3日連続1着の完全優勝を成し遂げた佐藤水菜 photo by Takahashi Manabu【選抜された28選手が激突】「1着」を3つ並べることが、これほど似合う選手が他にいるだろうか。 11月19日(火)から21日(木)にかけて小倉競輪…


3日連続1着の完全優勝を成し遂げた佐藤水菜

 photo by Takahashi Manabu

【選抜された28選手が激突】

「1着」を3つ並べることが、これほど似合う選手が他にいるだろうか。

 11月19日(火)から21日(木)にかけて小倉競輪場で開催されたガールズケイリンのGⅠ開催「第2回競輪祭女子王座戦」で、佐藤水菜(神奈川・114期)が予選から3戦連続1着の完全優勝を成し遂げた。

「競輪祭女子王座戦」はオールガールズクラシック、パールカップに続くガールズケイリン年間最後のGⅠレース。優勝者には12月29日に静岡で開催される最高峰のレース「ガールズグランプリ」への出場権が与えられる大一番であり、選抜された28選手だけが出場できる。

 その選手たちはすでにグランプリ進出を決めている実力者から期待の新鋭まで多士済々。まさに「祭」であり「王座戦」でもあるというタイトルに相応しい顔ぶれだった。なかでも注目を集めたのは自転車競技でも活動してきたナショナルチーム組の3選手だ。

 2024年はパリ五輪開催に向けた活動が中心となり限定的な参戦となっていたナショナルチーム組だが、太田りゆ(埼玉・112期)と梅川風子(東京・112期)は五輪後に競技引退を決断、ガールズケイリン専念となってから初めてのGⅠ開催へ強い意気込みで臨んでいた。

 そして誰もが認める実力者が、10月のUCIトラック世界選手権ケイリン種目で金メダルを獲得し"世界女王"となった佐藤水菜。ガールズケイリンの舞台では昨年の競輪祭決勝こそ2着に終わったものの、年末のガールズグランプリで優勝すると、今年も8月の女子オールスター競輪を含む3度の開催で全レース1着。一発勝負のレースをのぞけば、ここ数年の佐藤の成績は3日連続1着でない開催を探すほうが難しいほどで、間違いなく本命視される存在だった。

 2日間の予選&準決勝はやはりナショナルチーム組を中心にレースが組み立てられ、他選手も自由にさせまいと対策を講じる展開が続いた。準決勝では梅川と太田の仕掛けに合わせて鋭い踏み込みを見せた久米詩(静岡・116期)が1着で決勝へ。そしてもう1組は佐藤がロングスパートで1着を確保したものの、2着になった當銘直美(愛知・114期)の追い込みを見て、「1着になったのは奇跡と言えるくらい、正直キツい」と振り返るなど不安も口にした。

決勝進出選手を紹介するステージで同期の佐藤水菜(左)と當銘直美(右)がピース

 photo by Takahashi Manabu

【外を回っても異次元の豪脚】

 迎えた決勝戦。レースは号砲を受けてするりと飛び出した太田が「(先頭誘導選手と)車間が空いているのが見えたので、ペースを上げた」と、石井貴子(千葉・106期)を連れて大きくリードを取る。佐藤は5番手で追走しながら、世界選手権の決勝でも対戦した梅川のスピードを警戒しつつ勝負所を探っていた。佐藤の後ろの6番手には、またしても當銘がついた。

 残り1周。勝負を仕掛けた梅川が先頭に並びかけると、負けじと太田も加速。ここでようやく佐藤もスピードを上げるが、外を回っている影響もあり思ったほど差は縮まらない。バックストレッチを過ぎ「もしかしたら」という空気が流れかけた第3コーナー、逃げ切らんともがく選手たちが遂に佐藤の豪脚に飲み込まれていく。

 佐藤は瞬く間に梅川と石井を追い越すと、なおもすさまじい粘りで先頭を走る太田を直線で捉える。完璧なマークで追いこんできた當銘をも振りきり、3/4車身のリードを奪って先頭でゴール板を駆け抜けた。

 終わってみれば、外を回りながらも長い距離を踏み続けて勝ち切る佐藤のポテンシャルの高さが際立つレースに。ウイニングランでゆっくりバンクを周回する佐藤には、競輪発祥の地として知られる小倉に集まった大勢のファンから大きな拍手と歓声が送られた。そのひとつひとつに手を振るようにして爽やかな笑顔で応じる姿には、貫禄すら感じられた。

優勝後、客席の歓声に応える佐藤

 photo by Takahashi Manabu

【一度は競技引退を考えるも決意新たに】

 表彰式では昨年のオールガールズクラシックでの優勝時に続いて地元神奈川県勢の選手から胴上げされ、満開の笑顔を見せた佐藤だったが、会見ではGⅠ優勝の喜びに浸ることなく「内容はオールガールズクラシックや昨年(の状態)に及ばないものだったので、早く練習したいです」と、飽くなき向上心をのぞかせた。

 この開催にはナショナルチームのオフも重なり、一時的に練習環境も変化。「心身ともにリフレッシュできて、普段の環境の有難さに気づける期間だった」と振り返ったが、実はパリ五輪を最後に自転車競技からの引退も考え、世界選手権の結果で自身の進退を決めるつもりだった。

 その舞台で見事に優勝を果たし「アルカンシェル(※)」を獲得。自転車競技との両立を続けていくことを決意したが、世界女王の座を掴んでも「(自分は)その地位に見合っていないと思っている」と自身の現在地に満足していない。
※世界選手権優勝者に授与される特別なジャージ

ガールズグランプリ連覇を狙う佐藤

 photo by Takahashi Manabu

 競輪祭の優勝により、佐藤は静岡でのガールズグランプリ出場権を獲得。他6選手も出揃い2024年シーズンも大詰めを迎えつつあるが、こうなれば当然期待がかかるのは佐藤のグランプリ連覇だ。

「一周先行して勝つような、レースで強いと思ってもらえる存在になりたい。そこに面白みを感じているので、なりたい自分になれるよう、もう一度グランプリまでに基礎から作り直して頑張ります」

 高い理想像を抱きチャレンジを続ける25歳の女王は、まだまだ強くなっていくはずだ。