『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(17)広島サンダーズ 川口柊人(連載16:広島サンダーズのフェリペ・モレイラ・ロケは日向翔陽に勇気をもらい、ブラジル代表でも活躍>>)(c)古舘春一/集英社「お前、眠そうにしてんな。やる気あんの?」…
『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(17)
広島サンダーズ 川口柊人
(連載16:広島サンダーズのフェリペ・モレイラ・ロケは日向翔陽に勇気をもらい、ブラジル代表でも活躍>>)
(c)古舘春一/集英社
「お前、眠そうにしてんな。やる気あんの?」
そんな言い方をされることがあるという。無気力ではないが、熱血タイプでもない。怒って否定することを「面倒臭い」と思ってしまうし、「自分はこういう人間で、意思表示は苦手」と割り切っている。それで誤解が生じることもある。
しかし、彼には彼なりのバレーボールの愛し方があるのだ。
埼玉県出身の川口柊人は、小学3年でバレーと出会っている。東京体育館で行なわれた、北京五輪の最終予選の日本vsアルゼンチンを見に行った。
「『行きたい』と言い出したのは僕でした」
川口は、そう言って表情を崩す。笑うと急に人懐こくなる。
「自分からやりたい、こうしたい、をあまり言わない子どもだったので、両親もびっくりしたみたいです。スポーツはあまり興味がなく、野球も面白くなくてやめてしまったし。バレーは男女の代表の試合をテレビで見て、興味を持っていました。それで家族で試合を見に行き、目の前で五輪出場の切符を取る瞬間を見られて......ブロック、スパイクは迫力がありました」
当時から学年で一番、背は高かった。実際に試合を見て、「バレーは大きい人がやるスポーツ。自分にもダイナミックさが出せる」と思ったという。
しかし小学校時代は5年生の時、一度バスケに転向している。そこで「チーム内の人間関係」に悩むことになった。
「しんどくて笑わなくなったし、親も『見ているのも苦しいから、一回、離れたら』と言われました」
ただ、バスケチームが消滅したことで、6年生の時にはバレーに戻った。
進学した中学校までは徒歩で40分以上かかったが、バレー部がある学校がそこしかなかった。そこまでバレーに賭けていた。ただ、未経験者が多く、"勝つためには自分がやらなくちゃ"と気負った。
「勝手に背負い込んでいたものがあったと思います」
川口はそう当時を振り返る。自分をごまかせない性分だ。
「中3で県選抜に選ばれました。そこでは、自分はそこまで目立つ選手ではなかった。身長は高いけど、ジャンプ力もあるわけでないし、レシーブもうまくない。だけど、出場した時はみんなで勝ちを喜んで、次もどうやって勝っていくか、という経験が楽しくて。『一体感っていいな』と思えるようになったんです」
高校1年時は、試合を見るだけだった。しかし、プレーのひとつひとつに意図があるバレーに、さらにハマっていた。
「きつい練習も、"この場面で他の人が楽になるためか"とわかると面白くて。繋がっているのはいいなって思いました。納得しないと、成果が出せない人間なんです」
不器用な青年は、高校2年からミドルブロッカーとして着実に成長を遂げる。日体大では、体作り含めて基礎からバレーと向き合った。分岐点となったのは大学2年の時だ。
「同期が目に見えて成長するなか、自分は足首をケガして『やめようかな』とも思いました。親に相談したら、『それで納得するならいいよ、今まで頑張ったね』って言われて。それを聞いた時に、ムカッとしたんです(苦笑)。自分からバレーをとったら何が残るか。『何もない、ずっとバレー漬けだったから』と思いました。そこで、バレーで生きていく覚悟ができました」
ノートに得意、不得意なことを書き出した。ライバルたちのプレーの特徴も書き込み、「ここは勝てる。ここは苦手だからもっと練習」と整理した。やるべきことがわかり、心身が楽になったという。
そして昨シーズンはVリーグでデビューを飾り、今年は入団2年目だ。
「今年の監督はミドルを重視し、『ミドルの判断でチームが動く』って言ってくれています。ブロックとディフェンスで、自分をもっと主張すべきだな、と思っています。どのポジションも積極的にやるべきだけど、ミドルこそ積極的にやっていくべき。世界で強いところはミドルがすごいので」
覚悟を決めたディフェンスは鉄壁だ。
【川口柊人が語る『ハイキュー!!』の魅力】
――『ハイキュー‼』、作品の魅力とは?
「全巻読んでいます! 非日常の描写がないというか、ちゃんとバレーを知っている方が描いているんだなって思います。無意識のところや、人間関係も含めて」
――共感、学んだことは?
「夏合宿で音駒のクロ(黒尾鉄朗)が月島(蛍)に教えていた、『しっかり止まって"上に跳べ"』という言葉は、現実のバレーにもつながっています。『手は前』とかも納得。ブロックのシステムも、自分が知らないものもありました。高い相手に対してどう飛べばいいかなど、戦術がリアルです」
――印象に残った名言は?
「木兎(光太郎)が月島に言った、『"その瞬間"が、有るか、無いかだ』です。楽しく思えるのは、"もう一段バレーにハマった時"というのは共感しました。自分もやる気はあるけど、熱血ではなくて月島チックだと思うので(笑)」
――好きなキャラクター、ベスト3は?
「1位は稲荷崎の北(信介)です。最近、よさがわかりました。僕は今年2月に結婚したんですが、今年は家族ができたのに開幕戦に出られるか不安で、妻に弱音を吐いたんです。そうしたら、『焦らなくても、ちゃんとやることやれば誰かしら見てくれているよ』って。まさに北の心境だなと(笑)。それでいいんだなって思えました。
2位は鴎台の昼神(幸郎)。『ミスっても死なない』っていう楽観的な姿勢が好きです。自分がメンタルでプレーの出来が左右される人間で、『どうしよう』ってなるので、ポジティブ志向はいいですね。3位は稲荷崎の角名(倫太郎)。同じミドルですが、淡々とスパイクを決める力が自分もほしいです」
――ベストゲームは?
「春高予選の烏野vs和久谷南。ケガした主将の(澤村)大地の代わりに縁下(力)が入るんですが、いろいろあった選手が逃げずにボールを拾って......好きな話です」
【プロフィール】
川口柊人(かわぐち・しゅうと)
所属:広島サンダーズ
2000年8月9日生まれ、埼玉県出身。200cm・ミドルブロッカー。小学3年の時に日本代表の試合を見たことをきっかけにバレーボールを始める。駿台学園高校では国体優勝を経験。日体大では全日本インカレ準優勝などチームを牽引した。2023年に広島サンダーズに入団した。