文:武田鼎(ラリーズ編集部) 写真:諸石信佐賀県嬉野市——。九州でも有数の温泉どころ、茶どころで有名な嬉野市の中心部から離れた山あいの地に「一風変わった卓球の強豪校」が存在する。それが大野原中学校だ。卓球部の部員は中学1年生から3年生全員合…

文:武田鼎(ラリーズ編集部) 写真:諸石信

佐賀県嬉野市——。九州でも有数の温泉どころ、茶どころで有名な嬉野市の中心部から離れた山あいの地に「一風変わった卓球の強豪校」が存在する。それが大野原中学校だ。卓球部の部員は中学1年生から3年生全員合わせてもわずか9人だ。中学3年生が引退した後は6人で大会に出場しなければならないこともある。

その大野原中学校、実は言わずと知れた強豪校だ。2017年の全国中学選抜卓球大会では佐賀県予選を勝ち抜き、佐賀代表として出場した。過去には県大会で10回以上も優勝し、佐賀では名を馳せる。そんな大野原中学校の強さの秘密はどこにあるのか。実際に卓球部を取材した。



佐賀県嬉野市の中心部から車で20分、大野原地区にさしかかると辺りは一気に山深くなる。夏にはホタルが見ることができるというほど美しい景観が自慢だ。茶畑を横目に山道を走ると、突如2階建ての校舎が出現した。



出迎えてくれたのは桑原力校長、「わざわざ東京から…」と労ってくれた。



早速ぶつけてみた。「校長、なんで大野原中学校は卓球が強いんですか?」

「うちの卓球部が強いのは最近のことではないんです。うーん…30年くらい前からかな…」と意外な答えが返ってきた。「実は、ここの子たちは小学校3年の頃から卓球漬けの日々を送るんです」と説明してくれた。

どういうことなのか。実は大野原中学校の全校生徒はたった16人。最初に見えた大きな校舎も実は1階が大野原小学校、2階が大野原中学校という区分になっている。

「うちは人数が少ない。今年は全校で16人のうち、10人が男子で6人が女子です。野球部とかサッカー部とか人数が必要なスポーツはできません。だから男子は卓球、女子はソフトテニスの部活のみなんです」と理由を語る。

なるほど、9名の卓球部員=全校の男子生徒、というわけだ。「うちは山奥にある学校。だから昔は中学を卒業して高校に行くと馬鹿にされるようなこともあったそうです。ならば少人数でもできるスポーツを頑張ろう、ということで30年ほど前から男子は卓球、女子はソフトテニスに熱心に打ち込むようになったんです」と明かす。

30年以上にわたって、この地では男子は卓球に、女子はソフトテニスに打ち込む文化が根付いていた。大野原地区ではお父さんは卓球部出身、お母さんはソフトテニス部出身という子供たちがごく当たり前のようにいるという。両親も子どもたちの部活動のために地方の大会へ送り出したり、各地を転戦するのが当たり前なのだという。

だが、強さの秘密はそれだけではない。小学校と中学校が一緒の建物であることを活かして小学3年生のころから卓球を始めるのだという。「小学3年生から始まる社会体育も男子は卓球部、女子はソフトテニスと決まっています。卓球に必要なボールタッチの形成に一番大事な時期が小学3年生。その時に中学生と一緒に卓球ができるのは非常にいいことかと思います。説明するよりも見てもらった方がいいでしょう」。

山奥で長年にわたって卓球に打ち込み続けた大野原中学校、一体どんな練習をしているのか。実際の生徒に話を聞いてみよう。



訪れた体育館では卓球台を6台並べればいっぱい、という広さだ。取材に訪れた時は小学3年生と中学生が一緒に練習をしている最中だった。小学生の社会体育は地域の父兄が交代で監督にあたる。その横で練習に打ち込む中学生たちの様子を取材した。話に応じてくれたのは先日引退したばかりの中学3年生3人だ。




左から池田桐哉さん(シェーク裏裏)宮嵜陽生さん(ペン裏裏)田中悠道さん(シェークのバック表)

一体どんな練習をしているのか。昨年のキャプテンを務めた池田さんは「平日は4時から7時までやっています。冬は4時から6時まで。それが毎日ですね。土日も朝8時から昼3時くらいまで練習があることもあります」。3人ともお父さんは同校の卓球部OBだ。「すごい期待されてる感じ、プレッシャーはあります。たまに部活の練習を親が見に来るんです」とちょっと恥ずかしそうに話す。




池田さんたち3年生は中学1年生の頃から試合に出場するのが当たり前だった。「中学1年の時に3年生と対戦するのが当たり前でした。6人しかいないので団体戦での大事な試合も絶対に自分に出番が回ってきます。度胸はついたかもしれません」と話す。

彼らが今でも覚えている言葉がある。それが昨年まで顧問を務めた福山憲一先生の言葉だ。宮嵜さんはこう語る。「『中1が中3を倒す。それが大野原中では当たり前だ』って言われたんです」。たった6人でもなんとかして勝つ。その考えの元、大野原では小学3年生のときから卓球に打ち込むのだ。それでも人数が足りずに、出場を辞退しなければならない年もあったという。

練習風景を見ていると基本的には対人での打ち合いがメインだ。「小3から対人がメイン。こうやってボールタッチを学習していきます」と桑原校長は解説する。練習メニューも自分たちで考えて実践する。団体戦の時には監督とチームでオーダーを練り上げる。

この日はちょうど池田さんたち中3生が引退後の新体制が発表される日だ。誰がキャプテンになるのか。新体制を担うのは中学二年生だ。




中学2年生の峯爽馬さん(水谷ファン)、峯光希さん(張本ファン)、池田蒼輝さん(水谷ファン)

「練習でも中1の時から中3と打てるのはいいですよね」と語る池田蒼輝さんは前キャプテンの池田さんの実の弟だ。峯さんは「誰がキャプテンになるかわからないけど、九州(中学校卓球競技)大会だと福岡・大分はやっぱり強い。九州大会の予選を抜けるのが目標です」と語る。

佐賀の山奥には幼い頃から地域ぐるみで卓球に打ち込む学校があった。大野原中学校のメンバーは数年後、どんなプレーヤーになっているのか。楽しみで仕方ない。