「ヒゲキャップ・ブラザーズ」(以下ヒゲキャップ)がYouTubeラジオを通じて行なっている提唱が話題だ。「子供たちが野球を楽しんで好きでいられる環境作り」を目指すコンビに話を聞いた。 ヒゲキャップは、熊本県で野球スクールを開いている川上健輔…

「ヒゲキャップ・ブラザーズ」(以下ヒゲキャップ)がYouTubeラジオを通じて行なっている提唱が話題だ。「子供たちが野球を楽しんで好きでいられる環境作り」を目指すコンビに話を聞いた。

 

ヒゲキャップは、熊本県で野球スクールを開いている川上健輔氏と栃木県を拠点に野球スキルコーチを務める菊池タクト氏のチーム。その名の通り髭面とベースボールキャップがトレードマークだ。

真剣に取り組む中でも楽しさを忘れないことで、子供たちは大きく成長する。

遠距離の2人を繋げたのはSNSと「マネージャー氏」(仮名)と呼ばれる共通の知人の存在だった。

 

「『健輔パパ』と名乗りSNSで野球界へ提言をされているのは知っていました。楽しい投稿の中で時折、芯をついた問題提起や改革案をされていて共感しました」(菊池氏)

 

「SNSでタクトのことは知っていました。お互いのSNSで共通の知人だったマネージャーさんが間を取り持ってくれてコンタクトを取るようになりました」(川上氏)

 

「子供たちが野球を好きになるラジオを始めよう」

初めて会話を交わした時から、野球におけるビジョンやベクトルの方向が同じだとお互いが感じた。出会って約1ヶ月でYouTubeラジオを通じて思いを発信することとなった。

菊池タクト氏(写真左)と川上健輔氏(同右)はすぐに意気投合してYouTubeラジオを始めた。

~野球で苦しむのではなく楽しんでプレーを続けて欲しい

「タクトから『野球スクールをやってください』と強く背中を押されたのがきっかけ」

 

川上氏は2023年12月に熊本市東区で「DONGRI-SPORTS」をスタートさせた。野球とかけっこ教室を併設、ジュニア世代が個々のスキルアップを目指せる少人数制のトレーニング施設だ。野球のみでなく、走る、投げるなどの運動能力を高める基礎部分を大事にしている。

 

「選手時代から紆余曲折、さまざまなことがありました。一度は野球界から完全に身を引いて料理の世界に入りました。しかし、コロナ禍で自営の飲食店を閉めなくてはならなくなった。その頃にタクトと出会って、再び野球でやって行く覚悟ができました」

 

小中学生の頃は野球と陸上の二刀流、熊本県内では知られた存在だった。必由館高野球部では主将を務め、四番・内野手として2003年夏の甲子園大会へ出場。卒業後は社会人・寺原自動車学校の軟式野球部でプレーした。

 

「22歳という脂の乗っている時期に現役引退しました。寺原自動車学校は軟式の強豪で3年間無敗の74連勝も経験しました。しかし『勝利』が大きな目標となったことで野球をするのが苦しくなりました」

 

「プロになるのを諦めたのも引きずっていました。1学年下のダルビッシュ有(パドレス)が東北高時代にブルペンで投げているのを間近で見ました。『こういう人がプロになるのだ』と勝手に決めつけてしまった」

 

現役引退後は「野球とは関わりたくない」とまで感じ、料理を学んで自身のお店を持った。事業も順調に進み始めた頃にコロナ禍が直撃、閉店を決めたタイミングで野球への思いも少しずつ戻ってきた。

 

「タクトとの出会いに運命的なものを感じました。子供たちには自分と同じように野球を苦しみながらやって欲しくない。笑顔を忘れずに楽しんで欲しい。その部分の思いがタクトと全く同じだったのが大きかったです」

川上健輔氏は「DONGRI-SPORTS」において、運動能力を高める基礎部分を大事にしている。

~野球を好きになれば間違いなく上達するはず

「『正しい知識を持ってアプローチする指導者が増えて欲しい』という思いが、健輔さんと全く同じでした」

 

菊池氏は「野球スキルコーチ」を職業としている。高校教師の職を自ら辞して渡米、ニュージャージー州の複数アカデミーで個人レッスンにおけるコーチング知識を学んだ。日米の野球技術や文化の違いに向い合いつつ、T-Academy代表としてYouTube「タクトtv」での動画配信をしつつレッスンも行なう。

