最終盤を迎えている2024年J1昇格争い。清水エスパルスがいち早く、3シーズンぶりの最高峰リーグ行きを決める中、彼らとの2強体制でJ2をリードしてきた横浜FCが予期せぬ足踏み状態を強いられている。 9月28日の清水との直接対決を1-1のド…
最終盤を迎えている2024年J1昇格争い。清水エスパルスがいち早く、3シーズンぶりの最高峰リーグ行きを決める中、彼らとの2強体制でJ2をリードしてきた横浜FCが予期せぬ足踏み状態を強いられている。
9月28日の清水との直接対決を1-1のドローで終えた時点で王手をかけ、10月6日の鹿児島ユナイテッド戦を1-0で勝ったものの、3位・Vファーレン長崎も勝利。次の10月19日のベガルタ仙台戦で勝てば1年でのJ1復帰という状況になったが、ここで0-3での大敗。四方田修平監督が自信を持っていた堅守が崩され、チーム全体に暗雲が立ち込めた。
さらに続く10月27日のファジアーノ岡山戦ではまさかの4失点を喫し、選手たちが茫然自失状態に陥った。そこから巻き返して2点を返したものの2連敗。これで王手から3戦足止めで「長崎の逆転もあるのでは」とささやかれる事態になってしまった。
そこで四方田監督はベースである守備の修正を図った。失点の少なかった横浜FCにとって2試合7失点というのは異常事態以外の何物でもない。11月3日の栃木SC戦に向けてボランチに小倉陽太を抜擢。守備強度アップを図ったという。そのうえで、点を取れる陣容を送り出すことが肝要だ。今回は高橋利樹が出場停止ということで、最前線に櫻川ソロモンを起用。2列目のジョアン・パウロと小川慶次朗に代えて、カプリーニと室井彗佑をスタメンに送り出したのだ。
高さに秀でた櫻川、スピードのある2列目を置けば、外からクロスを入れても競り勝てるし、こぼれ球も拾える…。指揮官にはそんな計算もあったのだろう。手堅い守備をモットーとする栃木相手には妥当な戦略だったと言える。
■「今までやってきたことを突き詰めていくしかない」
実際、横浜FCは前半から押し込み、特に右ウイングバックの山根永遠が立て続けにクロスを入れるが、少しズレたり、いいボールが入っても中で合わないなど、得点に至らない。0-0で試合を折り返すことになった。
この時点で長崎はジェフ千葉と1-1。このまま行けば横浜FCは引き分けでもJ1昇格を勝ち取れる状況だった。それでも四方田監督は何とか勝ち切るべく、攻撃のギアを上げようとする。しかしサイド攻撃が単調になりがちで、頼みのリスタートもあと一歩足りない。途中からジョアン・パウロや村田透馬、伊藤翔ら持てる駒を送り込んだが、それも不発に終わってしまった。
そんな終盤、長崎が2点目を挙げたという情報が飛び込んだ。スコアレスドローではまたしても足踏みになる。それだけは回避したかったが、栃木の守備ブロックは硬い。結局、横浜FCは1点が遠いまま、昇格を決められないまま、ホーム最終戦を終えることになった。
「今日の課題は点が取れなかった。今までやってきたことを突き詰めていくしかない。選手たちは2連敗して不安もあったと思うが、顔を上げて切り替えてやってくれた。試合後も『ここれ絶対に崩れちゃいけない』『やっていたことを信じてやろう』という声も増えてきた。今週を上回るような1週間を送ることが今の状況を打破することにつながると思っています」と四方田監督は試合後の会見で自らに言い聞かせるようにコメントしていた。
■「これだけの壁は監督になって初めてかもしれない」
その後、筆者は指揮官と1対1で話す機会に恵まれたが、「正直言って、これだけの壁は監督になって初めてかもしれない」と本音を吐露していた。四方田監督は2015~17年にコンサドーレ札幌、2022年から現在まで横浜FCを指揮し、2016年と2022年にJ1昇格を果たしているが、過去2度はもう少しすんなり物事が進んだ。1か月以上も苦境が続けば、メンタル的に難しくなるのも当然のこと。それでも「何か魔法があるわけじゃない。積み上げてきたものを出すしかない」とベースを変えることなく戦うしかないと割り切って、必死に前を向いている様子だ。
「今は我慢比べみたいな状態だけど、先制点が入れば全てが変わる。そうすれば相手も出てくるから。相手も研究し来ていると言われるけど、それはもうシーズンの最初から同じ。もちろん終盤になれば敵のストロングを消すという傾向は強まっていますけど、自分たちは先制点を取るしかないんです」と指揮官は強調していた。
それを11月10日の最終節・レノファ山口戦でやらなければ、1年での最高峰リーグ返り咲きの道は開けてこない。勝ち点3差の長崎はホームで愛媛FCを迎えるということで、勢いに乗っている。彼らが取りこぼしをする可能性が低いだけに、横浜FCは堅守と勝負強さを取り戻して、勝利するしかない。
指揮官人生を賭けた大勝負で四方田監督は自分流を貫けるのか…。この一戦は見逃せない。
(取材・文/元川悦子)
(後編へつづく)