NHK杯SPで首位発進した鍵山優真【いいバランスで生活できている】 11月8日、国立代々木第一体育館。GPシリーズ・NHK杯フィギュアスケート2024のリンクに、鍵山優真(21歳/オリエンタルバイオ・中京大)が颯爽と登場した。昨シーズンのG…



NHK杯SPで首位発進した鍵山優真

【いいバランスで生活できている】

 11月8日、国立代々木第一体育館。GPシリーズ・NHK杯フィギュアスケート2024のリンクに、鍵山優真(21歳/オリエンタルバイオ・中京大)が颯爽と登場した。昨シーズンのGPファイナルは3位、世界選手権は2位で、その躍進は目覚ましい。 
 ショートプログラム(SP)、凛然としてスタートポジションに入った。

「まずは自分自身が楽しんで滑る」

 鍵山は自らにそう言い聞かせていたという。練習どおり、最初から最後までできれば、自ずと結果は出る。その信条で、演技に入り込むことができた。

「毎日、いい状態で練習を積み重ねられているのがいいところだなって」

 鍵山は顔を上げ、明るい声で言う。
 
「会場に入る時にワクワクした気持ちで、代々木の体育館を見ることができました。今は、自分の世界に入りすぎず、周りに飲まれすぎず。ちょうどいいバランスで生活できているので、すごく自然に滑れているなって思います。いつもの自分らしさを出しながら、今日の演技を迎えることができました」

 彼は自分へベクトルを向ける。その律儀さが、この日の会心の演技につながったかーー。

【自分はできる、と信じて】

 黒い衣装を着た鍵山は、『The Sound of Silence』のギターに合わせ、氷上を舞い始める。冒頭、4回転サルコウを華麗に降りている。肩甲骨の可動域を全開するように大きく腕を振り、スケーティング自体にダイナミズムが漂う。そして大技の4回転トーループ+3回転トーループを完璧に成功。流れに澱みがなく、万雷の拍手を受ける。最後のトリプルアクセルも、ゆったりとしたフォームから着氷した。

「どれだけ当然に跳べているジャンプでも、緊張感や不安で揺らいでしまうことがあるので。ネガティブなことを考えず、"自分はできる"ということだけを信じて、その感覚に任せてできたのがよかったと思います」

 鍵山はそう振り返っているが、終盤も見どころだった。

 曲調が激しくなって、ボーカルが響く中、激情を解き放つようなスピン、ステップを披露している。スタンドの拍手に熱がこもり、物語のクライマックスのような情景に。そして最後のフィニッシュポーズ、主役はガッツポーズをしたあと、ピースサインも送った。リンクサイドに戻ってくる時には、コーチに向かって右腕を突き上げた。
 
 堂々の105.70点で、ショートは1位発進だ。

「会場に入ってからの練習は、(北京)オリンピックを思い出すような調子のよさでした。オリンピックも最初から最後まで調子がよく滑れて、あの時の体の状態以上で臨めるのがうれしくて。日本開催で、『頑張れ』と知ってる声もたくさん聞こえてきましたし。ショートは盛り上がるプログラムではないかもしれないけど、お客さんや自分を引き込める滑りをできたかなって思います」

 鍵山は、溢れ出る笑みを浮かべた。充実した戦いの実感が伝わってくる。

【SPは日本選手が上位独占】

「お、すご!!」

 ミックスゾーンで取材を受ける中、鍵山はマイクを持って質問を受けながら、思わず大きな声を出している。同じ日本人の三浦佳生が、100点を超える高得点を叩き出したのだ。

「あ、すいません」

 鍵山はそう言って我に返り、謝りながらこう続けている。

「周りの選手は、"僕のことを超えたい"とかもあるかもしれません。でも、僕自身は引っ張るよりも、上を目指していかないといけない、という立場で。みんなと同じ目線に立って、イリア(・マリニン)選手とか、他に強い選手もいるので、どんどん上を目指す意識でやっています」

 宇野昌磨という巨人が引退したあと、周囲には日本のフィギュアスケートを背負う姿を求められる。しかし、彼にとっては共闘している感覚か。切磋琢磨が実力に転換されているのだ。

 そしてSPが終わり、鍵山、三浦、壺井達也という日本選手が1、2、3位を独占した。
 
「今日は、みんなそれぞれがやるべきこと出し切った結果ですね。(鍵山の演技まで首位だった壺井が)いい流れを作ってくれて、パワーをもらえました。(演技の前に三浦に)『流れを作ってよ』と言われていたので、僕も頑張ろうってできましたね。みんなが100%を尽くした結果、(日本選手で)独占できたらうれしいなって」

 好むと好まざるにかかわらず、鍵山がトップであることは間違いない。
 
「明日(11日9日)は明日で、難しいプログラムを滑ることになります。僕としてはショートと同じで、練習以上を求めずに。(トータル)300点は超えたいってことはありますが、目指しているスケートを最初から最後まで滑りきる、というのが明日の目標なので。まずは、この間の西日本インカレで失敗した4回転フリップを含めて、安定した滑りができるように。カッコいいプログラムなので、見ている人が盛り上がる滑りをしたいです!」

 至高の演技は、優勝に直結する。フリーに向け、鍵山の視界は良好だ。