来年6月に開催される車いすバスケットボール男子U23世界選手権への切符争奪戦が、約2週間後に迫っている。11月17~22日、タイ・バンコクで行われる男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップス(U23AOC)だ。その前哨戦として、男子U2…

来年6月に開催される車いすバスケットボール男子U23世界選手権への切符争奪戦が、約2週間後に迫っている。11月17~22日、タイ・バンコクで行われる男子U23アジアオセアニアチャンピオンシップス(U23AOC)だ。その前哨戦として、男子U23日本代表は11月8~10日に行われる北九州チャンピオンズカップ(北九州CC)に出場し、チーム強化の底上げを図る。そこで今回は、男子U23日本代表の現況と、初陣となる北九州CCの狙いに迫る。


円陣で気合を入れる男子U23日本代表

大先輩たちとの練習試合で見せたポテンシャル

10月13~17日、今年度3回目となる男子次世代強化合宿が実施された。今回の合宿に招集されたのは、北九州CCに出場する17~21歳のメンバーだ。実戦を想定した試合形式の練習が重点的に行われ、連日のように練習試合をしてチーム強化を図った。

その練習試合には、男子ハイパフォーマンス強化指定選手たちも協力。キャプテン川原凜(1.5)や大ベテランの藤本怜央(4.5)、さらには2年前のU23世界選手権で史上初の金メダルに輝いた鳥海連志(2.5)、髙柗義伸(4.0)、宮本涼平(1.0)など、日本を代表するトップ選手たちが顔をそろえ、2日間にわたって練習試合の相手となった。


ハイパフォーマンス強化指定選手たちとの練習試合は貴重な経験となった

いずれの試合も、ハイパフォーマンス(ハイパ)チームが圧勝したが、1日目の試合では今年度に初めて次世代強化指定に選出された17歳、高校2年の有吉奏太(2.0)が活躍。持ち前のシュート力を遺憾なく発揮し、3本の3ポイントシュートを含む16得点を挙げ、チーム総得点の6割以上を一人で叩き出した。


格上のハイパフォーマンス強化指定選手にも強気の姿勢を崩さなかった有吉

その有吉について、指揮官の中井健豪ヘッドコーチ(HC)はこう語る。「ハイパの選手相手のゲームは強度が高く、もちろん簡単なシュートなんてほとんどありませんでした。そのなかで3ポイントを3本も入れて、シュート成功率5割。メンタルも強くて、たとえ外してもぜんぜん気にすることなく、打ち続ける強さを持っている。シュートに関しては本当に才能だと思います」

指揮官がポテンシャルの高さを感じているのは、有吉だけではない。「この世代はバスケットがうまい選手が本当に多い」と中井HC。ハイパの選手たち相手にも、中井HCが感心するほど連携の取れたディフェンスを見せる場面もあり、北九州CCやU23AOCへの手応えをつかんだという。

チームの結束力を促す一人ひとりの自覚と成長

一方、大きな課題として露呈したのがスタミナ不足だ。ハイパ相手の練習試合2日目は疲労で体が動かず、前日のようなパフォーマンスを見せることができなかった。40分間フル出場した谷口拓磨(2.0)は、疲労はフィジカルの問題だけではなかったと語る。

「圧倒されて負けた時に、疲労を感じたのは体よりもむしろメンタルでした」。実は、これがU23世界選手権の出場権獲得には何より大事なポイントとなる。

11月のU23AOCでは、世界選手権の出場権が与えられる上位3チームに入ることが最大のミッションであり、日本は出場が確定となる決勝進出を目標としている。それをクリアするためには、5日間で7試合という過密スケジュールを耐えられるだけのスタミナが必要だ。

それは決してフィジカルだけではない。ダブルヘッダーの日もあるなか、たとえ敗れたとしても、短い時には数時間で気持ちを切り替えて立て直さなければならない。つまり、戦略・戦術の遂行と並んで、最後までパフォーマンスとモチベーションを高くキープするだけの心のスタミナも重要となる。