 

「野球技術、知識、情報は常に進化を続けています。常に最新のものを正確に伝え、1人でも多くの選手がスキルアップすることを目指したいです。若年層には正しい知識を持ったスキルコーチが絶対に必要なはず」

 

アマチュア時代は頂点を目指してプレーに没頭した。福島・光南高3年時は四番・捕手として県大会準優勝。富士大では明治神宮大会5度出場、西武・外崎修汰は同学年、ソフトバンク・山川穂高は1年先輩に当たる。

 

「日本野球は素晴らしい部分がたくさんありますが、米国を参考にすべき部分も残っています。スキルコーチは日本球界では馴染みがないですが米国では当たり前の職業。役割や立場が明確で、非常に重要なポジションです」

 

「技術を学ぶ機会がないまま才能だけで高校、大学、プロと野球を続けて行くのは良くない。また、技術的に未熟な選手でも、将来的に伸びる過程を作り出す必要もあります。レッスンで上達して結果を出す選手がジュニア世代で増えれば、野球界のボトムアップにも繋がるはずです」

 

高校教師時代、自分自身が経験や薄い知識で指導をしていることに気付く。指導者が常に最先端にいることで、選手たちは野球への興味をより深めて楽しめるはずだと感じた。

 

「スキルコーチはリアルタイムの技術や情報を持っていないといけません。また積極的に選手との距離を縮めて信頼関係を作ることも重要です。声をかけられると選手たちは嬉しそうにしてくれる。野球を好きになれば間違いなく上達すると思います」

菊池タクト氏はT-Academy代表としてリアルタイムの野球スキルを伝えている。

~野球に関わる大人が情報を常にアップデートする必要がある

ヒゲキャップはYouTubeラジオ内において、常に指導者や保護者といった大人を意識して話をしているという。

 

「ラジオは大人の方々に聞いて欲しい。指導者やコーチ、保護者や地域の大人の方々等、子供たちと関わる全ての人々です。『今の野球における技術や環境がどうなっているのか?』をしっかり伝えたいです」(菊池氏)

 

「大人の方々にアップデートして欲しい。子供たちに伝える側の人間(=大人)が変わらないと変化も生じない。自分たちが知っている野球が今の時代に即しているのかを常に考える。それができないと子供たちには伝わらないし見透かされてしまいます」(川上氏)

 

「時代は常に動いていますから」と考えるからこそ、野球の現在を伝えるためのラジオの重要性を口にする。

 

「個人のSNSやYouTubeだとスキルに関するものが中心になる。でも、ヒゲキャップでは野球を取り巻く全ての事柄についてリアルタイムで語れます。またラジオはリスナーからメール等でダイレクトの意見や質問を即座にもらえます。それに1つずつ答えていくことが選手たちに少しでもプラスになってくれれば」(菊池氏)

 

「さまざまな人の耳にオートマチックで入るラジオにできればと思います。『地方局でも良いのでコーナーとか持てないかな…』と夢も持っています。バッティングセンターの空き時間に流してもらえる環境などでも最高。多くの関係者や保護者の方々が、自然に耳にしてくれるようになれば」(川上氏)

野球に関わる全ての子供が笑顔でプレーできる場所を作りたい。

現時点で考える、「子供たちが野球を好きになる」ために少しでも変わって欲しい部分についても語ってくれた。

 

「一生懸命、野球に取り組んでも試合に出られなければ面白くない。どんなレベルの選手でも1試合でも多く試合ができるようにしたい。練習は手伝いのみ、試合はスタンドでの応援だけでは、他の競技やエンタメに興味が移っても仕方がない」(菊池氏)

 

「自分自身のために野球をやって欲しい。ベンチの指導者やスタンドにいる保護者の顔色を伺ってやっても面白くない。『結果が良くても悪くても全ては自己責任』と考え、自分自身のためにボールを追いかけられる環境になることを望みます」(川上氏)

 

「ラジオをあと30年くらいやったら変わると信じています」と2人は口を揃える。

伝統と歴史によって構築された環境を変化させるには、相当の労力と時間がかかることは認識している。しかし、諦めることなく継続していくことが大事だと信じている。

「ヒゲキャップ・ブラザーズには確固たる決意と覚悟がある。野球を好きな子供たちが1人でも増えるよう、今日もアップデートと発信を重ねる。

 

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・ヒゲキャップ・ブラザーズ)