荒木雅博が2024年度「ゴールデングラブ賞」受賞者を解説〜セ・リーグ編 11月12日にシーズンを通してそれぞれのポジションで最も守備力に卓越した選手に贈られる「ゴールデングラブ賞(以下、GG賞)」の発表があり、セ・パ合わせて18人の選手が受…

荒木雅博が2024年度「ゴールデングラブ賞」受賞者を解説〜セ・リーグ編

 11月12日にシーズンを通してそれぞれのポジションで最も守備力に卓越した選手に贈られる「ゴールデングラブ賞(以下、GG賞)」の発表があり、セ・パ合わせて18人の選手が受賞した。今回選出された選手の特徴をセ・パそれぞれに分けて、GG賞6回の名手・荒木雅博氏に解説してもらった。まずはセ・リーグから。


今季自己最多の137試合に出場した広島・矢野雅哉

 photo by Koike Yoshihiro

【初受賞・山本祐大の持ち味は?】

── まず、セ・リーグの受賞者からお聞きしたいと思います。投手は菅野智之選手(巨人)が5度目の受賞となりなりました。

荒木 打球を捕ってから投げるのも正確でしたが、"目配り"がいいと感じました。どういう打球がくるか、どういうプレーが起こりうるかというのを先回りして予測している。私も現役時代、菅野投手とは対戦していますが、隙のない投手です。これが最多勝、最高勝率という結果に表れたのだと思います。今年は菅野投手が受賞しましたが、東克樹投手(DeNA)や山?伊織投手(巨人)もうまいです。

── 捕手は山本祐大選手(DeNA)が初受賞。守備率.997はリーグ1位。盗塁阻止率トップの岸田行倫選手(巨人)、2021年から1897連続守備機会無失策の捕手新記録を樹立した中村悠平選手(ヤクルト)のふたりを上回る評価でした。

荒木 山本選手は強肩で、捕ってからも早い。それにワンバウンドの投球をしっかりブロックするなど、総合力で評価されたのでしょう。山本選手は独立リーグ出身初の受賞者ですね。今年はシーズン終盤こそケガで離脱しましたが、レギュラー捕手としてほんとに頑張ったと思います。

── 一塁手は、岡本和真選手(巨人)です。

荒木 一塁手としては初めてですが、三塁手として2度受賞しています。岡本選手はうまいですよ。左打者の強烈な打球にもしっかり反応していましたし、なにより一塁手はほかの内野手からの送球を処理しなければいけません。私は現役時代、隣で見ていましたが、一塁の守備はほんとに難しく、特殊なポジションです。その細かな動きを岡本選手は熟知していて、完璧ですね。

【実力者ひしめくセカンド】

── 荒木さんのポジションだったセカンドは、プロ8年目の吉川尚輝選手(巨人)が初めて受賞し、しかも両リーグ最多の232票を集めました。次点が、これまで10度受賞の菊池涼介選手(広島)で47票。昨年初受賞した中野拓夢選手(阪神)はわずか3票でした。

荒木 票数こそ差はつきましたが、二塁は激戦でした。広島の本拠地・マツダスタジアムと阪神の本拠地・甲子園は土のグラウンドなので、守備率だけでは計れない部分があります。今季、吉川選手は143試合で守備機会821、失策5で守備率.994(リーグ1位)、菊池選手は135試合出場で守備機会626、失策7で守備率.989、中野選手は143試合で守備機会810、失策8の守備率.990。そんななかでの受賞ですから、価値は高いです。

── 荒木さんから見て、それぞれの特徴を教えてください。

荒木 もともと吉川選手は守備範囲が広く、打球を処理してからのスピードも早かったのですが、そこに今年は確実性が増しました。菊池選手は円熟味が増し、ひと味違う"うまさ"が出てきました。中野選手は球際に強く、セカンドにコンバートされて2年目ですが、さらにうまくなる雰囲気があります。今後もセカンドの争いは注目ですね。

── 三塁手は、本格的にコンバートされた坂本勇人選手(巨人)がいきなり選出されました。

荒木 坂本選手はショートで5度受賞していますが、どこのポジションを守ってもそつなくこなすんだなという印象です。ショートからサードに変わると、打者からの距離が短くなってバウンドを合わせる間(ま)が変わり、足を使わずに投げないといけない場面もありますが、坂本選手はしっかり対応しています。かつてヤクルトの宮本慎也さんがショートからサードにコンバートされて無失策記録をつくりましたが、坂本選手もポジションが変わっても、安定感のある守備を披露しています。