U23AOでは過密日程への対策もカギを握る

フィジカルにおいては、残りの日々でどれだけ一人ひとりがスタミナを身に付けられるかが問われる。一方、メンタルにおいてはチーム力の強化も重要だろう。劣勢の時こそ、いかに全員で励まし合い、盛り上げていけるか、チームの結束力が不可欠だ。そのために必要なのは一人ひとりの自覚だが、その重要性を選手たちもよく理解しているのだろう。先日の合宿でのインタビューでは、どの選手からも聞こえてきたのは“チームへの貢献”“コミュニケーション”“リーダーシップ”という言葉の数々だった。

その背景には、「若い世代はリーダーシップをとっていくことも成長するための学びの一つ」と考える中井HCの指導方針がある。今回のU23日本代表では特定のキャプテンは置かずに、全員がキャプテンシーを発揮できるチームを目指した “シェアドリーダーシップ”を採用しているのだ。

そんななか、選手ミーティングで「今のチームに必要なリーダー」が話し合われ、“声出しリーダー”には岡田壮矢(3.5)と川嶋世羅(3.5)、“戦術リーダー”には有吉、“オフコートリーダー”には渡辺将斗(4.0)と望月悠生(2.5)が選出された。すべて選手たちが決めたことだといい、それ自体が「とても大きな成長」と中井HCは語る。

加えて、中井HCがゲームキャプテンに任命したのは、2つの主力のラインナップのいずれにも入り、チームの柱の一人でもある谷口だ。その理由を、中井HCはこう語る。


ゲームキャプテンとして周りに目を配る谷口

「彼は寡黙ではありますが、厳しい場面でディフェンスでガッツを見せてくれたりと、とても内に秘めたものがある選手なんです。そういう部分を買って、ゲームキャプテンだけは私の方で決めさせてもらいました」

もちろんチームを引っ張っているのは、役職のある彼らだけではない。たとえば、小山大斗(3.5)。彼は選手ミーティングで積極的に意見を言ったり、わからないところはその場でコーチに質問するなどという姿が目立ち、試合中もベンチから常に大きな声でコート上の選手たちを鼓舞している。「小山のように元気のいい選手たちが、チームの輪をつくるきっかけを作ってくれている」と、中井HCもその存在の大きさを感じている。


チームからの信頼も厚い小山

U23AOCへの弾みとしたい北九州CC

そんなチームや選手たちのさらなる成長が期待されるのが、U23日本代表として初めて出場する北九州CCだ。同世代のカナダ、スペインの代表チームと2試合ずつ総当たりのリーグ戦を行い、上位2チームで決勝が行われる。

U23AOCの前哨戦と位置づけている北九州CCでのポイントは、大きく分けて2つある。まずは、初戦のカナダ戦だ。U23AOCでは、強豪のオーストラリア、イランと並んで上位3チームに入ることがミッションとなるが、そのために絶対に負けられない相手が近年著しい成長を遂げているタイだ。そのタイと、日本は初戦で対戦することが決定しており、白星発進をして勢いをつけられるかどうかが重要となる。そのため、北九州CCではカナダとの初戦を制し、勝利でスタートを切るイメージを作りたい。

もう1つは、過密スケジュールのなか、いかに勝ち上がっていくかのシミュレーションだ。前述したように、U23AOCは5日間で7試合をこなさなければならず、ダブルヘッダーが2回、1日おきにある。一方、北九州CCも決勝進出の場合は3日間で5試合が行なわれ、大会1、3日目にはダブルヘッダーというスケジュールだ。「予選前に、1日2試合という経験ができるのは大きい」と中井HC。厳しいスケジュールのなかで、決勝進出を果たすことができれば、U23AOCへの追い風となるに違いない。

近い将来、日本代表を背負うことが期待される若き精鋭たちは、果たしてどんな戦いを見せるのか。U23日本代表の初陣は、もうすぐだ。