出雲駅伝5区を争う青学大の若林宏樹と駒澤大の島子公佑 Photo by SportsPressJP/AFLO 出雲駅伝と全日本大学駅伝が終わり、國學院大が2冠を達成した。 箱根駅伝では3冠がかかるが、前田康弘監督は「3冠は狙っていない。1戦…
出雲駅伝5区を争う青学大の若林宏樹と駒澤大の島子公佑
Photo by SportsPressJP/AFLO
出雲駅伝と全日本大学駅伝が終わり、國學院大が2冠を達成した。
箱根駅伝では3冠がかかるが、前田康弘監督は「3冠は狙っていない。1戦1戦勝つことに集中している」と、余計なプレッシャーを排除し、レースに集中できる環境作りをすでに進めている。箱根はこの國學院大を筆頭に、駒澤大、青山学院大、創価大、早稲田大あたりが軸となって展開するのは、ほぼ間違いないだろう。
箱根を制するためには、準備と当日のパフォーマンスが噛み合わないと難しい。当日のパフォーマンスは走ってみないとわからないところもあるので、机上であれこれ考えても仕方ないが、これまでの結果などで各大学の戦闘指数を判断することは可能だ。
そのポイントは3つある。
1)区間配置を穴なく埋められるか
2)故障者、体調不良者を出さない
3)チームの一体感を作れるか
1)の区間配置については各大学の考えがあるだろうが、今も昔も変わらないのは特殊区間の5区、6区、とりわけ強い5区の選手がいるかどうかが重要なポイントになる。過去の歴史が証明してきたように、平地では1分を縮めるのも大変だが、山ではそれまでの借金をチャラにして、貯金を作ることもできるからだ。
5区に絶対的な強みを持つのは、駒澤大と創価大だ。
駒澤大は全日本で激走し、藤田敦史監督に「2区か5区で悩む」と言わしめた山川拓馬(3年)がおり、創価大には"山の神"を目指す吉田響(4年)がいる。青山学院大にも前回の5区で区間新を出した若林宏樹(4年)がいるが、今シーズンの走りを見ると、このふたりには届いていない。早稲田大も前回の5区6位で、今季も成長著しい工藤慎作(2年)がいるが、山川と吉田の"2強"を崩すところまでにはいかないだろう。國學院大は、前回は上原琉翔(3年)が5区17位に終わったが、今季はこれまで出雲5区区間賞、全日本は8区9位ながら青学大との競り合いに勝ち、優勝を勝ち取るなど非常に調子がいい。個人的には2区に上原で5区・平林清澄(4年)が最強布陣にも見えるが、優勝争いをする上では、ここに誰を置くかがひとつ大きなポイントになる。
ただ、5区に至るまでの区間にどれだけ質の高い選手を置き、さらに復路ではつなぎの7区、8区でどれだけ強い選手を置けるかも重要だ。選手の質と量が問われるわけだが、その観点で言えば、國學院大が優位に立っている。全日本ではつなぎ区間の4区・高山豪起(3年)、5区・野中恒亨(2年)、6区・山本歩夢(4年)の3区間中、5区6区の2区間で区間賞を獲り、7区のエース平林にいい状態でつないだ。ここの頑張りがあっての優勝だが、箱根も往路に平林、上原に加え、山本、野中らが入るだろうし、さらに青木瑠郁(3年)、辻原輝(2年)、嘉数純平(3年)、後村光星(2年)らがいる。ふたつの優勝の経験は非常に大きな自信になり、平地区間では誰がどこを走っても遜色ないほど強い選手が揃っている。出雲でも全日本でも外さない駅伝を展開しており、箱根も隙のない重厚なオーダーで優勝を獲りにいくことになるが、選手の足並みを揃えられるか。
駒澤大は全日本で1区・島子公佑(2年)、4区・谷中晴(1年)、5区・村上響(2年)、6区・安原海晴(2年)と2年生と駅伝デビュー組が上々の走りを見せた。藤田敦史監督は「4区、5区、6区がポイントだったが、ここで結果を出してくれたことが篠原(倖太朗・4年)、山川(拓馬・3年)につづく流れを作った」と笑みを見せていた。エースの篠原、さらに山川、伊藤蒼唯(3年)が主力として力を証明し、箱根では故障で離脱していたエースの佐藤圭汰(3年)も復帰予定だ。駅伝シーズン前は選手層の薄さが危惧されたが、出雲、全日本ともに2位と結果を出し、一気にチーム力を上げてきている。往路は優勝争いを展開できる面子が揃いそうだが、復路で強力な布陣を組めるか。篠原以外の4年生が区間配置のキーポイントになりそうだ。
