いまやアスリートにとって、彼らを支えるトレーナーは欠かせない存在。宮城県大崎市のスポーツジム「FREE STYLE ASSIST」の代表を務めるトレーナー・湯山介人さん(29)は、「トレーナーがごまんといる中で選んでいただいた以上、結果を出…
いまやアスリートにとって、彼らを支えるトレーナーは欠かせない存在。宮城県大崎市のスポーツジム「FREE STYLE ASSIST」の代表を務めるトレーナー・湯山介人さん(29)は、「トレーナーがごまんといる中で選んでいただいた以上、結果を出さないといけないし、自分しかできないことを提供して付加価値を生み出したい」と話す。トレーナーの在り方を示すべく、日々革新的な挑戦を続けている。
フィットネス人口拡大へ…「運動を好きになってもらいたい」
大崎市のJR川渡温泉駅から徒歩約10分。のどかな田園風景の中に突如、県内外各地からアスリートらが集うスポーツジムが現れる。充実したトレーニング設備が整っており、ジムと同じ敷地内にはバッティングゲージやバスケットボールコートもある。
今年5月に開業して以降の利用者数は約450人。ジムと言えば「会員制」のイメージが強いが会員は約50人で、出入り自由で1日何度でもトレーニングできる「ビジター利用」も可能だ。野球、空手、バレーボール、剣道、スキーなどさまざまな競技のアスリートが足を運んでいる一方、健康維持・増進を目的とした一般客も少なくない。
湯山さんは「日本のフィットネス人口は約3%で、世界各国と比べると10%まで上げる必要がある。『ジムはこうあるべき』という固定観念にとらわれず、敷居を低くして、間口を広げて、運動を好きになってもらいたい」と話す。ジム利用のハードルを下げるほか、川渡温泉や鳴子温泉の周辺を散策するイベントなどを企画して集客につなげている。
モットーは「トレーナーがいなくてもできるくらい教え込む」
大崎市で生まれ育った湯山さんは、幼少期から地域で盛んなスキー競技に親しんでいた。雪の降らない時期は他競技に励み、中学時代はスキー以外に陸上、野球、水泳、駅伝もプレーした。
大崎中央高では陸上部に在籍。陸上競技経験のない顧問が就いた際に宮城県内の高校を回って指導者の話を聞いたのがきっかけで、トレーニング理論に興味を持った。高校卒業後、スポーツ専門学校を経てトレーナーに。2019年まで幼児体育の企業に勤めて子どもの運動指導に当たり、令和を迎えるタイミングで独立してフリーランスでの活動を始めた。そして今年、地元でスポーツジムを開業。トレーナーの道を突き進んでいる。
湯山さん自身、あらゆるスポーツを経験したからこそ、基本的にはどんな競技にも対応できる。トレーナーとしてのモットーは「トレーナーがいなくてもできるくらい教え込む」。限られた時間の中、競技や個人に合わせたトレーニング方法を徹底的にたたき込む。
データにもとづく「いいね」…ラプソード導入の効果
中でも需要が高まっているのが、野球の指導だ。少年野球チームの選手から独立リーガーまで、幅広い年代を担当。選手たちはおのおのチームに所属しているため、チームの指導者に「何が足りていなくて、何を指導すればいいか」を事細かに聞くことを忘れない。湯山さんは「あくまでもトレーナーは裏方。チームの監督やコーチが望むものと違う方向にいくとまずいので、しっかり話し合います」と力を込める。
夏以降の時期は高校入学前の中学3年生を受け持つ機会が多い。この場合は高校の指導者から「入学までにこういう選手にしてください」と依頼を受け、それに沿った指導を行う。例えば打力を求められれば体重や筋量を増やし、走力であれば瞬発的なパワーをつける。投手力を上げるためには可動域を広げる。同じ野球、同じ年代でも、取り組むトレーニングは選手によって大きく異なるという。
今年8月からは計測機器「ラプソード」を導入した。金銭的な問題で導入に踏み切れないチームは多く、プライベートで訪ねて使い方を教わったり、計測したりする指導者、選手がいるほど関心度が高い。湯山さんはラプソード導入の効果について次のように語る。
「選手が投げるのを見て『球が伸びているね』、『キレがあるね』と言っても、それは客観、主観でしかなくて、昨日と比べてボールがどのくらいの数値変化をしたかはデータを計らないと分からない。『いいね』と言っても何がいいのか分からなければ言った『いいね』が無責任になる。例えば『昨日のストレートは1800回転だったけど今日は2000回転いっている』などと数値的なデータをもとにした声かけをすれば、無責任な指導は避けられる。何がいいのか分かるという点で、導入してよかったです」
現在進行形で進む“自分にしかできないこと”の追求
ラプソードに関しては湯山さん自身も「勉強中」。ラプソードの数値変化を根拠に、目的に応じた最適なトレーニング方法を少しずつ確立している。自らセミナーに参加するほか、チームの指導者からフィードバックを受けることもある。
次々と新たな取り組みに挑戦するのはやはり、湯山さんにしかできない指導を通して“付加価値”を生み出すため。今後については「いろんな『初』をやりたい。やりたいことが多すぎます」と笑いつつ、部活動の地域移行に伴うチーム設立やアスリートのセカンドキャリア支援など、いくつもの野望を抱く。
「自分の身体の可能性を伸ばしたいアスリートの方、ラプソードで科学的にうまくなりたい野球関係者の方、私まで連絡いただければ必ず力になります」と呼びかける湯山さんの、次なる挑戦に注目だ。
(取材・文・写真 川浪康太郎)