今年のJ1リーグも残すところ、あと2試合となった。だが、例年通りの混戦で、優勝の行方はまだまだ分からない。なぜ毎年のように混戦となるのか。また、頂点に立つチームはどこか。サッカージャーナリスト後藤健生が第36節の結果を踏まえ、今シーズンの…
今年のJ1リーグも残すところ、あと2試合となった。だが、例年通りの混戦で、優勝の行方はまだまだ分からない。なぜ毎年のように混戦となるのか。また、頂点に立つチームはどこか。サッカージャーナリスト後藤健生が第36節の結果を踏まえ、今シーズンの「行方」を読み解く!
■圧倒的に「有利」な状況なのは?
こうして、第36節を終えた時点でヴィッセル神戸が圧倒的に有利な状況となった。神戸は残り2試合で勝点4を取れば、連覇が決まる。それに対して、サンフレッチェ広島は1試合も落とせない状況となった(FC町田ゼルビアとの勝点差も2差となっており、3位転落の危険もある)。
では、すんなりと神戸の優勝が決まるのだろうか?
冒頭で、「何度も見てきた光景だった」と書いた。
Jリーグ終盤の優勝争いの話である。
最近は川崎フロンターレが圧倒的に強くて、残り何試合も残して優勝が決まるシーズンもあったが、歴史的に見ればJリーグ終盤の優勝争いは混戦となることが多かった。
首位に立ったチームが下位チームに対して勝点を落として、首位から陥落する。すると、次の週には代わって首位に立ったチームが敗れて、再び首位が入れ替わる……。
そんなことを繰り返し、たまたま最終節が終わった段階でより多くの勝点を手にしていたチームに優勝が転がり込む……。そんな戦いである。
「優勝をつかみ取った」というより、「優勝を争っている相手の自滅によって優勝が転がり込んできた」とでも言いたくなるようなことが何度も起こっている。
残り2試合。神戸は柏レイソルと湘南ベルマーレ、広島は北海道コンサドーレ札幌とガンバ大阪と、それぞれ対戦する。最終節で広島が対戦するG大阪を除けば、いずれもまだ残留争いをしている下位チームばかりだ。
だが、残留のために戦っている下位チームは侮れないし、逆に降格が決まった後のチームは「これ以上、失うものはない」という、ある意味で精神的に自由に戦える。実際、町田が鳥栖に敗れてもいる。
優勝争いが、それほどすんなりと決着するとは思えない。何よりも、メンタル的に平常心を保って戦ったチームが勝つのだが、それがいちばん難しいことだ。
■2週間の中断期間に「カップ戦」
さらに、事態を複雑にするのが、残り2節までのスケジュールだ。
J1リーグは、代表活動と天皇杯決勝があるため、2週間の中断に入る。中断によって休養を取ることができるのは、もちろんフィジカル的な立て直しを図れるのでありがたいことではあろうが、メンタル的に追い込まれた中での中断はマネジメントが難しいという面もある。
そして、さらに複雑なことに、この間にカップ戦の日程が挟まってくるのだ。
神戸は第37節の柏戦の前に天皇杯決勝のG大阪戦と、ACLエリートの第5節、セントラルコースト・マリナーズ(オーストラリア)戦がある。そして、柏戦から最終節までの間にやはりACLEの浦項スティーラーズ(韓国)戦が挟まる。浦項戦はアウェイだが、神戸から浦項までの移動はそれほど長距離ではない。
天皇杯決勝はガチンコ勝負とならざるを得ないだろうが、ACLEの試合はターンオーバーを使うことになるだろう(神戸は現在3勝1分でグループEASTのトップに立っており、ターンオーバーを使う余裕はある)。
一方、広島の方は天皇杯がない分1試合少ないが、カヤFCイロイロ(フィリピン)とのアウェイ戦と東方(香港)とのホームゲームがある。広島は、すでにグループステージ勝ち抜けを決めているので、ターンオーバーを使うことができる。
こうしたカップ戦で疲労をためないことも大事だが、同時にゲーム感覚が開きすぎないように、適当な時間、選手をプレーさせることも大事になる。
ACLの試合で、そうしたマネジメントをうまく行うことも、両チーム監督にとっての大きな課題になるはずだ。
■本来の面白さは「Jリーグ」にアリ
浦和との試合の後、3連敗について質問されたミヒャエル・スキッベ監督は「Jリーグというのは上位と下位の力が拮抗したリーグだから」と答えていた。外国人監督からよく聞く言葉の一つである。
僕たちサッカージャーナリストは毎シーズン、開幕前に「順位予想」という難題を突きつけられる。「外したら嫌だな」と思うと同時に、「他の記者と同じではつまらないな」とも思って頭を悩ます。
しかし、スペインの記者だったら「レアル・マドリードかバルセロナ」と答えておけば、誰にも文句をつけられることはない。ドイツだったら「バイエルン・ミュンヘン」、フランスだったら「パリ・サンジェルマン」と答えておけば当たり障りないだろうし、たいてい当たる。
Jリーグは、やはり現代の世界では類を見ない拮抗したリーグなのだ。韓国のKリーグや中国の超級聯賽でも、Jリーグよりははるかに予想が簡単そうだ。
ヨーロッパの、各国に絶対王者的なメガクラブが存在するのを見慣れている日本のサッカーファンには、そういったクラブが存在しないJリーグは物足りないと感じるのかもしれない。
しかし、リーグ戦というのは、本来そういうものなのではないだろうか。
毎年、同じクラブが優勝していたのではリーグ戦の面白さはない。Jリーグの、心理戦だか消耗戦だか分からないが、追い詰められた者同士の競り合いこそ、リーグ戦本来の楽しみなのかもしれない。
遠い昔、Jリーグが発足する前の日本サッカーリーグ(JSL)の時代。優勝するのは東洋工業とか、三菱重工とか、ヤンマーディーゼルとかに決まっていた。もっと時代を下って、JSLの最後の10年ほどは日産自動車と読売サッカークラブが毎年のようにタイトルを独占していた。
そんな時代、ヨーロッパでは今のように各クラブの財政規模が大きくなかったので、勢力は均衡していた。プレミアリーグが発足する前のイングランドのフットボールリーグでも、西ドイツのブンデスリーガでも、毎年、どこが優勝するのか分からない時代が続いていた。それを見て、僕はいつも、「ああ、ヨーロッパのリーグ戦は面白そうでいいなぁ」と憧れていたものである。