11月2〜3日、兵庫県豊岡市の全但バス但馬ドームで「第26回全日本身体障害者野球選手権大会」が行われた。各地域大会を優勝したチームのみが参加できる大会で、4連覇中の「岡山桃太郎」が貫禄の試合を見せた。(取材 / 文:白石怜平)全国38チーム…

11月2〜3日、兵庫県豊岡市の全但バス但馬ドームで「第26回全日本身体障害者野球選手権大会」が行われた。

各地域大会を優勝したチームのみが参加できる大会で、4連覇中の「岡山桃太郎」が貫禄の試合を見せた。

(取材 / 文:白石怜平)

全国38チームの頂点を決める大会

「全日本身体障害者野球選手権大会(通称:秋の選手権)」は毎年11月上旬に行われている身体障害者野球の全国大会。

「NPO法人日本身体障害者野球連盟」に加盟している全国38チームの頂点を決める大会として位置付けられている。

秋の選手権は1999年から開催(2020年は新型コロナウイルス感染拡大により中止)されており、全国7ブロック(※)の地区大会を勝ち上がったチームのみが参加権を得ることができる特別な大会。

(※)北海道・東北、関東甲信越、中部東海、東近畿、西近畿、中国四国、九州の7ブロック

今年も毎年会場となっている但馬ドームで全9試合が行われた

但馬ドームで全国の頂点を決める戦いが行われた

決勝へと導いた主将の一振り

本大会は「岡山桃太郎」が4連覇中で、今回は5連覇を目指し迎えた。

全国大会での戦績はさることながら、日本が世界一に輝いた「第5回全国身体障害者野球大会」でチーム別最タイの5選手を輩出している全国屈指の強豪チームである。

初戦の相手は名古屋ビクトリー。名古屋は、岡山と例年決勝戦で覇権を争うライバルチームの一つ。上述の世界大会で岡山と同じ5選手を輩出し、ここでは代表選手同士の対戦もみられた。

岡山や名古屋の選手も出場した日本代表メンバー

この試合で活躍を見せたのがチームの主将を務める槙原淳幹。1−0と拮抗した展開を見せていた中盤の4回に3ランとなるランニング本塁打を放ち、大きな追加点をもたらした。

ランニング本塁打を放った槙原

槙原は生後10カ月の時に交通事故で右腕が動かなくなり、物心がついたときから左腕で生活してきた。

小学3年生で野球を始めてから実力を着実につけていき、高校時代には軟式野球部のレギュラーとして全国優勝を成し遂げた。

岡山桃太郎の一員となったのは20年前に遡る。中学3年生の時に、槙原のプレーを見たチームからスカウトを受けて入団した。

捕球したグラブを舞い上げてボールに持ち替え、一塁へと送球するスピードと正確性は世界を代表するレベルを誇り、昨年の世界大会には二塁で出場し副主将も務めた。

昨年の世界大会では副主将を務めた

名古屋戦で放った本塁打も左手一本で振り抜いた。この本塁打について槙原は、

「2死1塁で、簡単に0ボール2ストライクと追い込まれてしまったので、三振はしないようになんとか内野を抜こうと軽く振り抜いたスイングでした。ホームインのときは、ベンチから総出で仲間が迎えてくれて素直に嬉しかったです」と振り返った。

この一打からさらに勢いづいた岡山打線はさらに5回に5点を加え、9−2で勝利し決勝へと駒を進めた。

決勝では”世界一”のエースが完封

そして翌日に行われた決勝戦は、神戸コスモスとの対戦となった。神戸は、日本における身体障害者野球の第一号となったチーム。

元阪急ブレーブスの”世界の盗塁王”・福本豊氏と交流したことがきっかけとなり、1981年に故・岩崎廣司氏(前日本身体障害者野球連盟理事長)が創設した。

春の選抜大会優勝20回・秋の選手大会優勝16回を誇り、世界大会でも山内啓一郎監督(日本身体障害者野球連盟理事長)を始めコーチ2名・代表選手3名を送り込む名門チームである。

優勝実績が最も多い神戸コスモス(6月撮影)

神戸は初日に2連勝し、16年以来の優勝を目指すべく王者・岡山へ挑むことになった。

試合は岡山が序盤からリードを奪う展開になった。初回に3点を奪い主導権を握ると、先発の早嶋健太が快投を見せて神戸打線を抑え込んだ。

早嶋は日本の絶対的エースとして長く君臨し続け、前回・前々回の世界大会では世界一の原動力となり連続MVPを獲得。

打ってはリードオフマンを務め、前日の名古屋戦でもタイムリーを放つなど投打でチームを引っ張っている。

世界を代表する選手である早嶋健太

左手に先天性の障害(左上肢手指欠損)がある早嶋は小学5年生から野球を始め、大学まで健常者チームでプレー。

甲子園を目指した高校時代には1年秋からレギュラーを掴み、中国六大学リーグの吉備国際大時代には100名を越える部員の中からベンチ入りメンバーに選ばれた。

大学時代に世界大会の存在を知ったことをきっかけに、16年に入団。17年の本大会で全国優勝に導き、年間MVPを受賞するなど早くから頭角を表し現在に至る。

早嶋は決勝のマウンドでも躍動し、6ー0で完封勝利を収めた。岡山は神戸以来となる秋の選手権大会5連覇を達成した。

神戸打線をシャットアウトした

槙原が初の年間MVPに選出

閉会式では表彰式が行われ、大会MVPには早嶋・そして2024年の年間MVPに槙原が選出された。

早嶋は大会を振り返り、

「やり切ったというのが1番です。6月春の全国大会での敗戦(優勝した香川チャレンジャーズに敗退)から、”次は絶対に負けない”と強い気持ちを持ち続け日頃の練習に取り組んできました。その結果が出たのはさらに自信となりました」と語った。

ナインから胴上げされる早嶋(提供:日本身体障害者野球連盟)

また槙原は自身初めての年間MVP獲得となった。入団から20年で獲得した個人タイトルだった。

「自分がどんな立場であろうと、常に『チームの勝利』だけを目指してやっているので、MVPよりも断然チームの5連覇の方が嬉しかったです。

春は2回戦負けで悔しかったですし、監督が代わった年だったので、何より胴上げをしたかったです。佐藤晃一監督が新たに就くなどチーム編成が変わった年でしたが、勝利のためにそれぞれが役割を果たせた1年間でした」

と、大きな変化があった中でチームが勝てたことを誇った。

年間MVPを受賞した槙原(提供:日本身体障害者野球連盟)

岡山の選手権大会5連覇で幕を閉じ、全ての大会日程を終えた身体障害者野球。

早くも各チームは来季を見据えており、また来シーズンこの場所に戻るべくリスタートを切っている。