青山学院大は長い距離に強い選手が揃っており、例年通り箱根を優位に戦えるのは間違いない。区間配置も往路は3本柱の鶴川正也(4年)、太田蒼生(4年)、黒田朝日(3年)が軸になって担い、山要員として若林もいる。1区、そして復路のオーダー、とりわけかつて8区に下田裕太(現GMO)を配し、勝負を決める役割を果たしたような選手が出てくるかどうか。復路にゲームチャンジャ―を置ける場合、青山学院大は手がつけられなくなる。
創価大は「創価スタイル」を押し進めていくべく、往路に主力を惜しみなく投入していくことになるだろう。1区には、全日本の1区で区間3位と好走した小暮栄輝(4年)を起用できる。2区には、全日本は怪我で万全ではなかったが、みずから「箱根は2区」と断言したムチーニが入ってくるだろう。3区、4区は全日本8区2位の野沢悠真(3年)らがつなぎ、5区のエース吉田響に襷を渡せれば、往路の優勝争いでは主役を演じることも可能だ。先行逃げ切りに活路を見出し、往路優勝ができればその勢いで復路も好勝負ができるだろう。
早稲田大は出雲で低調だったエースの山口智規(3年)と主将の伊藤大志(4年)が全日本ではそれぞれ2区と4区を走り、ともに区間5位と調子を戻しつつあるのが大きい。また、駅伝デビューの山口竣平(1年)が5区3位、長屋匡起(2年)が7区5位、工藤が8区3位と結果を出し、収穫が多かった。選手層は決して厚くはないので、やはり主力が仕事をこなさいと順位も出てこない。そのためには主力のひとり、石塚陽士(4年)の復帰がキーになるが、中間層と主力の差を箱根まで、どこまで埋めていけるか。
2)は、戦力を充実させるのと同様に箱根を戦う上で非常に重要なポイントだ。昨年の中央大のように体調不良者が大量に出てしまうと、実力を発揮する以前にレースが終わってしまう。細心の注意を払って生活をしていくことになるが、それでもメンバー選考にかかってくる時期、選手は無理をしがちだ。最後の1、2枠はギリギリまで悩むところもあるだろうが、競争激化による選手の消耗、本番前の痛みの発症などメンタルのケアも含めて、監督のマネジメントが重要になってくる。ここの経験値が高いのが青山学院大だ。箱根前からトレーナーが入り、メンタルとコンディションを整えていく青山学院大のピーキングは、針の穴を通すように正確だ。区間配置とコンディション調整がハマれば、連覇の確率は高くなるし、昨年の太田のように想像を超える走りをする選手が出てくるかもしれない。
3)のチームの一体感で言えば、國學院大が非常によくまとまっている。2冠を達成し、チーム内が盛り上がっているのもあるが、平林の声掛けが各選手のモチベーションややる気を促し、上原が「平林さんを抜く」と言うように、現状レベルをさらにもうひと押しする源になっている。そして、何よりも國學院大がいいのは選手が楽しそうなことだ。走ることが楽しい、戦うことが楽しい。そういう環境にいて、目標に向かって一直線なチームを止めるのは、非常にやっかいなことだ。
駒澤大は全日本を機にグっとチームが引き締まった感がある。
出雲のアンカー勝負で篠原が敗れたあとは、チームを重苦しい雰囲気が包んでいたが、全日本では2区終了時点の16位からまくり、最終8区で山川が青山学院大を抜いて2位まで巻き返したことに藤田監督は「非常に大きい。箱根につながった」と自信の表情を見せた。全日本のラストの山川の追い上げに希望を感じたチームは「箱根でやり返す」という機運が非常に高まっているので、箱根のエントリーが決まれば、より一体感を増していくだろう。
青山学院大は「箱根は落とせない」と原晋監督が語るように目の色を変えて臨んでくる。"箱根優勝"がチームの共通言語になっているので、必然的にチームはその目標に向かってひとつになっていく。青山学院大は一体感を生み出すのではなく、自然と沸いてくるところに強さを感じる。
創価大は全日本4位という結果に榎木和貴監督は「勝つんだという意識が足りない」と選手に苦言を呈し、吉田響もそのことについて言及した。試合後、ピリッとした空気が漂っていたが、それが中間層の選手にどこまで響き、結果に結びつけられるか。中間層がこれからハーフのレースなどで上位や自己ベストを更新する走りを見せ、チームに勝利のムードを醸成していければ、ダークホースではなく、優勝候補の一角に食い込んでいけるだろう。
これら上位5校に城西大、中央大、帝京大がどこまで絡んでくるか。
第101回の箱根駅伝は、10区まで終始、腰が浮くような展開になりそうだ。