入団時に阪神スカウトだった中尾孝義氏…大谷翔平は「肘が入ってくる」 阪神から米球界挑戦2年目だった藤浪晋太郎投手は今季メッツに加入したものの、傘下マイナーでプレーし、メジャーでは登板機会がなくこのオフにFAになった。現役時代に中日でMVPに…
入団時に阪神スカウトだった中尾孝義氏…大谷翔平は「肘が入ってくる」
阪神から米球界挑戦2年目だった藤浪晋太郎投手は今季メッツに加入したものの、傘下マイナーでプレーし、メジャーでは登板機会がなくこのオフにFAになった。現役時代に中日でMVPに輝き、巨人、西武と3球団で強肩好打の捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏は、藤浪の入団時には阪神でスカウトを務めていた。「本当に人生の分かれ目だと思いますよ」と奮起を促す。
藤浪は昨季はアスレチックス、途中でオリオールズに移籍した。先発では好結果を残せず、リリーフに配置転換された。64試合で7勝8敗2セーブ、防御率7.18、83奪三振。160キロを超す剛球の魅力と79イニングで52四死球の制球難の弱点が同居する内容は、阪神時代と同様だった。今シーズンはオープン戦から不調で開幕前に3Aへ。マイナーで33試合に登板して防御率5.94だった。メジャー昇格しないと、日本での報道は少なくなる。「ニュースになっていなかったので、どうしているんだろう」と案じていた。
藤浪は今年、右肩の張りで負傷者リスト入りもした。「やっぱり」と不安が的中してしまったと感じたという。「高校の時から見ていて、投げ方が気になっていたんです」。
大阪桐蔭で甲子園春夏連覇を果たした当時。長身右腕の素質に惚れつつ、「後ろ(テークバック)で肘が回ってこない」と課題を捉えていた。選抜大会で投げ合った岩手・花巻東の大谷翔平(ドジャース)と対比すると、「大谷はしっかり肘が入ってくる。肘が回って1回上がってから投げていた。藤浪は肘が入らないまま投げるから開いちゃう。ちょっとボールが抜ける。肩とか肘を怪我する可能性が高い投げ方だなと思っていました」。
藤浪は高卒1年目から3年連続2桁勝利を挙げ、順風満帆のスタート。しかし、以降は迷走状態に陥った。「肘が回って上から叩けるいい形に近付いていった。でも5年目くらいから、また悪い方に元に戻ってしまった」。引っ掛かったり、抜けたりと信じられない程のボール球も飛び出した。「結局コントロールのいい投手はそれなりのフォーム。悪い投手はフォームのどこかに原因があるんですよ」と強調する。
一にも二にもフォーム修正…再起への第一歩は「肘をたため」
藤浪は昨季から米国へと環境を変えた。「阪神のコーチも良い時と悪い時の違いをわかっていて、指摘はしたと思います。その時に藤浪がしっかり聞けて理解していたかどうか」。メジャーで昨年途中に11試合連続無四球と安定した時期はあった。「アメリカのコーチは日本とは教え方が違うでしょう。自分でやって、わからない事があったら来なさいという感じ。藤浪には、誰かが近くにいて本当のいい投げ方を丁寧に指摘する方が合っているのでは。本人が良かった頃のフォームをわかってさえいれば、絶対に直ります」。
藤浪は今月からプエルトリコのウインターリーグに参加。代理人は来季のプレーの場として日米ともに見据えている模様だ。常に潜在能力の高さを評価されてきた藤浪も三十路を迎えている。「これまでは体が大きくて筋力があったから投げられた。だけど若い頃に比べて体力も落ちかけてくる。いい投げ方ができないと先がないですよ。はっきり言って」と危機感をあおる。同時に「まだ30歳だったら遅くない。もう一回考え直せば、まだまだできる」。一にも二にもフォームの修正に尽きると注文する。
現役時代の巨人移籍1年目に斎藤雅樹投手をいきなり20勝と覚醒させるなど、幾多の相棒をリードしてきた中尾氏。藤浪とコンビを組むなら、どう声を掛けるのか。「まずは『肘をたため』と言いますね。肘がのびた状態でくるから。肘さえ90度ぐらい曲げていれば、叩けるんです」と“再起”への道の第一歩を示す。
2012年ドラフト会議の興奮を忘れない。1位指名の藤浪には4球団が競合した。和田豊監督は抽選で当たりを引くや、両手でガッツポーズ。中尾氏も会場の控室で、同僚と大声を出して喜んだ。阪神はドラフト1位指名の抽選で12連敗中でもあった。「僕がスカウトの時、唯一くじが当たった選手ですから」と笑いつつ、「頑張って欲しいよね」と応援している。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)