── ショートは、矢野雅哉選手(広島)が218票を集めて初受賞。2022年に初受賞した長岡秀樹選手(ヤクルト)は67票でした。

荒木 矢野選手は132試合で守備機会597、失策9の守備率.985。長岡選手は143試合で守備機会640、失策9の守備率.986。守備率では長岡選手がわずかに上回りましたが、矢野選手は171センチ、71キロと小柄ながら強肩で、どんな体勢からでも一塁にしっかり送球していました。対照的に、長岡は堅実でした。昨年と比較しても、足が動くようになってスローイングが滑らかになりました。スタイルは違いますが、ふたりともうまいです。

── 菊池選手と矢野選手は、荒木さんと井端弘和さんの「アライバ」以来の魅せる二遊間コンビだと思います。

荒木 矢野選手は、菊池選手に似た「こんなプレーするの!」というアクロバチックな守備でファンを魅了していました。華があるのは、プロとしてすごく大切な要素です。試合を重ねれば重ねるほど、ふたりの呼吸は合ってきますし、まだまだ成長できると思います。

【岡林勇希のライトの守備は絶品】

── 外野手は、秋山翔吾選手(広島)が受賞に「飛び跳ねて喜んだ」とのコメントを残しました。

荒木 リーグ最多の守備機会308で失策0。昨年は次点に終わり、悔しかったのでしょうね。西武時代は6度受賞しており、守備には特別な思いがあるんだと思います。

── 荒木さんの後輩である岡林勇希選手(中日)は3年連続の受賞です。

荒木 打撃は苦しみましたが、守備にスランプはないということでしょう。それに今季はセンターが多かったですが、ライトの守備はもっとうまいですよ。彼は球際に強いですし、一歩目のスタートを早くすれば、もっとうまくなると思います。守備に対する意欲が高く、私と同じ年の福留孝介の打球方向を予測して守る"ポジショニング"、正確で強い球を投げる"スローイング"を目標に、さらなる成長を期待しています。

── 外野手3人目は近本光司選手(阪神)で、4度目の受賞です。

荒木 俊足を生かした守備範囲の広さが特徴で、前後左右とどの打球にも対応できる。投手にとっては、近本選手のところに打球が飛んだら「捕ってくれる」と安心感があると思います。

── 外野手ですが、今年4失策で守備率リーグ最下位のドミンゴ・サンタナ選手(ヤクルト)に4票入りました。

荒木 投票するのは取材歴5年以上のキャリアを持つプロ野球記者です。なかには「この選手が?」というのもありますが、それぞれどこを評価するのか観点が違うので、票が割れるのは仕方のないことだと思っています。

── 現役時代、荒木さんはゴールデングラブ賞(以下、GG賞)を6度受賞されています。本人のグラブをかたどった6個のトロフィーは、ご自宅に陳列してあるのですか?

荒木 自宅や実家のいろんなところに飾ってあります(笑)。

── 荒木さんは守備だけでなく、盗塁王や通算2000安打など、走攻守三拍子揃っていました。守備にかける思いは?

荒木 打てないときも多々あるし、ホームラン一発で試合を決めるタイプではなかったので、守備を重視していました。ベテランになっても引退する日まで、守備練習に費やす時間はものすごく多かったです。

── 落合博満監督は自らノックをして、選手を鍛え上げました。落合監督時代は8年間で27人のGG賞受賞者を輩出し、リーグ優勝4回と黄金時代を築きました。

荒木 打撃は闇雲に打ってもよくならないかもしれないですが、守備は受ければ受けただけ打球の質を体で感じるようになって、それが武器になる。守備練習で流した汗は、ウソをつかないですよ。

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荒木雅博(あらき・まさひろ)/1977年9月13日、熊本県生まれ。熊本工高から95年ドラフト1位で中日に入団。02年からレギュラーに定着し、落合博満監督となった04年から6年連続ゴールデングラブ賞を受賞するなど、チームの中心選手として活躍。とくに井端弘和との「アラ・イバ」コンビは中日黄金期の象徴となった。17年にプロ通算2000安打を達成し、翌18年に現役を引退した。引退後は中日のコーチとして23年まで指導し、24年から解説者として新たなスタートを切った