれたところはあったと思う」と錦織は振り返る。

 錦織がサービスをキープし、6-5となった時点でも、お互いにまだワンブレークずつで、立場は理論上“タイ”だったが、次のゲームで、ついに流れが変わる。錦織が上げたロブに対して、ラケットを伸ばしたフォニーニのハイボレーがネットコードに当たって手前に落ちたとき、幸運の女神ははっきりと錦織に微笑んだ。

 苛立つフォニーニは、続くポイントでダブルフォールトをおかし、スコアは0-30に。そこでフォニーニは、憤怒をボールごと観客席に叩き込み、2度目のコード違反により、ポイントを失うことになったのである。こうして、驚くべき形で3本のマッチポイントをつかんだ錦織は、最後はバックハンド・リターンをダウン・ザ・ラインに叩き、2時間12分の戦いに終止符を打ったのだった。

 試合後、錦織は「第3セット、彼はグラウンドストロークで僕を圧倒していた。明日の試合では、よりいいテニスをしなくてはならない。今日、僕はほとんど大会から敗退しかけた。だからこの試合から何かを学び、明日はもう少しリラックスして臨むよう努めなければならない。特にメンタル面で、より強くある準備ができているようでなければいけない」と、むしろ反省点のほうを強調した。

 錦織は、3回戦の相手ガスケには、これまで6度対戦して一度も勝ったことがない。ガスケとは相性の問題があるのか、と聞かれると、錦織はまず「彼のテニスには、僕に合わない何かがあるようだ。だからチームスタッフと話し、戦略を少し変えるなどして、明日何をすべきかを考え、しっかり準備したい」と答えた。

 「これだけ負けている相手ではあるが、やるべきことを明確にしてコートに入れば、勝つチャンスはあると思う。苦手意識は捨て、精神的にもしっかり準備して、試合に臨みたい」と錦織は言う。波乱の予感のする対戦は、24時間以内にやってくる。 (テニスマガジン/ライター◎木村かや子、構成◎編集部)