残すところ、あと1試合となった。佳境に入ったJリーグではなく、天皇杯の話である。伝統ある大会だが、今後、考えなければならない問題があるという。サッカージャーナリスト大住良之が、数々の名勝負を生んだ天皇杯決勝の「開催日」について訴える!■今…

 残すところ、あと1試合となった。佳境に入ったJリーグではなく、天皇杯の話である。伝統ある大会だが、今後、考えなければならない問題があるという。サッカージャーナリスト大住良之が、数々の名勝負を生んだ天皇杯決勝の「開催日」について訴える!

■今年の決勝戦は「勤労感謝の日」

「カップファイナル」である――。

 11月23日土曜日(といっても「勤労感謝の日」の祝日)、東京・国立競技場で「天皇杯JFA第104回全日本サッカー選手権大会(以下天皇杯)」の決勝戦が行われる。「ガンバ大阪×ヴィッセル神戸」。関西クラブ同士の対戦が東京で行われることに違和感を覚える人がいるかもしれないが、「カップファイナル」だから仕方がない。「天皇杯決勝戦は国立競技場」と決まっているのだ。

 ちなみに、140年を超す世界最古の歴史を持つイングランドの「FAカップ決勝」の会場も、ロンドンのウェンブリー・スタジアムと決まっている。今年5月に行われた2023/24シーズンのFAカップ決勝は、「マンチェスター・シティvsマンチェスター・ユナイテッド」。ロンドンから250キロ以上離れたイングランド中部の都市のクラブ同士の「ダービー」だったが、それがロンドンで行われることに異論を挟む者などおらず、8万4814人の大観衆で埋まった。

 しかし、今年の天皇杯の決勝が11月23日と知っているサッカーファンが、決勝進出両クラブのサポーター以外にどれだけいるだろうかと、不安になってしまうのである。

 11月は、中旬にワールドカップ予選のインドネシア戦と中国戦(ともにアウェー)があり、終盤を迎えたJリーグは飛び飛びの日程になって優勝争いがやや散漫な印象になってしまっているうえに、その間に4クラブが出場しているAFCチャンピオンズリーグACLEとACL2)の試合があり、さらには悪天候などで順延されていたJリーグの試合がある。しかもJリーグは天皇杯の「カップファイナル・ウイークエンド」に遠慮して同じ週末のリーグ戦実施は原則として避けたため、何に注目していいのか、ファンもわからなくなっているのではないか。

■その開始は「NHK杯元日サッカー」

「天皇杯決勝」は、長く「元日・国立競技場」に固定されていた。その最初は、1968年度の第48回大会で、1969年元日に釜本邦茂をエースとするヤンマーディーゼルと杉山隆一など日本代表選手を並べた三菱重工が対戦し、釜本のゴールでヤンマーが初優勝(初のメジャータイトルだった)を獲得した。言うまでもないことだが、ヤンマーは現在のセレッソ大阪であり、三菱は現在の浦和レッズである。

 この1年前、1968年の元日に、NHKが「NHK杯元日サッカー」を企画し、国立競技場で日本リーグ優勝の東洋工業×大学選手権優勝の関西大学という試合を組んだ。その10日後には天皇杯が開幕し、両チームとも出場することになっているのだが、NHKにとっては元日にスポーツの生中継をすることが大きなチャレンジだった。

 当時の日本の社会では、「正月」の意味は現在よりはるかに大きかった。元日に開いている商店など皆無で、3日までほぼすべての商業活動が停止していた。国立競技場のある神宮外苑を舞台とした「元旦競歩(1953年に開始)」を除けば、スポーツもすべて休みになっていたのである。

■サッカー人としての「最高の幸せ」

 ところが、元日の「NHK杯サッカー」は思いがけなく好評だった。明治神宮に初詣に行ったファンが国立競技場に集まり、視聴率も予想を上回った。その成功を見て日本協会は元日に天皇杯決勝を入れることを提案、NHKが了承して翌年から「元日は天皇杯決勝」となったのである。

「元日サッカー」という卓抜したアイデアであった「NHK杯」は、1回限りで終わった。天皇杯決勝が今もNHK総合で生中継され、数ある優勝トロフィーの中で「NHK杯」が「天皇杯」に次ぐ地位を占めているのは、こうした経緯によるものだ。

「元日決勝」は、1960年代から1990年代初頭にかけて、すなわちJリーグ以前、日本のトップクラスでは最も多くの観客を集める大会であり、コンスタントに3万人ほどが集まって盛り上がりを見せた。「サッカー関係者の賀詞交換会(新年の挨拶と名刺交換を行う催しの一つ)」の趣きまで生まれ、完全に定着したものとなっていたのである。

 日本サッカーリーグ時代には、11月中にリーグ戦を終了して、12月に入ってから天皇杯の1回戦が始まるという形が多かった。準々決勝が12月23日、準決勝が30日、そして決勝戦が元日と、やや強引な日程だったが、年末に大会はグッと盛り上がり、元日の決勝戦を迎える形だった。

「サッカー人として、大みそかをチームの合宿で迎えられることほど幸せなことはない」

 そう語る決勝戦進出チーム監督も少なくなかった。

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